陸殺
俺は夢を見ている。しかもまたあの夢だ。あまり思い出したくない。でも、見てしまう。
「はあ、はあ、はあ……」
ここはある神社の一角。そこに当時八歳の俺と七歳の伊佐南美、そして『居錠』と名乗る黒づくめ全身血塗れの男。そして目の前には今の俺でも分からない『何か』。
「ご、ごめんなさい、俺の、俺のせいで……」
俺は怯えでとても震えていた。伊佐南美も俺に抱きついて怯えている。すると男はこっちを向いた。俺は怒鳴られるかと思った。だが違った。
「銃兵衛、君は忍者が好きか?」
いきなりの質問に驚くが、コクリと俺は頷く。
「じゃあ銃兵衛、君は強い忍者になれ。どんな人間だろうと確実に殺せるぐらい強い忍者になれ」
この男は俺達兄妹が忍者の末裔である事を知ってるかの様に言う。
「も、もしならなかったら」
「なれる。君ならなれる。絶対だ。そして強くなったら、絶対に伊佐南美を守れ」
「え……」
「妹を守るのは、兄の務めだろう」
男は血塗れなのに笑顔で言う。そして俺はまたコクリと頷く。
「よし銃兵衛、君は良い子だ。それじゃあ、今ここで伊佐南美を守ってみろ。あいつから」
「え……」
俺は『何か』を見る。けど思い出せない。『何か』が一体どんな形状だったかを。思い出したくても何故か思い出せない。
「む、無理だよ。こんなの、俺には……」
「出来る。君なら出来る。君はやれば出来る子だ。これを使え。俺にはもう戦う力は殆ど残ってない」
そう言って男はその場に倒れると、俺の目の前にとても重たくて鞘が黒光りしている一本の刀を差し出し、俺はそれを受け取る。
「これは……」
「それはな、君を強くしてくれる刀だ」
「俺を、強く?」
「ああそうだ。銃兵衛、それを抜け。君なら出来る。君なら出来る。君なら、伊佐南美を守れる」
男がそう言うと、突然俺の周りを何かが包み込む。
「な、何……」
「さあ頑張れ、服部半蔵の末裔、銃兵衛」
何故、俺と伊佐南美のご先祖様が服部半蔵である事を男が知ってるのか、俺には分からなかった。
「銃兵衛、抜け。抜いて、戦って、伊佐南美を守れ!」
男は血を吐きながら言う。
「お、お兄ちゃん……」
すると俺に抱きついている伊佐南美がこっちを見る。泣きたいけどあまりの恐怖に泣けなかったみたいだが、伊佐南美の目から涙がポロポロ落ちてくる。それを見た俺は刀を抜く。そして俺を包み込む何かは一層濃くなる。
「オジさん、俺やるよ。伊佐南美を絶対守るよ」
「守れ。君なら出来る。絶対出来る! あと俺はオジさんじゃないぞ」
そして俺は包まれた。多分、人生で初めて出した、とても大きい殺気に。この時点で俺はもう目の前の相手を殺す事しか頭に入ってなかった。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。伊佐南美を虐める奴、伊佐南美を嫌う奴、伊佐南美を馬鹿にする奴、伊佐南美を傷付ける奴、伊佐南美を泣かせる奴、伊佐南美を殺す奴全部殺す。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!」
「銃兵衛、伊佐南美が怯えてるぞ。抑えて抑えて」
男の言うとおり、伊佐南美はさっきよりも怯えている。すると俺は表情を笑顔に変え、伊佐南美の頬に手をやる。
「伊佐南美、今から兄ちゃんがお前を泣かす奴をやっつけるからな」
「……うん」
伊佐南美はゆっくりと頷く。それを確認した俺は刀を握る。
「殺す。絶対殺す」
俺は『何か』の前に出る。すると男がゆっくりと立ち上がり、俺の前に出る。
「銃兵衛、せめて一撃分はやらせてくれ」
そう言うと男は地面に落ちていた一本の刀を拾う。これもその男の所有刀みたいだ。
「……桜花繚乱・桜の様に散れ!」
突然男の姿が消えた、かと思ったら男は『何か』の前にいた。そして、
パァァァァァァァァン!
「―――――――――――――――――――――!」
突然大きな爆発音が聞こえ、『何か』は恐ろしく大きい呻き声を上げ、俺と伊佐南美は耳を塞ぐ。だが男は一旦離れる。
「行け銃兵衛!」
そして俺に言う。俺は刀を構えると突っ込む。
「凄い。凄い凄い凄い。出来る。出来るよ。こいつが殺せる。殺せる殺せる殺せる殺せる!」
「グ、グルル、シャァァァァァァァァァァァァァァァ!」
すると『何か』は咆哮を放つ。だが男も大きく息を吸う。
「ハァァァァァァァァァァァァ!」
そして同じ様に咆哮の様なものを放ち、相殺させる。おかげで俺は『何か』の前まで到達した。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね!」
そして斬撃を放ち、『何か』の腹に刺さる。『何か』はまた大きな呻き声を上げる。すると、後ろから何かに引っ張られる。
「銃兵衛、訂正だ。とどめも俺に……」
「ヤダ」
俺を引込ませようとした男の腕を払い、突っ込む。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す!殺して、伊佐南美を守る!」
俺の殺気は更に強くなる。
「ハァァァァァァァ!」
俺は刀で『何か』を斬った。それと同時に男が、自分が握ってた刀で『何か』の腹を刺す。そして男は俺を蹴り飛ばす。俺はそのまま伊佐南美のいる所まで吹き飛ばされた。
「銃兵衛、更に訂正だ。俺にはまだ力が残ってた。こいつと一緒に道連れになる力がな!」
「ま、待ってよオジさん!」
「じゃあな。またいつか会える日まで。それとさっきから言ってるが、俺はオジさんじゃない」
男がそう言うと、何かをブツブツ唱えた。そして次の瞬間、
ドォォォォォォォォン!
「うわぁあああああ!」
突然大爆発が起こり、俺と伊佐南美は吹き飛ばされ、俺は気を失った。そして次に目を覚ました時、俺は家で寝かされていた。