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射城学園の殺し屋  作者: 黒楼海璃
壱 『異常』に『異常』で『普通』じゃない
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漆殺

「……い……おい……じゅう兵衛べえ……おい銃兵衛!」

「……ハッ!」


 俺はガバッと起きる。すると横にシュンがいるのが見えた。


「お前大丈夫かよ。魘されてたぞ」

「ああそうか。悪いな。ちょっと夢見が悪かっただけだ」

「そ、そうか……」


 すると枕元に置いていた俺のスマホの着信音がなる。画面を見るとそれは非通知だった。


「……もしもし」

『大変だよ銃兵衛君!』


 恐る恐る出てみるとそれは理事長だった。とても慌てている。


「どうしたんですか理事長。そんな慌てて」

『どうしたもこうしたもないよ! 君が暴れてるんだ!』

「え?」

『寮の娯楽広場に来たら、何の前触れも無くいきなり暴れ出したんだ! 今優子さんが抑えてるけど、兎に角早く来て!』

「分かりました。すぐ行きます」


 俺は電話を切るとすぐに考える。またあれか。俺の夢といい、これは偶然か?だが考えてる暇は無かった。


「ど、どうしたんだよ銃兵衛」

「急用が出来た。女子寮に行く」


 訳が分からないシュンを差し置いて俺はベッドから飛び降り、すぐさま女子寮に向かった。



 俺が女子寮に即効で来ると、入り口には理事長がいた。


「銃兵衛君こっち!」


 俺は理事長に連れられ、女子寮に入る。男子が入るのは厳禁だが、今は緊急時だ。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 連れてこられた部屋は少し大きい室内広場だった。そこで伊佐南美が発狂していた。


「ぐゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 デカイ声を出し、ほうじょうさんが羽交い絞めにしているのを無理矢理振り解こうとしている。そして俺は伊佐南美の目を見る。間違いない。あれだ。


「北条さん!伊佐南美を放したらすぐに離れてくれ!」


 俺に言われるままに北条さんは伊佐南美を放し、自分もバク転で離れる。拘束を解かれた伊佐南美は再び暴れ出そうとした。


「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「伊佐南美!」


 だがその前に俺が伊佐南美に抱きついた。伊佐南美は俺の腕に噛み付く。腕に痛みが奔る。


「伊佐南美! 俺だ! 落ち着け!」


 だが今は関係ない。俺は伊佐南美をもっと強く抱きしめる。


「伊佐南美! 伊佐南美!」

「うぅぅぅぅぅ……」


 俺が伊佐南美を何度か呼ぶと、伊佐南美は静かになる。


「お、お兄ちゃん……」

「落ち着いたか、伊佐南美」


 そして俺は伊佐南美をもっと抱きしめる。優しく、そしてこいつの頭も撫でる。優しく、あれを抑え込む様に。出来るだけ優しくする。そうすればコイツはちゃんと大人しくなる。


「お、お兄ちゃん、私……」


 伊佐南美は自分のやった事を物凄く後悔している。けどあれは仕方が無い。


「何も言わなくて良い。お前は悪くない。お前は悪くない」


 俺は伊佐南美の頭を何度も何度も撫でる。すると伊佐南美の目からポロポロと涙が零れる。またあれが出ちまったが、なんとかなったな。


「よしよし伊佐南美、泣きたきゃ泣け。泣ける時に泣いとかないと死んだ後で後悔するぞ」

「う、うん……」


 伊佐南美は返事をすると涙を流しながら俺に抱きつく。俺も伊佐南美を優しく抱きしめる。


「……お兄ちゃん大好き……」

「ああ、俺もお前が大好きだぞ」


 はあ、だから俺はシスコンになりつつあるんだよな。まあ、こいつもブラコンだけど。


「えっと銃兵衛君……」


 するとここで理事長が声を掛ける。俺は伊佐南美を抱いたまま言う。


「理事長、伊佐南美はちょっとした精神的トラウマがあって、時々さっきみたいな発狂を起こすんです。詳しい事は言えないんですが、今のがまた起こったらまた俺を呼んで下さい。俺が来るまではこいつを容赦なく拘束しても良いです。ていうかそうして下さい」

「え、でも」

「お願いします。こいつにはさっきの状態で人殺しはさせたくないんです」


 理事長は少し黙る。そして口を開く。


「……分かった。そうさせてもらうよ」

「ねえお兄ちゃん」


 すると不意に伊佐南美が俺を呼ぶ。


「何だ伊佐南美」

「いい機会だから私ね、今のがまた起こったら出来るだけ耐えてみる」

「は?」

「だっていつまでも放っておく訳にもいかないもん。だから今のをちゃんと制御したいの」


 こいつの目は本気だった。俺は心配だったが、こんな事を言うこいつはこいつで成長したかもしれねえ。


「……無茶はするなよ」

「……うん!」


 伊佐南美は返事をすると俺の胸に顔を埋める。かと思ったらすぐに理事長を見る。


「理事長さん、本当にすみません。ご迷惑かけちゃいました」


 そしてペコリと頭を下げて謝罪する。理事長は何かを言おうとして口を開いたが、慌ててすぐに口を閉じて台詞を呑み込む。


「いや、別に気にしないでくれ。それよりも優子さん」

「はい」

「……至急業者に連絡をして」

「了解しました」


 北条さんは席を外すと携帯で電話をかける。しっかし伊佐南美、お前どんだけ暴れたんだよ。窓は全部割れてるし、壁はあちこち切り裂かれてるし(恐らく手刀)、床もコンクリが一部めくれてるし、派手にやりやがったなコイツ。まあ、死者がでなかっただけ良かったか。


「お兄ちゃん、しゅきー」


 ちなみに当の本人は俺の胸に顔を擦り付けていた。甘えるみたいに。お前本当二重人格みてえだな。

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