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射城学園の殺し屋  作者: 黒楼海璃
弐 『異常』な幕開け(スタート・オブ・ゼウス)
26/44

弐拾伍殺

 次の日の朝、若干遅めに起きた俺とは――伊佐南美が俺に抱きついたまま寝ていて起きるのに手間取った――制服に着替えて紫苑しおんさんの部屋の前に来る。俺がノックをしてから数秒経って紫苑さんが出てきた。


「やあ二人とも。おはよう」

「おはようございます」

「おはようございまーす!」


 紫苑さんはニッコリと、俺は無愛想に、伊佐南美は無邪気に挨拶する。その直後に俺と伊佐南美はある事に気付く。紫苑さんがストッキングを穿いていた。


「紫苑さんどうしたんですかそれー?」


 伊佐南美はストッキングを指差して紫苑さんに尋ねる。


「え?あー、うん、ちょっとね」

「伊佐南美、質問を変えたほうが良いぞ。紫苑さん、何があったんですか?」

「な、何がって、何がさ?」

「俺達は忍者ですよ?例えストッキングで足の傷跡を隠したってすぐ分かります。いや、足だけじゃない。全身滅多打ちですね?」

「――ッ!」


 紫苑さんは驚いて目を見開く。嫌でも分かりますよ。足が微妙に震えてるし、体も微妙にフラついている。絶対に俺達と別れた後に何かあった筈だ。


「……中で話そっか」



 時は戻って昨日の午後七時。ボクがじゅう兵衛べえ君、伊佐南美君と別れた後の事。


「はあ、疲れた」


 ボクはポケットからスマホを出して小さなテーブルの上に置き、ブレザーとスカートを脱いでワイシャツ姿のままベッドに突っ伏す。着替えを持ってきてないし、今日はこのままこの格好で寝ちゃおうっかな、と考えていたら、テーブルに置いたスマホが鳴り出した。


「……ゆうさんかな」


 多分事務報告か何かだと思うけど。着信画面を見てみるとそれは違った。非通知だ。優子さんじゃなかったら、一体誰がこんな時間に? と疑問に思いながら電話に出る。


「はい、もしもし?」

『よお、小娘』

「――ッ!」


 相手は男の声。しかもボクはこの男の事を知っている。このタイミングで掛けてくる人間は一人しかいない。


「『盗剣魔ロバー・ソード』かッ!」

『ご名答。けど、それで呼ばれるのはあんまり好きじゃない。俺の事はしばかいと呼んでくれ』

「最後に会った時はみちとしはるだって言ってなかった?」

『あれ? そうだっけ? まあ良いだろ。偽名ダブなんて思いつきだろうが』


 しくじった。この『盗剣魔』こと御子柴魁人という男は、『ZEUS』のエージェント。しかもコイツは七年前にお祖母ちゃんを殺したメンバーの1人!


「何の用?」

『手短に言うぜ。小娘お前、俺を殺したくないないか?』


 それは要するに来いという事?どう考えても罠がありますよって言ってるのと同じ。『普通』なら行かない。けど、


「……何処にいるの?」

『東京タワーで待ってるぜ』


 そう言って御子柴は電話を切った。『普通』なら、銃兵衛君と伊佐南美君にも教えるべき。けど、これはボク自身がやらないと気が済まない。『ZEUS』の奴らを殺して、お祖母ちゃんの無念を晴らさないと。

 ボクは脱いだばかりの制服をスパパッと着て窓り外からホテルを出た。忘れないように密蔽術式ハイドを掛けておいて、飛行術式フライングを使って目的地へと向かった。



「よお小娘。待ってたぜ」


 黒いスーツ姿の御子柴がいやらしい笑みを浮かべてボクを出迎えた。東京タワーに降り立つと、強めの風が吹き付けて肌に冷たい感触が伝わる。高位索敵術式ハイ・サーチで周囲を探ってみたけど、隠れている人はいない。


「1人なんだね。ボクはてっきり仲間でもいるかと思ったんだけど」

「俺は一匹狼だからな。それよりも空からのご登場とは。スカートの中が丸見えだったんじゃないのか?」

「どうせ密蔽術式で隠れてるし、隠れてなくても空高いボクのスカートの中なんて覗けないでしょ」

「まあ、そうだな。けど、俺は正直見たいとは思ってるな」

「……この、ロリコン」


 御子柴とは昔一回だけ、会った事が――その時の名前は道田俊春だったけど――ある。あの時のボクは『ZEUS』の事を必死に調べていた。お祖母ちゃんの敵討ちをする為に。けど有力な情報が入らず、途方に暮れていた時に偶然この男に会った。あの時も1人だったけど――本当に一匹狼みたいだね――、御子柴は甘い口振りでボクを誘惑して弄び、殺そうとした。だが寸での所で優子さんに助けられてそのまま逃げられた。


「もうお前とは何も話したくないから一つだけ言っておくよ。殺す」


 ボクは背中からある物を出した。それは鞘に収められた一本の剣。ボクは鞘から剣を抜き、鞘を放って西せいようりょうけんを両手で握る。


「おいおい、短気だな」


 呆れて言う御子柴も背中から抜いた。得物は曲刀二本。相も変わらず二刀流か。前に会った時も二丁拳銃だったし、この御子柴の戦闘スタイルは二刀流か。銃でも剣でも。


「どうよ? 宮本武蔵みてえだろ?」


 御子柴は曲刀の刃を擦り合わせてシャ、シャ、という音を出して笑う。何コイツ、宮本武蔵ファン?


「それは宮本武蔵に失礼だと思うけど」


 ボクが呆れて漏らす言葉に御子柴は曲刀の刃をリズミカルに擦り合わせながらヘッと笑う。


「ところで小娘、さっき電話でゆきの奴が言ってたんだが、お前妙な奴を連れてきたらしいな。何モンだ?」


 妙な奴? あぁ、銃兵衛君の事?


「そんな事言う訳ないでしょ。そんなに知りたかったら自分達で調べれば?」

「それもそうだな。んじゃあお前をとっ捕まえて全部喋るまで拷問してやるよ。俺はお前みたいな小娘を虐めるのが大好きでな」

「反吐が出るね。ドS野郎」


 御子柴のコードネーム『盗剣魔』は、コイツの本職から取られたもの。

 御子柴の本職は無差別に強盗を起こし、気に入った相手――主にボクみたいな女子高生――を見つけては拉致して拷問で楽しむ。人の所有物だけでなく、命までもをみ、で相手の肉を少しずつ抉る拷問をする悪。だから『盗剣魔』。


「まあ、そんな事は置いといて。良いのか小娘、俺を殺すんじゃなかったのか?」

「うん。そうだよ。ついでにその耳障りな擦れる音もね」

「そりゃねえぜ」


 御子柴はヒッヒッヒと笑う。一体何なんだ? この刃と刃が擦れる音、さっきから一定のリズムで音を出している。このリズム何処かで……


「――ッ!」


 ボクは即座に増速術式クイックを発動して御子柴に突進する。

 ――ギィン!


「おっと危ねえ」


 ボクの剣を曲刀二本で受け止めた御子柴は平気そうな顔をしている。


「貴ッ様ァ……!」

「気付くのが少し遅かったな」

「……まさかやいばやいばを擦り合わせて『懺悔の詠唱ギルティ・リサイト』を使うだなんてね」


 懺悔の詠唱。これは元来『異常』な歌としての術式。その効果は、この歌を聴いた者は聴いた時間に応じて、死にやすくなる・・・・・・・。具体的には体の内部を少しずつで攻撃していき、徐々に内臓や血管を破壊していく歌型うたがた抹殺まっさつじゅつしき。長く聴けば聴くほどすぐに死んでしまう。

 でも懺悔の詠唱には欠点がある。まず一つ目に、懺悔の詠唱は『異常』に歌の上手な人しか扱えない術式。余程練習を積んでる人じゃないと懺悔の詠唱は機能しないし、逆に自分が喰らってしまう事もある。

 二つ目に、懺悔の詠唱はその存在を知らない人にしか使えない。知ってる人だったら初っ端から歌うのを邪魔しに掛かるので、基本この術式を持っている人は集団戦闘の時ぐらいにしか使わず、いつも後衛にいる。

 そして三つ目が一番致命的な弱点。もし懺悔の詠唱を聴いてしまった時の対処法は実はある。それは歌った本人を殺す事。懺悔の詠唱は歌った人のを使用する。なので歌った本人が死んでしまえばは途絶えて殺せなくなる。

 以上の理由から、歌うだけで相手を殺せる歌型抹殺術式、懺悔の詠唱は1人でいる時には使えない。けどこの男はそれをやってのけた。歌うのが難しいと歌うのを邪魔されるという欠点の克服方法が、曲刀の刃を擦り合わせるだなんて……

 そんな事、『普通』に考えればやるのは不可能な事だ。けど『異常』に考えれば説明はつく。御子柴の本職である強盗、盗むものは金品、人の命、そして力。御子柴は殺しに役立ちそうな術式や技を力尽くで奪い、自分なりに応用して自分のものにする。恐らく御子柴は懺悔の詠唱を使う事の出来る人と接触してノウハウを学び、刃の擦れる音だけで自己流の懺悔の詠唱を開発させた。御丁寧に式力を存分に使い込んで。

 確かにそれだったら簡単には気付かれないし、擦れる音だから懺悔の詠唱の存在を知っている人でも気付かない。リズムに気付けばすぐに分かるけど、今のは不覚だったよ。奴は曲刀を抜いてからすぐに刃を擦り合わせてたから、大体五,六分ぐらいは懺悔の詠唱を聴いていた。それぐらいなら、精々184時間は掛かる筈。


「ちなみに俺は懺悔の詠唱を使ったからって、獲物を目の前にして逃げたりしねえぜ。安心して殺しに来い」

「そうしてくれると、助かるよッ!」


 ボクは増速術式を再度発動。御子柴に突進する。けど予想通り御子柴はそれを曲刀をクロスさせてボクの剣を受け止めに掛かる。それを読んでいたボクは斬りかかると見せかけてジャンプ。増速術式で速度が上がったボクが突然視界から消えて御子柴はしまった、と思うはず。けど御子柴はボクがジャンプした事も、ジャンプしてそのまま後方から斬る事も予想している筈。だから御子柴の背後に着地したボクはあえて離れ、間合いを取る。後方から斬りかかると予想していた御子柴は後ろに曲刀で斬りかかるけど、それは空振りに終わる。空振りになって胴がガラ空きになった御子柴目掛けて、速度の増したボクは剣で突く。けど、突っ込もうとした瞬間、嫌な予感がした。

 ――ガキンッ!


「……ッ!」


 予感は的中した。ガラ空きになった胴に突いた剣の剣先は、御子柴の足が受け止めていた。正確には、御子柴の靴から出てきた、横向きのきょくが。


仕込み靴ソード・スパイク……!」

「さすがにここまでは予想してなかっただろう?」


 コイツまさか、今までボクが考えていた事を全部先読みして動いてたっていうのッ!? けどそんな事より完全に予想外だった。ボクはコイツの得物が曲刀二本だけかと思って油断してた。


「そんじゃあ次はこっちから行くぜ」


 御子柴はボクを蹴り返すと仕込み靴の曲刃を仕舞い、ボクの心臓目掛けて曲刀で斬りかかってくる。ボクは剣で曲刀の斬撃を受け止め、弾き、逆に斬りかかる。けど御子柴も同じ様に曲刀で受け止め、弾き、斬りかかる。今度のボクは斬撃を剣身に滑らせ、流し、下から斬る。

 ――ガキンッ!

 けど斬ろうと思ったら御子柴がまた仕込み靴から出した刃で剣を受け止め、踏みつけた。押し返そうとしたら筋力さで剣を振り上げることが出来ない。


「はい残念だったな!」


 御子柴は曲刀二本を振り翳して斬りかかる。ボクは咄嗟に剣を手から放し、斬りかかってくる御子柴の懐に体当たりする。

 ――ドンッ!

 大して強い体当たりじゃないけど、体当たりを喰らった御子柴は後ろに少しよろける。その少しよろけた一瞬でボクは落ちている剣の刃を踏み、回転しながら飛んできてボクはそれをキャッチ。即座に御子柴に斬りかかる。けど御子柴も曲刀をクロスさせて受け止め、鍔迫り合いになる。


「本当に残念だったね。お前が」

「やっぱ一筋縄にはいかないか。つうか小娘、お前体に違和感とかは無いのか?」

「は? 違和感? 一体何を――」


 言ってるのさ、と言おうとした瞬間、本当に体に違和感を感じた。物凄く胸が苦しい。胸だけじゃない。足も腕も腰も脇腹も、体中苦しみ出した。


「な、何がッ……」

「そろそろ懺悔の詠唱が効力を発揮してきたか」


 御子柴は鍔迫り合いのまま油断してたボクの胴を蹴る。蹴り飛ばされたボクは悶絶せずに立ち上がる。するとまた体がズキッとした。一体全体何が……


「言い忘れてたけどよ、俺の懺悔の詠唱は強化された懺悔の詠唱だ。だから五,六分聴けば二十分後にお前は死ぬぜ」

「――ッ!」


 ボクは絶句した。それって本気でヤバいよ。奴が懺悔の詠唱を使ってからもう5分経っている。つまりあと十五分後にボクは、死ぬ。奴の放つ気が、ボクの体を少しずつ蝕んでいっている。結構痛いねこれは。


「どうした小娘。早くしないと俺の気がお前の体をバラバラに破壊するぜ」

「そんな事、言われなくても分かってるよ!」


 ボクは痛みに耐えながら増速術式を発動。すぐに御子柴を殺そうと斬りかかる。けど御子柴は反応速度が高いのか、すぐに受け止めてはボクの胴を蹴って押し返す。その都度ボクの体に激痛が奔る。早くコイツを殺して懺悔の詠唱から逃げないと……


(……止むを得ないか)


 ボクは剣を横向きに低く落とし、左足を前に出す。本当は一般人に見つかる可能性を考えて使いたくなかったけど、今は我が儘は言えない。ボクは剣身に大量の式力を付与する。すると剣の刃が輝きだし、眩しい光を放つ。御子柴は右腕で遮るけど、目晦ましが目的じゃない。


「……おい、その剣まさか」


 どうやら御子柴はボクが何をやろうとしてるのかと察したみたいだ。そして、この剣の事も。


「だったら何?」


 剣は一層輝きを増す。式力の充填が完了した。今からボクが放つのは、この剣だからこそ使える『異常』な剣技。


「……時光斬イクスリプス


 時光斬。それは剣の刃に式力を注ぎ込み、光のやいばを作り上げる。その刃を横薙ぎに払えば、距離を空間跳躍ジャンプして相手を斬る。


(死ねッ『盗剣魔』ッ!)


 ボクが横薙ぎに払おうとした瞬間、


「はああああああああああアアアアアアアアアアーーーーーーッ!」


 いきなり御子柴が口から轟音を放ってきた。突然の出来事で耳の鼓膜が破れ掛ける。ボクは剣を放して両耳を塞ぐ。時光斬はボクが剣を放したせいで使えなくなった。しかも追い討ちを掛けるように御子柴の気がボクの左足と右腕、左脇腹をまた抉る。


「う、うがあああああっ!」


 かと思ったら即座に全身が抉られる様な激痛が奔り、ボクは血を吐いてその場に倒れこむ。もう体の殆どが蝕まれた筈だ。体が悲鳴を上げてる様に血が流れ出る。術式を使おうにも、痛過ぎて出来ない。

 御子柴がニヤついきながらこっちに近づいてくる。


「もう十五分は経った。お前の寿命は最低でもあと五分だ。命乞いするんだったら懺悔の詠唱を解いてもいいぜ。その時はちゃんと生かしてやるよ。一生俺の玩具として過ごす事になるけどな! ハハハハハッ!」


 何処までもこの男は最低な奴だな。


「だ、誰がお前の拷問に、付き合うか。そんなんだったら、ここで死んでやるッ」


 ボクは一層増した激痛に耐えながら言う。すると御子柴はハァ、と溜息を吐く。


「チッ。勿体無え。けどこれも仕事だしな」


 御子柴は残念そうに曲刀を振り翳す。

 実はボクはまだ動ける。但し、あと一回だけ。一回だけでしか、コイツを仕留める事が出来ない。でも分かってる。ボクは詰んだ。懺悔の詠唱で命が尽きるのを待ってたら、ボクに隙を与えてしまう。なので御子柴は念には念を入れておいてボクを直接殺しに来る。

 終わったよ。まだ銃兵衛君に伊佐南美君とはまだ話したい事とか沢山あったけど、それは叶わない夢だったか。


「精々祖母さんと一緒に泣き喚くんだな。小娘ッ!」


 御子柴がボクにトドメを刺す。ボクは悔しくて目を瞑った。けど、

 ――シャリン

 ――シィン

 何かの音が聞こえた。そして次の瞬間、完全に予想外過ぎる出来事が起こった。突然ボクの体に流血が降り注いだ。温かく、濃い血が。その流血が降り注がれる場所は、御子柴の右腕。いや、御子柴の右腕が、無い。肩だけだ。


「う、うぎゃああああああああああアアアアアアアアッ!」


 御子柴は自分の右肩を押さえ込む。いきなりの事だったのですぐには分からなかったが、御子柴は右腕を斬られたのだ。何者かによって。それも、綺麗に切り裂かれている。けど一体誰が?ここは東京タワーの上。周囲には誰も隠れていない。まさか東京タワーの外から?いやありえない。遠くから東京タワーの上にいる男の右腕を綺麗に切断するだなんて芸当、『普通』に考えても絶対出来ない。

 けど、今はそんな事はどうでも良かった。懺悔の詠唱による抹殺時間は残り僅か3分。ボクは激痛を堪えながらヨロヨロと立ち上がると、落ちている剣を拾う。何処の誰が援護してくれのかは知らないけど、感謝感激だ。


「はああああああああああっ!」


 ボクは剣を構え、突っ込む。途中何度も激痛が襲ってくるけど、そんなのは我慢だ。


「なっ、しまっ――」


 御子柴が顔を上げた時には、決着が着いていた。ボクの剣は、御子柴の心臓を『普通』に貫いていた。


「……まず、一人」

「チッ、まあ、これも中々、良いな……」


 ボクが剣を引き抜くと、御子柴はその場に倒れた。ボクも脱力して座り込む。すると体の激痛が突然消えた。御子柴が死んだ事で懺悔の詠唱が解けたのだ。

 やったよお祖母ちゃん。『ZEUS』のエージェント、御子柴魁人こと『盗剣魔』を、お祖母ちゃんを殺した奴の一人を殺したよ。


「さてと、帰るかな」


 全身物凄く痛いけど、ボクはなんとか密蔽術式で姿を消し、飛行術式を使って東京タワーから去って行った。



 「はあ、はあ、はあ……」


 ボクは息を切らしながら途中で降り立った公園のベンチに寝転がる。時刻は午後10時。


「……もう銃兵衛君と伊佐南美君、寝たかな」


 ボクは自分の体を見る。体の至る所から流れ出る血が制服を汚し、足や腕にも生傷が沢山ある。流石は懺悔の詠唱。一度喰らうと後が怖いね。ボクは治癒術式ギールで生傷を治し、制服の汚れを洗浄術式ウォッシャで落とす。時光斬使ったあとだからあんまり式力残ってないけど、回転寿司でお腹いっぱい食べといて良かった。でもやっぱり傷跡がまだ残ってるね。仕方ないからボクは近くの自販機でミネラルウォーターを買い、それをガブカブ飲み干す。そのあとすぐにコンビニでストッキングを買ってホテルまで歩き、部屋に戻る。部屋に着いた時にはドッと疲れが押し寄せてきた。


「はあ、一日でこんなに式力使ったの久々だよ」


 ボクは制服とシャツを全部脱いで下着姿になり、そのままベッドに突っ伏す。そして気が付いたら、ボクは眠りに落ちていた。

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