伍殺
北条さんに連れられやって来たのは二つの大きな建物。手前の建物に『女子寮』と書かれたプレートがあった。どうやらこっちが女子寮みたいだ。
「じゃあ伊佐南美君はボクが連れてくから、優子さんは銃兵衛君をお願い」
「かしこまりました」
「え……」
伊佐南美の呼び方がさん付けから君付けに勝手に変わっている理事長に北条さんが丁寧に返事をすると伊佐南美の顔が暗くなる。
「どうした伊佐南美?」
「り、理事長さん、私、お兄ちゃんと一緒の部屋に住めないんですか?」
「は?」
こいつ何言ってるんだ。伊賀にいた時はあの家で一緒に暮らしてたが、いくら何でも学生寮でそんな事許される訳ないだろ。
「うーん、それも検討したんだけどね、いくら兄妹でもされは流石に駄目だよ」
「えー!?」
伊佐南美は案の定驚愕する。てか理事長さん、そんな事検討せんで下さい。
「やだやだやだ! お兄ちゃんと一緒が良いー!」
そして伊佐南美は駄々を捏ね始める。こいつには困ったモンだ。いっちょきつく言うか。
「伊佐南美、そんなにお前は俺に拷問されたいか?」
「……ガマンします」
「宜しい」
伊佐南美は一瞬で落ち着く。これには理事長も引き攣っていた。
◇
女子寮の前で別れた俺は北条さんに連れられて男子寮に向かう。
「着きました」
そこは『男子寮』と書かれたプレートが立てかけられた真新しい建物の前まで来た。
「そういや北条さん、一つ聞きたい事が」
「何でしょう」
「この学校、元々は女学校だったんですよね」
「はい」
「だったら、男子は何人ぐらいいるんです?」
「銃兵衛君を含め二人です」
少なっ!? と思ったが、元々女学校なんだ、少なくて当然だ。
「でもその割には部屋数が多そうな……」
「お気になさらずにこちらへ」
俺の疑問を他所に北条さんは進む。まあ良いか。俺一人って訳じゃないし。寮の中はとてもピカピカだった。どうやら建てられてまだ日はあまり経っていないみたいだ。そして北条さんが一つの部屋の前まで来た。
(コンコン)
「どうぞー」
北条さんがノックをして返事が帰って来た。
「失礼します」
北条さんが入ると部屋の中はどうやら二人部屋の様だ。二段ベッドで、机も二つある。だがその一つは既に使われている。返事をした声の主が。
「神楽坂君、彼が編入してきた服部君です。服部君、荷物は明日届く筈です。では」
北条さんはそう言うと部屋を出て行った。なんかこれだけサッサと出て行ったのは何故ですか北条さん。かと思ったら、何故北条さんがサッサと出て行ったのか、理由はすぐ分かった。それはこの男子のだらしなさだ。まず髪はボサボサ、ちゃんと洗ってはいるがスゴイ寝癖だ。所々跳ねている。それに服も服だ。上はド派手な長袖シャツに下はボロイジーパン。それに机の上はかなり散らかっている。教科書と漫画が一緒くたになってたり、シャーペンやら消しゴムやらの文具が机の上で散乱している。そしてベッドのシーツもグチャグチャに乱れている。元に戻した形跡が全く無い。それに脱いだ寝間着も置きっ放し、漫画も何冊かある。もしかして北条さんは綺麗好きなのかもしれない。だからサッサと出て行った。そういう事にしておこう。
「あんたが噂の転校生か?」
「あ、ああ」
「俺、神楽坂俊介。気安くシュンって呼んでくれ」
「服部銃兵衛だ。銃兵衛で良い」
「そっか。んじゃあ宜しくな銃兵衛」
そう言って神楽坂俊介は俺の前に手を出す。
「あ、ああ、宜しくシュン」
俺も少し引いたがここは握手に応じよう。少なくとも悪い奴ではなさそうだ。というかさっき分析したが、こいつは戦闘能力は素人同然だしな。
「へっ、なーに戸惑ってんだ。心配すんなって、仲良くしようぜ!」
そう言ってシュンは俺の肩を叩く。どうもとっつき難いと思ったら、こいつは多分、伊賀異業学園にいた時の坂田啓次に似ている。あいつも出会いたての時はやたら馴れ馴れしかった。その後から坂田は事ある毎に俺に構ってくる。本当にウザかった。でもこのシュンはそういう雰囲気は出さない。何というか、接しやすい馴れ馴れしさだ。
「んでよ銃兵衛、早速何かあるか?」
「えっと、なあシュン、お前は何でこの学校に来たんだ?」
「俺が『異常』だからさ」
シュンは即答する。今の返事で分かったが、どうやらこの学校は『異常』を育成しているだけで、戦闘訓練の類は全く無いみたいだ。
「他にはあるか?」
「シュン、お前はいきなりここに転校させられて嫌じゃないのか?」
「何言ってんだよ。そりゃこんな遠くの学校に来たのは不本意だけどよぉ、何とかなるさ。ハッハッハ!」
「……そうか」
こいつもこいつで変わってるな。てかこいつの何処が『異常』なんだ。多分だらしなさ系だと思うが。
「んで銃兵衛、他には?」
「え、あ、そうだな、とりあえずムチャクチャ眠いから少し寝る」
「ん、あっそ。じゃあ飯になったら起こすわな」
「ああ、頼む」
俺はシュンの腕を振りほどくとすぐさま二段ベッドの上に上り、サッサと寝た。