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射城学園の殺し屋  作者: 黒楼海璃
弐 『異常』な幕開け(スタート・オブ・ゼウス)
28/44

弐拾漆殺


 正午。

 怪我人を運び終え、俺は休憩室でブラックコーヒー片手に寛いでいた。隣にはチョコンと座っているがココアをんくんくと飲んでいる。

 ぷはぁーとココアを飲み干した伊佐南美は空き缶を自販機の隣にあるゴミ箱目掛けて放り投げた。空き缶はゴミ箱にあたると金属音を立ててゴミ箱の中に入っていく。


「ねえねえお兄ちゃん」

「ん?」

「あのお姉さん達さ、何時に殺しに来るんだろうね?」


 ……しまった。いきなり手榴弾を投げられたせいで犯行時刻を聞いておくのをすっかり忘れてた。


「知らん。俺に聞くな。ていうか伊佐南美、全然関係ない話なんだが」

「なぁーに?」

「お前さ、15歳なんだからもう少し恥じらいってのを覚えろよ。さっきお前がベレッタ抜いた時、『普通』にパンツ見えてたぞ」


 俺が指摘してやると、伊佐南美は顔を薄っすら赤く染め、慌てて両手でスカートの裾を押さえる。


「むぅ! お兄ちゃんのエッチ!」

「見られんのが嫌ならスパッツぐらい穿けよ」

「持ってないもん」

「じゃあ買いに行け」

「お金持ってきてないもん」

「じゃあ金出してやるから今から買って来い」


 俺は伊佐南美に財布を押し付ける。


「ついでに俺達3人分の昼飯も買ってきてくれ」

「……はーい」


 伊佐南美はジト目で俺を見ながら返事をすると煙の様に姿を消した。


「さてと、一体どうしたモンか」


 俺はコーヒーを飲み干し、今晩の事について考える。正確な時刻が分からないと襲撃を阻止する事は出来ない。しかも相手は、『異常』な危険人物。俺達が負ける可能性は、極めて高い。

 そう断言出来る理由は、俺と伊佐南美の実戦経験にある。今まで俺達が相手をしてきた奴らは全員が『普通』の人間達。そりゃあヤクザ達を相手にした事もあれば凄腕のボディガードを相手にした事もあった。けどソイツらは所詮『普通』の人間。『異常』な俺達の敵では無かった。でも今度の相手は『異常』に『異常』な人間達。


「せめて時間が分かれば良いんだがな……」


 俺が溜息を吐いて空き缶をゴミ箱に放り投げると、ポケットのスマホから着信が来た。誰だろうと思い画面を覗き込んでみると、非通知だった。


(……最近俺の電話は非通知が多いな)


 俺はそう思いつつ電話に出る。


「もしもし?」

『よお暗殺者』

「ッ!」


 おいおい。どうやって俺のケー番を調べたかは知らねえが、この声は、


「昨日ぶりだな。真田さなだゆき

『確かにそうだな。服部はっとりじゅう


 ふむ。どうやら俺の個人情報も色々と調べたみたいだな。俺達の情報に関しては結構堅いブロックを付けてたんだが。


「で、何の用だよ。まさか、さっき来たガン・ウーマンの変わりに文句でも言いにきたのか?」

『いいや違う。ちょっとお前に言っておく事があってな』

「言っておく事? 何だよ」

『俺はてめえとり合いたい。だから俺は夜9時に、お前と初めて会った港で待ってる』


 ……は?


「おい、どういう事だよ」

『そのまんまだ。どうせお前らも始末しないと如月きさらぎ百合ゆりひめは殺せねえんだ。だったら先にお前達を殺しに掛かるって言ってんだよ』

「……そっちは何人で行く気だ?」

『2人。俺とリドカだ』


 嘘だな。いくら7年前にあらしざきかえでさんを殺す為に人員が犠牲になったからって、俺達の相手をしてる内に百合姫様を殺す事ぐらい簡単かつ『普通』に出来る。しかも今のこっちに戦える奴は俺と伊佐南美しかいない。そのチャンスを態々捨てるなんて事は……


『信じてないみてえだけど、今他の連中は別仕事でな。暇なのは俺とリドカしかいねえんだよ』

「本当なのか。それ」

『これから戦う奴に嘘は付きはしない。それに、俺とお前が戦う事には意味はあるぜ』

「どういう事だよ」

『とぼけんなよ。もう知ってんじゃねえのか? 俺の先祖が真田さなだ幸村ゆきむらだって』

「ああ。知ってる」

『そしてこっちも色々調べた。お前と、お前の妹は服部はっとり半蔵はんぞうの末裔らしいな』


 なんだ。伊佐南美の事まで調べたのか。それに分かってるみたいだな。俺と刃刃幸が戦う意味が。


『俺の先祖は大阪夏の陣、冬の陣で豊臣側に味方をした。そしてお前の先祖は徳川に仕えた。これは必然的に、豊臣と徳川の決着を付ける殺し合いだ』

「そうだな。表では豊臣と徳川の争いは終わった。けど、裏ではまだ終わってない」

『ああ。398年前の裏での戦いは、一旦休戦に持ち越された。そして398年後の今、その休戦を解く時だ』

「随分と長い休戦だな。いいぜ。相手になってやる。こっちも人の獲物を取られた恨みがあるんでな」

『決まりだな。待ってるぜ』


 刃刃幸はそう言い残してブツッと電話を切った。

 さてと、まず百合姫様へ害が及ぶ事は多分避けられそうだな。刃刃幸とリドカの2人だけってのが嘘だったとしても、奴は必ずと俺と戦う事を望んでいる。これで紫苑しおんさんや他の人達への負担が大幅に減る筈。あとは、


「お兄ちゃん、ただいまー」


 ちょうど良いタイミングで伊佐南美が帰って来た。しかも、さっきまで電話をしてたのだろうか、スマホを手に持っているしな。



 私がお買い物から帰って来た時の事。


「まったくお兄ちゃんは。人遣い荒いし、すぐに人をパシるし、エッチだし。プンプンだもんッ!」


 私が顔をプクーっと膨らましていると、ポケットのスマホから着信音が鳴った。取り出して着信画面を見てみると、それは非通知だった。誰だっろうなって思いながら電話に出る。


「はい、もしもしー?」

『こんにちは。お嬢ちゃん』

「ッ!」


 えっ! 嘘ッ!?


「こ、こんにちはー。さっきぶりですねーガン・ウーマンのお姉さんことリドカ・カナリーさん?」

『そうね。さっきぶりね。服部伊佐南美ちゃん?』


 何でさっき逃げたガン・ウーマンのお姉さんが私に電話掛けてきたの!? ていうかどうやって調べたの!? しかも何で私の名前知ってるの!? こっちは情報漏れるの嫌だから厳重にブロック掛けてるのに!

 でも、ちょっとハッキングしてちょっとイジくれば『普通』に分かるか。


「そ、それで、さっき逃げたお姉さんが一体何の用ですかー?」

『お嬢ちゃんさ、あたしを殺したいと思わない?』

「うん殺したいよー。ていうか今すぐにでも殺しに行きたいですー」


 私が即答したのが意外だったのか、暫しの沈黙の後、


『そう。じゃあ今晩、あたしとり合わない?』

「……え?」


 このお姉さん何言ってるんだろう。それって要するに来いって事?


『本当はね、さっさと如月百合姫を殺したかったんだけど、あんた達がいるせいでそれが出来ないみたいなのよ。だから先にあんた達を殺そうと思って。どう、やる?』


 それってどう考えても、百合姫様を殺すから餌に引っ掛かって下さいって言ってるような事だよね?私なりの解釈で言えば。


「それ嘘ですよね?」

『本当よ。今こっちはあたしと刃刃幸しか動けないし、刃刃幸の方はあんたのお兄ちゃんとり合いたいって言ってるし、余り物のあたしで良ければ殺して良いわよ』


 うーん、考える。確かにお姉さんは殺したい。この前人の獲物を取っちゃった訳だし、殺さないと気が済まない。でもだからと言ってこの人の言葉を鵜呑みには出来ない。


「でもやっぱりお姉さんの言ってる事信用出来ないなー」

『あらそう、それは残念ね。じゃああたしは刃刃幸と一緒にあんたのお兄ちゃんを殺しに行くわ。アイツがトドメを刺した後に吊るして的にでもしようかしらね』

「おい」


 あーあ、やっちゃったよお姉さん。私もだけど。


「あんた、私の大好きなお兄ちゃんに手出すなんて、良い度胸だね」

『……だって仕方ないじゃない。あんたが相手してくれないんだし。あんたのお兄ちゃん、女に縁が無さそうだから、あたしが遊んであげるわよ』


 フフフ、とお姉さんの笑い声を聞いた途端、私の中から『異常』な怒りが湧いてきた。あーあ、こうなるのは駄目だって分かってるのに。私はいつもこうやって相手の口車に乗せられちゃう。悪い癖だなぁ。後でお兄ちゃんにお仕置きされちゃうよぉ。

 でも、私もお姉さんとり合いたい。お兄ちゃんに近づくクズ共達を片っ端から潰していかないと。


「良いよ。そんなに私と戦いたいんだったら、乗ってあげる」

『あら?そう。それは良かったわ。じゃあ、今夜9時に――で待ってるわよ』


 お姉さんはそう言って電話を切った。お姉さんから聞いた場所は、千葉県のとある森。

 森か。これはこれで私も有利。なんせ私はお兄ちゃんと田舎暮らし。森なんて身近なものだったから、多分なんとかなる。そう考えながら私はお兄ちゃんのいる休憩室に戻った。



 伊佐南美の話を聞き終え、俺も伊佐南美にさっき電話の事を話した。


「結局、俺達は別々の所で戦わなければいけない。しかも俺の方は398年前の決着を付ける戦いだ。正直キツいぜ」

「だったら私も一緒に行く。服部家の事情なら私だって」

「駄目だ。お前はリドカと戦わなきゃいけないだろ。それにこれは服部家の長男である俺が行くのが理に適ってる」

「で、でも……」


 伊佐南美は俯く。俺の事が心配な気持ちは分からんでもないが、コイツは全然兄離れしねえな。


「伊佐南美、俺は簡単に死んだりはしない。だから安心しろって」


 俺が伊佐南美の頭を撫でながら宥めると、伊佐南美は顔を横に振る。


「そういう事じゃないもん」

「そういう事じゃないって?」

「私は、お兄ちゃんに獲物を半分貰われるのが嫌なのッ! 2人とも私がブッ殺したいのッ!」


 そこかよっ! 俺の心配ゼロかよっ!


「伊佐南美お前、それだったら俺の方も同じ事言えるぞっていうツッコミは置いとくとして、俺への心配は無いのか?」

「だってお兄ちゃん、殺されても死なないでしょ?」

「な訳あるか」


 まるで俺が1回死んだのに蘇ったみたいな物言いだなそれ。でも実際には死んだ事も、ましてや蘇った事も無い。ていうかもし蘇れるなら伊佐南美の玩具に――嬲られるという意味で――されるだろうが。


「ふーん、そっかー。じゃあお兄ちゃん頑張ってね!間違っても死なないでよ?」

「分かってるって。大体、俺達を殺せる人間なんて、早々いねえよ」

「うん! そうだね!」


 うわぁ、伊佐南美の笑顔超可愛い。これでもし死んでも悔やむ事は無いかな。

 いや、あるか。俺が死んだら伊佐南美が逆ギレする。ていうか伊佐南美が死んでも俺が逆ギレするか。まあ、どのみち『暗殺影シャドー』と『暗殺霞ミスト』は絶対の最強コンビ。どちらかが死んでももう片方を殺す事は絶対に出来ない。


「よし、それじゃあそろそろ紫苑さんトコ行くか」

「うん!」


 なんせ俺達は互いに、『異常』にシスコンで、『異常』にブラコンだから。


「あ、そーだ。スパッツ今穿いちゃお」


 伊佐南美はさっき(俺の金で)買ってきたスパッツを出すと、スカートを捲り上げてそのまま穿き始めた。のだが、


「んしょっと。よしオッケ!」

「伊佐南美、またパンツ見えてたぞ」


 俺が指摘してやると、伊佐南美は顔を赤く染めて慌ててスカートの裾を押さえる。


「もうっ! お兄ちゃんのエッチ! どうしてお兄ちゃんは私のパンツばかり見るの! お兄ちゃんは妹のパンツを覗くのが趣味なのッ!?」


 伊佐南美が尋ねてくるので、俺は伊佐南美の体をしげしげと見る。うん、間違いない。


「あのな伊佐南美、何で俺が、背が低けりゃ胸も小さくて餓鬼ぽっい体をしたお前のパンツを見るという趣味を持ってんだよ。有り得ない有りえない」


 ――ズドーンッ!


「……お兄ちゃん、それどういう意味?」


 うむ。さすがは我が妹だ。右拳での殴りに加えて左足による回し蹴りを同時に繰り出すとは。それで後はその両方の攻撃を俺に苦も無く受け止められるっていうのが無ければ良かったんだがな。


「安心しろ伊佐南美、世の中にはお前みたいな餓鬼っぽい体をした女の子を好む男とかいるんだぞ」

「べ、別に、私は好きで体が成長しないんじゃないんだもんッ! いつかはお母さんみたいなセクシーな体になるんだもんッ!」


 あーそういや確かに母さんってすげえ体してたよなぁ。胸は凄え大きかったし(本人曰くJかKカップだったらしい)、脚とか腕とか、他の所の肉付きも凄え色っぽいし、顔も凄え美人で、ちょっとの仕草で男が一発で落ちちまう様な色気を持っていたな。けど一番凄い所はその色っぽい肉体で暗殺対象の男を釣り上げてそのままっちまうって所だ。しかも母さんの体は男だけでなく、女でさえも引き付ける魅力を持っている。母さんの色っぽい体を怨む者もいれば羨ましがる者もいる。母さんはそういった人達を言葉巧みに騙して最後にはる。流石は、12歳の頃から多彩なわくじゅつを使い、今までに30000人以上の男女を確実に落としてきた『暗殺蠱セクシー』っていう二つ名を持って日本政府に要注意女性としてマークされてただけの事はあるな。


「伊佐南美、母さんが昔言ってたんだがな、母さんが今のお前ぐらいの年の頃にはもう既に色っぽい体をしてたらしいぜ。見た目も可愛くてその上優等生だったから毎日の様に男共が告白に来てたぐらいだってよ」

「だから何?」

「未だに体がほぼ未発達なお前が今更母さんみたいになれる可能性は薄いって言ってんだよ」

「お兄ちゃんブッ殺す! 今すぐ殺す!」


 ヤベッ、調子に乗りすぎた。伊佐南美から『異常』な殺気が出始めた。このまま出しておくと発狂しかねん。


「伊佐南美、もしお前が母さんみたいな色っぽい体になったらご褒美やるぞ」

「許します! 頑張ります!」


 うんうん、伊佐南美の殺気が一瞬で収まっていく。流石は我が妹。実に扱いやすい。


「それに、お前が色っぽくなったらこっちも手出す楽しみが増えるしな」


 俺が冗談半分で笑いながら言うと、伊佐南美の顔が真っ赤になりだした。


「そ、そんなお兄ちゃん、駄目だよ。きょ、兄妹でそんなエッチな事し合ったら」

「隙あり」


 ここで俺は油断してた伊佐南美の左足を掴んでポーンと投げ飛ばす。


「ひゃあっ!」


 伊佐南美はそのまま受け身も取れずに尻餅をついた。スパッツを穿いてるおかげでパンツも見えていないし、これはこれで一安心だな。


「もうっ! お兄ちゃん酷いよっ!」

「伊佐南美、さっき言ったのは冗談だぞ? 真に受けんなよな」

「なぁーんだ。本気だったら『生涯とわなぶり』しようかと思ったのに」


 わぁーマジで調子に乗りすぎたー。やっぱこの超怖えー

 俺は心の中で反省しながら尻餅をついた伊佐南美の頭をナデナデしてやり、2人一緒に紫苑さんの所に向かった。



 俺と伊佐南美は、別室にいた紫苑さんに昼飯を食いながらさっきの電話の事を話した。


「……ふーん、そっか。向こうには君達の事が完全にバレちゃったんだ」

「みたいですね。まあ、表の情報だけだと思いますけど。裏の方はこうげんの奴が『異常』なまでに堅いプロテクトを掛けてるみたいなんで」

「そう。それは安心だね。はむ」


 紫苑さんは伊佐南美が買ってきたコンビニの鮭オニギリにパクつく。


「ん~! コンビニのオニギリ初めて食べるけど美味しい~!」


 そしてこの喜び様。あまりに嬉しいのか、ウットリとしてるし、一緒に買ってきた自販機のお茶も美味そうに飲んでいる。回転寿司の時と言い、本当にこの人脳内が大衆的だな。


「あ、そういえば銃兵衛君、さっき調べてみて分かったんだけどさ、真田刃刃幸が君と最初に会った時、何で銃兵衛君にヨウサイって名乗ったかが分かったよ」

「何故なんです?」

「ヨウサイってのはね、真田刃刃幸の二つ名、『黒い妖塞ブラック・フォートレス』の事なんだよ」


 ああ、成程。そういう事か。何でもっと早く気付かなかったんだよ。


「紫苑さんそれって、要塞・真田丸から取った二つ名ですよね?」

「うん。正解」


 要塞・真田丸。大坂・冬の陣において、豊臣方の真田幸村が大坂城の平野口に構築した出城。その攻防一体の砦は難攻不落とも呼ばれていた。


「じゃあ、あのこくとうは何なんですか? まさかあれも真田幸村の使ってた奴か何かですか?」

「ううん。あれは真田刃刃幸が『異常』に目覚めた時に――詳しい経緯はよく分からなかったんだけど――作られた物らしいよ。凄く重い上に物凄い頑丈で、切れ味も申し分無い。そして真田刃刃幸が出していたあの黒い瘴気はあの黒刀から生み出されるらしいんだ。ちなみに銘は黒刀『幸村』」


 っておい。刀に思いっきし幸村って銘があるじゃねえか。答え丸分かりだろそれ。


「それでリドカ・カナリーの方なんだけど、彼女にも二つ名があるんだけど、これはカラミティ・ジェーンの『平原の女王』と全く同じ。そして、彼女は5歳の頃にアメリカの警察官を事故で射殺してしまって、そこから彼女は『異常』なまでに銃絡みの武器の扱いが『異常』になったんだ。以前伊佐南美君が言ってた、銃弾に銃弾をぶつけるっていうのもその一つだよ」


 成程。向こうは5歳の時から人を殺し始めたのか。俺達なんて俺が4歳の頃に両親が何処からか悪人を捕まえてきて、ソイツで人殺しの練習をしていたしな、あれは正直つまらなかった。伊佐南美は相手を嬲るのが大好きだから凄く楽しんでたみたいだけど、俺の場合は直接闘って殺すのが好きだからな。


「そういや話変えますけど紫苑さん、ずっと思ってた事があったんですけど」

「何?」

「紫苑さんって弱いんですね」


 ――ピクッ

 何故だろう。紫苑さんの体が少し反応した様な、俺をジト目で見てきた。


「……何で、そんな事思ってたの?」

「だって、紫苑さんって東京射城学園で一番『異常』な人なのに、刃刃幸と斬り合いになった時は『普通』に押されてましたし、『盗剣魔』の時の話も粗一方的にやられてた風に思えたんで」

「うん、そうだよ。ボクって弱いよ?」


 あ。あっさり認めた。


「あのね銃兵衛君、射城学園で一番『異常』=一番強いって訳じゃないからね?」

「違うんですか?」

「全然違うよ。ボクの場合はどちらかと言うと術式とか魔術とか超能力とか、そっち方面が得意であって、剣術なんて一度も習った事も無いよ」

「じゃあ、刃刃幸と斬り合いになってた時のあの太刀捌きは何なんですか?いくら押されてても、結構サマになってましたよ」

「え? そ、そう?」

「ええ」


 別に俺はお世辞を言った訳ではない。事実紫苑さんの剣技は悪くはない。少なくとも最低限のほどきは受けている筈だ。

 とか考えてたら紫苑さんは褒められて嬉しいのか、顔を少し赤く染めている。


「い、いやぁ、銃兵衛君に褒められるだなんて正直嬉しいよ。実を言うとさ、ボクは一応剣の扱い方は少しなら教えてもらったんだ。つるぎ先生に」

「ツ、ツルギバ先生?」


 誰だその人。多分射城学園の先生だと思うんだが、という俺の疑問を察したのか、紫苑さんが説明してくれた。


「あーそういえば言ってなかったね。つるぎとう先生。1年W組担任で、射城学園の卒業生だよ」

「卒業生、ですか?」

「うん。ていうかしきざき先生の元同級生だよ」

「は?」


 し、式部崎先生と? あのいつもにこやかな笑顔で授業してくれて、俺が教室でポツーンと1人でいたら――その時は偶々二宮にのみやとシュンとれんざきがいなかった――心配そうに話しかけてくれて、紫苑さんの前でも笑顔を崩していなかったあの式部崎先生と?


「ちなみにとうどう先生とはなぶさ先生は2人の一個下の後輩ね」

「あの、失礼だとは思うんですけど、式部崎先生って年いくつなんですか?見た所若く見えましたけど」

「え、式部崎先生?確か今年で19だった筈だよ」

「……は?」


 じゅ、19? 俺の聞き間違いか?いくらあの先生が若く見えても19は無いだろ。

 という全く信じてない顔をしていたのか、紫苑さんが追加で教えてくれた。


「銃兵衛君、射城学園の教師達は年齢関係無いんだよ。現に最年少で12歳の先生とか『普通』にいるし」

「は、はあっ!?」

「嘘じゃないよ。その代わり、全員『異常』だけどね」


 紫苑さんのその言葉はまるで、背中から氷の上に叩き落された様に、寒気がした。まるで、それ以上聞いてきたら消しに掛かると言ってるみたいに。


「ていうか話が逸れちゃったね。それでね、その剣刃先生って人がちょこっとだけ教えてくれたんだ。剣の修行はそれだけ」

「じゃ、じゃあ、何で超能力とか使わなかったんですか?そっち系の分野が得意ならそっちを使えば良かったのに」


 俺の質問に対して紫苑さんはバツの悪そうな顔になると言った。


「それが出来たらねぇ。確かにボクの使う超能力とか魔術とかの術式は射城学園でも最強レベルと言っても良いくらいだよ。事実、ボクは今までに反乱した生徒を術式一発で消した事もあるし。けどね、ボクには一つだけ欠点があってさぁ」

「欠点?」

「ボクはね、怒り狂ったり復讐をしたりする時って、大概は本能のままに動いてるから術式を使おうにも体の方が勝手に動いちゃってさ。要は術式を発動するという冷静な判断が出来難いんだよ。『盗剣魔』の時は精一杯冷静になって術式使ってたけどさ、あれでも正直自我を保てたのが自分でも凄いよ」


 何故だろう。一瞬この人をアホだと思った。けどそれはそれで気持ちは分からなくもない。俺や伊佐南美だってキレると冷静に技を繰り出す事が出来ない。そこら辺は同情しますけど。


「あーあ、こんな事ならもうちょっと筋肉付けとくべきだったなぁ。ボクって背が低ければ胸も小さいくて色気も無い『普通』の女の子の体してるからねー」

「筋肉付けるのと背が低いのとは別問題だと思いますけど」


 胸が小さい(コクガン表示でBカップ)のと色気が無いという発言をスルーしてフォローを入れる。俺だって身長は178ぐらいで筋肉はかなり付けてあるけど、伊佐南美は155ぐらいなのに俺ほどでは無いものの、筋肉は結構付いてある。主に両親にしごかれて付いたからだけど。


「銃兵衛君、伊佐南美君。今回の戦いは君達が想像している以上に『異常』な殺し合いになるよ。それだけは肝に銘じておいてね」

「はい」

「はーい!」



 夜9時。いつものコクコクリュウコクエンクロ蜘蛛クモ、黒眼のフル装備で俺はとある港に辿り着いた。


「よぉ」


 そしてそこに待っていた。長い黒髪に黒、白、赤、青の浴衣の重ね着、下はジーパン、くろうるしざや太刀たちこしらえの日本刀、黒刀『幸村』を背中に携えた青年、真田刃刃幸が。


「待ってたぜ、服部銃兵衛。さあ、り合おうぜ」

「そうだな。遠慮無くブッ殺させてもらうぜ。真田刃刃幸」


 『暗殺影』と『黒い妖塞』による、約398年前の戦いの続きが、幕を開けた。



 一方同時刻。黒牙、黒竜、黒蜘蛛の装備で私は千葉県のとある森に到着とーちゃく


「来たわね」


 あ、でも先に来てた。金髪でちょっと背の高くて、茶色いガンマンハット、茶色のミニスカート、白シャツに黒いベスト、緑のウエスタンポンチョ、腰のヒップホルスターに拳銃二丁を下げたお姉さん、リドカ・カナリーが。


「やって来た事だし、り合おっか。服部伊佐南美ちゃん」

「そうですねーギッタギタにブチ殺しますよーお姉さん♪」


 『暗殺霞』と『平原の女王』、ドS少女対ザ・ガンウーマンによる、『異常』な殺し合いが、幕を開いた。

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