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射城学園の殺し屋  作者: 黒楼海璃
壱 『異常』に『異常』で『普通』じゃない
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壱殺

 ――殺し屋――


 文字通り、人を殺す仕事をする人。

 刺客、凶手きょうて、暗殺者など、呼び方は様々である。

 昔は殺し屋など幾らでもいた。真正面では殺せないような相手を簡単に殺し、邪魔者を排除する。金で雇われ、裏で暗躍する。ひっそりとそこに漂い、ひっそりと消える。

 世の中には幾多を超える殺し屋が存在している。戦うことが好きな戦闘暗殺者、ただ殺すだけの純粋暗殺者、標的に近寄って仕留める潜入暗殺者。

 だが時代が進み、殺し屋の存在は消え失せていった。平和主義である現代の日本に於いて殺し屋など無縁のものとなり、今では天然記念物並みに希少、な筈であった。


「……おい、霞」

「なぁーに、影くん?」


 ここは日本某所。ここに一人の少年と一人の少女の二人組がいた。

 少年は首より上までの長さの黒髪と闇の様な黒い目、別に不機嫌でもないのに無愛想な顔して少し眠たそうだ。少女の方は黒いロングストレートとブラックパールの様な黒い目をしていて、少年と正反対に笑顔を崩さないでいる。


「ここに今回の獲物がいるんだな」

「うんそうだよ。獲物はこいつ」


 少女は懐から出した写真を少年に投げ、少年はそれをキャッチする。その写真には三十代ぐらいの一人の若い男が写っていた。


「こいつか」

「うん。表向きは資産数千万以上の貿易会社若社長。そして裏向きの顔は中国マフィアと手を組んでヤバイ薬とかを日本に入れるのに協力している極悪人。そいつは今夜もそのマフィア達と会って話をしているらしいよー」

「……そうか」


 少年は写真を懐に仕舞う。少年が着ている服は、真っ黒いロングコート。だがその服はある意味『異常』だ。

 コートの黒さは真っ暗闇の様にとても黒い。長さは少年の足首辺りまであり、フックやら金具やらが付いた長いベルト二本が体にX字に巻かれている。ベルトは他にも腰と腕に二本ずつ巻かれてあり、コートの下側は風で揺れる度に黒い長ズボンが見える。他にも少年は両手に黒い手袋を嵌め、口元を覆面の様な物で隠している。まるで忍者の様に。加えて、少年の右目が、『異常』なまでに黒い。闇夜に溶け込んで、少年が隻眼だと誤解してしまうぐらいに。


「さーてと、楽しみだねー影くん」

「……そうだな。殺しは俺達にとって生き甲斐の様なものだしな」

「くふふっ、やっぱり影くんだー」


 そして少女の方も少年に少し似た格好をしている。サイズは違うが、形は同じ黒いロングコートとベルトに黒い手袋。そしてコートの下側は風で揺れる度に黒い膝上丈のスカートが見える。だが少女は覆面の様な物を付けていない。そして腰のベルトには真っ黒な鞘と柄の小太刀が下げてある。

 少女は少年に顔を近づけ、ニッコリと笑い掛ける。


「ねえねえねえ影くん、そいつは私がっても良ーい?」

「……別にそれは構わんが、それならマフィアは俺にらせろ」

「良いよー」

「よし。じゃあ行くぞ」

「りょうーかーい!」


 少女は元気良く返事をする。

 一見すると何処にでもいそうな少年少女。だが、その中にある『異常』な殺気が、二人の存在を大きく異質なものに捉えさせている。

 この二人がやろうとしている事、それは依頼にそってさっの写真に写っていた男を殺す。即ち人殺し。

 そう。この二人は、見た目からはそう見えない、暗殺者だ。


「今日も一仕事頑張らないとな」

「そうだね。影くん!」


 少年と少女は突然煙の様に姿を消した。

 正確には、高速移動しながら目的の所に進んでいるだけだが。


 古今東西、善という存在がある反面、悪という存在がある。

 善があれば悪がある。善が生きれば悪が滅びる。表の善があれば表の悪もある。裏の善が滅んでも裏の悪はあり続ける。

 現代社会と言う名の表の世界に蔓延る悪が裁かれど、その陰にある裏の世界に蔓延る悪が消えることは無い。

 いつ消えても可笑しくない裏の世界に身を投じ、法にも人にも天にもすら裁けぬ悪を滅する無法者。

 それが彼等、殺し屋稼業の日常である。



 時が少し経ち、とある会社のビル。その中では、一種の殺戮が起こっていた。


「……ハァッ!」


 少年が手刀で黒尽くめの男の鳩尾を刺した。


「ガハッ……!」


 刺された男は少年が手を引き抜くとその場に倒れた。

 背後からナイフを突き刺して来る男を、少年は後ろ向きのまま顔面に拳を喰らわせ、男が落としたナイフを足蹴り。ナイフはそのまま男の首へと突き刺さった。

 突然少年が頭を屈めた。その直後、高速に進む銃弾が少年の頭上を走り、銃弾はそのまま壁に減り込む。進んできた方向を見てみると、そこには誰もいない。だが少年の右目が視界に補正を掛けてくれた。誰もいないように見えて、実は男が隠れて銃を撃ってきたのだ。

 少年は一本の細い針を取り出し、男目掛けて投擲する。針は男の額に突き刺さり、そのまま男は倒れ込む。


標的ターゲット全滅オールクリア


 少年の右目に、伏兵がいないことを知らせるメッセージが表示された。


「……これで全部か」


 少年は先へと進む。そして部屋の前で血塗れになって倒れている男達を見つけた。その部屋には「社長室」と書かれてた金色のプレートが掛けてあった。

 少年がドアを開けて部屋に入る。そこには一人の若い男が後退りながら怯えていた。恐らくの会社の社長なのだろう。

 何故男がこんなにも怯えているのか、答えは簡単だ。


「くふふっ、きゃはは」


 ニコニコ顔の少女に小太刀を向けられているから。よく見ると男の服が刃物で切り裂かれたかの様な痕が所々ある。


「……霞、まだってなかったのか」

「あーっ! ごっめーん! こいつがあまりにも怯えちゃってるから、ちょっと楽しんでたー」

「な、何なんだよ。お前ら、だ、誰だよ!?」


 男は後退りをしている中に転んでしまった。それでも尚後退りは続く。すると男は偶然脇に落ちていた拳銃が目に入り、咄嗟に拾う。


「お、お、お前ら、そ、そ、それ以上来るな! 来るな!」


 男が少年に向かって発砲した。銃弾は少年の腹部に命中、した筈だった。銃弾はコートに当たると途中で止まり、コートを貫けずに床に落ちた。


「な、何で……」

「霞、とっとと片付けろ。そんなんだから朝起きられないんだろ」

「えー、もうちょっと虐めるのアリー?」

「駄目だ。尻叩きするぞ」

「ちぇー、分かったよー」


 少女は膨れながら小太刀を掌で回しながら男に近づく。


「く、く、来るんじゃねえ! お前ら、俺が誰だか分かってんのか!?」


 男は体がガタガタと震え、少年達のの放つ殺気と恐怖による怯えで発砲できないでいた。


「……お前が誰かって? まつくに。貿易会社社長で、中国マフィアと裏取引をしている奴。ちなみに廊下にいたマフィアは全部片付けたぞ」

「っ!? お、お前ら、こんな事して、只で済むと思う訳……」

「松田、それはこっちの台詞だ。お前は少しやり過ぎた。だからこれはお前の自己責任と思え」

「はぁ? な、何を……」

「じゃあ、サヨナラー」


 松田が喋り出す前に、少女はニッコリと笑って小太刀で男の心臓を刺した。


「うっ!」


 男は呻き声を上げたが、少女は小太刀を抜いてもう一度刺す。

 一回、二回、三回、と何度も何度も男の身体を滅多刺しにする。

 十二回ほど刺した辺りで、男はその場に倒れた。


「あ~、楽しかったぁ~」


 少女は小太刀に付いた血をペロリと舐めて気持ち良さそうに身震いする。


「はぁ、まったくお前って奴は」


 少年は呆れて溜息を吐くと、近くにあった黒いトランクを拾う。鍵が掛かっていたが、少年は慣れた手つきで簡単に鍵を開ける。中には一万円札の束がビッシリと敷き詰められていた。


「霞、ずらかるぞ」

「りょうーかーい!」


 少女は小太刀を鞘に戻し、少年はトランクを掴む。


『お疲れ様、マスター』


 少年の右目に、労いの言葉と、この場から戻るルートを表示された。


「影くん、今日もお仕事頑張ったね!」

「そうだな。サッサと帰ってサッサと寝るぞ」

「はーい!」


 二人は煙の様に姿を消した。

 正確には、高速移動してビルから出て帰路に着いただけだが。

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