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射城学園の殺し屋  作者: 黒楼海璃
弐 『異常』な幕開け(スタート・オブ・ゼウス)
20/44

拾玖殺

 俺はを連れて寮の部屋に戻り、


「おっにいっちゃぁん!」


 伊佐南美が座った俺の膝の上に乗っかってきて景気良く抱きついてきた。


「お兄ちゃん、ごっほうび、ごっほうび!」

「あー、ハイハイ」


 俺は抱きついてきた伊佐南美の頭をナデナデする。


「よしよし、可愛いな伊佐南美」


 それを言っただけで伊佐南美の顔がパァァッ、と明るくなる。


「お兄ちゃん、もっとー」

「はいはい。可愛い可愛い」


 続けて言うと伊佐南美の顔がドンドン笑顔に満ちていく。ヤベッ。コイツ、ガチですげえ可愛い。


「もっともっとー」

「可愛い可愛い可愛いぞ伊佐南美。あー可愛いなお前はー。まったく、目の中に入れたって構わないぐらい可愛いぞ。俺はお前みたいな可愛い妹を持って本当に幸せ者だなー」


 俺が伊佐南美の頭を撫でながら棒読みで言うと(一応事実)、伊佐南美は更に笑顔になる。あぁ、コイツ可愛い。


「お兄ちゃん大しゅきー!」


 可愛いと結構言った為か、伊佐南美が顔を猫の様に俺の胸に擦りつけてくる。伊佐南美がここまで俺に可愛がられたい理由は、ストレス発散の為だ。コイツは毎日の生活で自然と精神的ストレスが溜まりやすい。なのでコイツは自ら俺に甘え、俺に可愛がられる事でそのストレスを発散している。もし発散されずにストレスが溜まり続けた場合、発狂を起こして人を無差別に惨殺する。

 なので、伊佐南美が俺に甘えてくるのは既に容認している。別に迷惑じゃねえし、伊佐南美を可愛がるのも案外楽しい。コイツの見せる笑顔はマジで可愛い。まあ、唯一の悩みと言えば俺がシスコンになりつつあるという事だが、まあ別に良いけど。俺がシスコンになってコイツの発狂が抑えられるなら安いモンだ。


「お兄ちゃんしゅきー。しゅきしゅきしゅき大大大だーいしゅきー!」

「はいはい。まったく、お前は本当に甘えん坊だな」

「うん!大好きなお兄ちゃんに甘える可愛い妹ちゃんです!」


 『普通』自分で自分の事を可愛いって言うか? まあ、可愛いのは事実だから良いけど。

 しかし、問題なのはこの状況だ。無愛想でネクラで非社交的な男子高校生(俺)が下級生である無邪気で可愛い女子中学生(伊佐南美)を部屋に連れ込んでこうして抱き合っているという場面を誰かに目撃されたりでもしたら、絶対あらぬ誤解を立てられる。


「そんでよぉ、ユキの奴ったらまた俺に会いたがっていてよぉ……あっ」

「そうなんですか……あ」


 主にこの2人、ルームメイトのシュンこと神楽かぐらざかしゅんすけとクラスメイトの二宮にのみやかなに。

 この2人が話しをしながら歩いてくる音が忍法『びんかん』――遠くの音を聞きやすくする忍法『せん』と違い、近くの小さな音だけを聞きやすく忍術――で分かっていた。

 シュンと二宮はこの光景を目の当たりにして固まっている。確かにこの体勢で誤解を招かない訳がない。だがシュン、俺は信じてるぞ。お前が部屋から出て大声で、俺が年下の女子中学生を部屋に連れ込んでよからぬ事をしでかしてるとかなんとか言わないって事を。


「うわあぁぁぁっ! じゅう兵衛べえが年下の女子中学生を部屋に連れ込んでよからぬ事をしでかしてるーーーーーーー!」


 言いやがった。早速言いやがった。部屋から出て大声で叫びやがった。


「神楽坂君落ち着いて下さい。それで服部はっとりさん、その子は?」


 二宮がシュンを羽交い絞めにしながら俺に聞いてくる。


「えーっとな、コイツは、俺の妹だ」



「初めましてー。服部伊佐南美です。いつもお兄ちゃんがお世話になってますー」

「神楽坂俊介だ。宜しくな伊佐南美ちゃん」

「どうも初めまして。服部さんのクラスメイトの二宮金実と申します。今後ともどうぞ宜しくお願い致します」


 伊佐南美は無邪気に、シュンは礼儀の素っ気も無く、二宮は逆に礼儀正しく頭を下げて自己紹介。一時はどうなるかと思ったが、大丈夫そうだな。


「銃兵衛、こんなに可愛い妹がいるんだったらもうちょっと早く教えてくれよ」

「シュン、手を出したら思いつく限りの残虐な方法で無惨に嬲り殺しにするぞ」

「分かってる分かってる。そういう意味じゃねえって」


 じゃあ、どういう意味だよ。


「服部さん、神楽坂君にはゆきちゃんっていう2歳年下の妹さんかいるんですよ」


 ……は?


「……お前、妹いたのか?」

「おおっ! いるぜ。すっげえ可愛い妹がな。アイツの可愛い所は何と言ってもあの愛らしい笑顔だぜ」

「神楽坂君は穂乃雪ちゃんととても仲が良いんですけど、神楽坂君は穂乃雪ちゃんをかなり可愛がっていて、所謂いわゆるシスコンですね」


 なるほど。俺がシュンと初めて会った時、コイツとは接しやすいと思ったのは、お互いにシスコンという共通点があるからか。


「シスコンだったらうちのお兄ちゃんだってアダッ」


 とりあえず余計な事を言い出す伊佐南美でも殴っとくか。


「もう! お兄ちゃん!」

「何だよ」

「大しゅきー!」


 伊佐南美、何でお前は殴られたのに『普通』に俺に抱きついて来るんだ?まあ、そんなに強く殴った訳でもないし、別に良いか。


「あぁっ! 銃兵衛が羨ましい! 羨まし過ぎるー!」

「そ、そこまでの事なんですか?」

「あったり前だ! 俺にとっちゃ、可愛い妹と一緒にいるだけで幸福なのによ! なあ銃兵衛!」

「確かにそうだよな。その気持ちはすげえ分かる。特に妹の見せる可愛い笑顔ときたら」

「そうそう! それにはついつい心を打たれちまう!」


 気が付いたらおれとシュンは妹トークをしだしていた。しかも話の内容がかなり合う。まず妹の可愛がり方、妹との接し方、妹と話をする時やetc


「……まさか神楽坂君とこまで話が合うだなんて……」


 それを見ていた二宮が色んな意味で引き攣っていると、俺は一つ思い出した事があった。


「なあシュン。シュンと二宮は前からの知り合いなのか?」

「おお。俺と金実は小学校からの幼馴染だ」


 何だよその、ぎょうがくえんにいるさかくりはらみてえな関係は。


「まあ、幼馴染っつても、中学は別だけどな」

「何でだよ?」

「それなんだよ! あのクソ親父! あろう事か俺を男子中学に無理矢理入れやがったんだよ!」


 シュンは憎むかの様に怒り出す。何でそこまで怒る?別に幼馴染なら簡単に会えるだろ。


「それは神楽坂君の自業自得だと思いますけど」

「は?」

「神楽坂君は覗きの常習犯でしたから。体育の着替えや、水泳授業で女子更衣室を何回も覗き見してたんです」


 シュン、お前の親父さんは間違った事してねえぞ。二宮の言うとおりそれ全部お前の自業自得だぞ。


「シュンお前、シスコンのくせして何やってんだよ」

「覗きの何処が悪いんだよ! なあ銃兵衛!?」

「そんな事言われても知らねえよ。俺は覗きなんてやった事無い」

「嘘だぁー! お兄ちゃんいっつも私の下着姿を覗いてアダッ!」


 余計な事を言おうとした伊佐南美の脳天にチョップする。


「……服部さん、今のは本当なんですか?」

「事実無根だ」

「嘘! 絶対嘘! 私が部屋で着替えてる時とか、お風呂上りの時とか平気で入ってくるじゃん!」

「あれは不可抗力だ。お前に用がある度に一々電話掛けろってのか? あとそんな事言うんだったら風呂上りにバスタオル一枚で居間をうろつくな」

「だったらノックの一つくらいしてよ! お兄ちゃんいっつもノック無しで勝手に入ってくるじゃん!」

「伊佐南美、その言葉をそっくりそのままお前に返そう」


 伊佐南美も人の事は言えない。コイツだって人が勉強中に突然入ってきて抱きついてきたり(ストレス解消)、寛いでいる時に天井裏からやって来るし(甘えに来た)、寝ようと思ったらいつの間にか布団に潜り込んでるし(添い寝希望)、朝起きたらいつの間にか布団の中に入るし。お前も中々だと思うがな。


「私はお兄ちゃんの事が大好きだから入るの! それ以外に何か理由が必要なの!?」

「別にやって来るのは良いんだけどよぉ、お前も五十歩百歩だろって言ってんだ」


 伊佐南美の場合は発狂防止の為だから容認しているが、コイツのやってる事はおれと大差無い。


「まあ良いじゃないですか服部さん。一人っ子の私から見れば、仲が良くて羨ましいです」

「そうかぁ? 世間一般で言えば、異性の兄弟ってのは仲が悪いのが『普通』だと思うんだが」

「服部さんと伊佐南美ちゃんは『特別』なんですよ。きっと」

「……そういうモンか?」

「そういうものです」


 二宮が珍しくニッコリと笑う。まあ、二宮は毎日の様に授業で行われるクソ難しい小テストでほぼ満点を叩き出しているぐらい頭良いし、制服だって校則通りにキチンと正しく着こなしているし、模範生のムードを漂わせている。そんなコイツの言う言葉は一応信用できるか。


「ところで話を変えますが服部さん、この頃小テストの結果が良くないですよね?」

「うっ……」


 そうなんだよな。前の50点満点中7点という英語の小テストの次には数学の小テスト(これは28点)、化学(25点)、現代文(17点)、歴史(23点)、古文(29点)という小テストが連発だった。しかもその次の日にやった英語の小テストの結果が6点。俺ってこんなに馬鹿だったんだ。


「えっ、お兄ちゃん留年しちゃうの!?」

「このままこんな感じだったらそうなるな」

「てことは、もしお兄ちゃんが留年したら、来年私はお兄ちゃんとおんなじクラスに……」


 おい伊佐南美、


「ここでお兄ちゃんの勉強を妨害すれば、来年は毎日の様にお兄ちゃんと一緒!」

「伊佐南美てめえ、邪魔したらどうなるか分かってんだろうな?」


 冗談じゃねえ。ここで留年したら元も子もない。


「じょ、冗談だよお兄ちゃん。ア、アハハ……」

「……なら良いんだが」


 どうせ本気で言ってたかもしれねえが、今回は不問にしよう。だが今度本気で言ったら半殺しだな。


「それよりも服部さん、またれんざきさんが服部さんの事を言ってましたよ。『銃兵衛は基本的な学力が相当低い。このままなら留年は確実』と」


 何でアイツは普段無口なクセして喋る時はこうもムカつく事しか言わねえんだよ!


「まあ、明日というか、R組では小テストはほぼ毎日ありますし、ちゃんと勉強すれば……」

「あ、そういやシュン、二宮」

「はい」

「何だよ」

「俺明日から一週間授業来られねえわ」


 俺が一週間休む事を2人に伝えると、何故かシュンの顔が青ざめ始める。


「じゅ、じゅ、銃兵衛! お前とうとう覗きをやったのかぁ!?」

「シュン、もしそれなら一週間じゃ済まねえぞ」


 もしそんなんやったら理事長から厳重な処罰。その後に伊佐南美に嬲り殺しにされる。


「そうじゃなくて、寮に戻る前にちょっと他のクラスの連中と暴力沙汰になっちまって、それで一週間奉仕作業だよ」

「な、なんだ。驚かすなよ」


 俺は一週間来られないと言った後、いきなり詰め寄ってきて大声で怒鳴ってきたお前に驚いたがな。


「しかし服部さん、奉仕作業とは具体的に何をするんです?」

「……知らん」


 本当は理事長助手なんだが、それを言うとまたシュンが五月蝿そうだし、言わないでおくか。


「あ、そろそろ寮の門限の時間ですね」


 部屋にあった時計を見てみると、確かにそろそろ門限の6時になるな。


「では私はこれでおいとましますね」

「ほら伊佐南美、お前も行け。門限破りは後が面倒だぞ」

「はーい」


 二宮は礼儀正しく御辞儀をし、伊佐南美は俺に手を振って女子寮に戻って行った。


「あぁ、今日の銃兵衛を見てたら、なんだか妹に会いたくなってきた!」

「電話でもしたらどうだ?」

「それもそうだな! よぉーし! ちょっくら電話してくる!」


 シュンもスマホを片手にいそいそと部屋を出てく。

 しかし、明日から理事長の助手かぁ。絶対嫌な予感がするな。こりゃ。

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