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射城学園の殺し屋  作者: 黒楼海璃
弐 『異常』な幕開け(スタート・オブ・ゼウス)
15/44

拾肆殺

 俺が教室に戻ると、中で二宮にのみやとシュン、れんざきの三人が昼飯を食べていた。


「あ。服部はっとりさんお帰りなさい」

「ああ、ただいま」


 俺は軽く返事をして自分の席に向かう。


「なあじゅう兵衛べえ。お前、理事長に呼び出されてたみてえだけど、なんかやらかしたのか?」

なんかって何だよ」

「例えばその、女子更衣室を覗いちまったとか」

「シュン、そんな事やったら俺はここに戻って来てないぞ」


 そんな事したらに虐殺されて、理事長からも何かの罰を受けるじゃねえか。


「別にそんなんじゃねえ。ちょっと色々とな」

「色々って何だよ色々って」

「さあな」


 流石に事実を言う訳にもいくまい。理事長から暗殺の仕事を請けているだなんて。


「ところで服部さん、その封筒は何ですか?」


 今度は二宮が理事長から渡された封筒について聞いてくる。


「別に、取るに足らないモンだよ」


 俺はそれだけ言って封筒を鞄に仕舞う。そして寮から届いた弁当を食べ始める。うん、寮のおばちゃんお手製の弁当はやっぱりウマい。いつ食べても飽きない。



 夜、とある港、


「……そろそろ着くな」


 ロングコートのコク、手袋のコクリュウ、顔の下半分を隠した覆面のコクエン、ブーツのクロ蜘蛛クモ、コンタクトレンズ型ディスプレイのコクガンを装備している俺は理事長から貰った書類に書かれていた港町、それも獲物がいるらしい場所の近くに辿り着く。


「えっとそれで、獲物は……」


 俺は黒眼の出す表示を読み上げる。えっと何々、


『ターゲットは獲物を含め、十五人でした・・・


 ……でした? 何で過去形なんだよ。


『ターゲットは既に死亡しています』


 はぁ? どういう事だよ。黒眼、他に誰かいないのか?


『一人熱源を確認。但し、『普通』ではありません』


 『普通』じゃない?まさか、理事長の言ってたへいの偽者か?


『その可能性あり。その者がターゲットを殺したかと。場所は……』


 黒眼の表示に従い、俺はその場所に向かう。倉庫と倉庫との間の道を静かに、かつ素早く移動する。


『目的地到着』


 表示を読んだ俺が辿り着いたのは、電灯が沢山設置された港。俺は辺りを見渡す。


「……っ……!?」


 俺は息を呑んだ。目に入ったのは、大量に血を流し、無惨に斬られて倒れている男の死体の山。数は、黒眼によると15。そしてもう一人、男がいる。ソイツは死体の山に座り、電話を掛けている。


「……あぁ、俺だ。4月21日、あかはましゅうさくと部下、取引相手計15人の抹殺完了。という訳だから後は頼むわ。ああ……」


ソイツは俺がいる事に気付き、こっちを見る。ソイツは俺の顔を三秒程見ると顔を向き直した。


「……ああ、ちょっとわりいんだが、予定変更だ。今しがたちょっと面倒なのが来たみてえだ。ああ、分かった。んじゃ」


 ソイツは通話を終えて携帯を仕舞う。そして死体の山から立ち上がると、こっちに歩いてくる。


(……というか、何なんだコイツは)


 この男は奇妙な格好をしていた。まず髪は黒いロングストレート。黒、白、赤、青の浴衣を重ね着している。そのくせして下はジーパン。それぐらいはまだ良い。問題なのは、あの男が背中に携えている日本にほんとうだ。黒眼からの表示を見なくても分かる。あれは『異常』な武器だ。そしてあの死体の山はアイツが築いた。


「で、待たせたみてえだが、何か用か?」

「……よくも俺の獲物を勝手に取りやがったな」


 とりあえず折れはまずコイツに文句を言う。折角の殺しの仕事を勝手に奪いやがって、ムカつく奴だ。


「獲物、って事はお前、殺し屋か何か?」

「まあ、大体そんな所だ。そういうお前は同業者か?」


 ここは肯定しておこう。どうせバレてる。黒眼もそう言ってるしな。


「……いや、同業者じゃえ」

「じゃあ、自兵の偽者か?」

「さあな」


 男は答えない。黒眼によると、年は18か19ぐらい。但し、それしか表示が出ない。肉付きも、運動能力も、戦闘能力も、長所も、短所も、何も出ない。嘘を言ったかどうかも分からない。何なんだコイツ。


「なあ、わりいんだけどよぉ、このまま行かしてくれねえか?」

「……嫌だと言ったら?」


 俺はコイツを行かせない、と言わんばかりにホルスターからグロックを抜く。男は数秒黙り込み、


「……消すだけだ」


 背中に携えている日本刀を抜く。そして俺は舌打ちする。男が抜いた日本刀、あれはかなりヤバい。やいばこくとうもんかねふさみだれ。そしてあの刀を抜いた途端、アイツの周りが『黒い何か』に覆われた。あれは殺気じゃない。多分、黒い瘴気の類だ。


「……死んでも恨むなよ」

「その台詞、そっくりそのままお前に返す!」


 俺はグロックで男の頭を狙った。

 ――パァン!


「――クロハジき」


 ――ギィン!


「……っ……!」


 な、何だよオイ。黒眼の映し出したスローモーションを見て、驚きを隠し切れない。さっきコイツは、日本刀で・・・・銃弾を弾いた・・・・・・。頭を狙った俺の銃弾を、コイツは刀を振り上げ、刀身で銃弾を殴って弾いた。こんな漫画に出てくる様な事をコイツは平然とやってのけた。


「……お前、何者なにモンだ」

「……ようさいだ」


 ヨ、ヨウサイ? 多分渾名の類だと思うが……


「ちなみに教えた理由は、どうせお前がここで死ぬからだッ!」


 男が俺に突っ込んでくる。しかも速い。銃を撃った所で、どうせ弾かれる。だがヨウサイ、それはあくまで一発だけの場合だろう?


(――全弾発射フルバースト――!)


 グロック18Cの装弾数は19発。さっき一発撃ったから、残り18発をまとめて撃つ!

 ――パパパパパパパパパパパパパパパパパパンッ!


クロギリ


 ヨウサイの周囲を覆っていた黒い瘴気が厚くなり、それに当たった銃弾はヒュンヒュンヒュンという音を立てて黒い瘴気の中に消えて行った。


『銃弾四方八方から来ます。ジャンプ!』


 黒眼の表示をすぐに読んだ俺は即座に真上にジャンプ。その直後に本当に四方八方から銃弾が来た。黒眼によると、数は18発。さっき俺が撃った弾数と同じだ。つまりアイツが出した黒い瘴気が銃弾18発全てを俺の方に向けた。黒眼によると、今のは『空間跳躍ジャンプ』と言うらしい。


「へっ、バァカ」


 ヨウサイは走った後に俺目掛けてジャンプしてきやがった。しかも俺が10m飛んだのに奴は15m。


「死ねッ!」


 ヨウサイは黒刀で斬りかかる。空中にいる俺は避ける事が出来ない。


(――とうげん――!)


 そこで俺は振り下ろしてくる刀に向かって足蹴りを放つ。この時に俺は、足のつま先や拳、頭の脳天といった、体の何処か一点に自分の全体重を掛ける技、『冬厳』で足に自分の全体重を掛ける。こうする事で俺の足に50kg前後の体重が全て加わり、重たい一撃となる。


 ――ガキンッ!

 ヨウサイの刀と俺の足がぶつかり、冬厳で体重の掛かっていた俺の足蹴りが奴を弾き飛ばした。


「なっ!?」


 ヨウサイは驚いたまま下に落下する。そして俺も下に落ちるので、ついでに追い討ちを仕掛ける。


らっこうめいてっつい!」


 それはかかととし。だが『普通』の踵落としではない。冬厳によって踵に全体重をかけた、およそ50kgの衝撃。


「チッ!」


 ヨウサイは刀を盾代わりにしたが、そのまま刀に50kgの衝撃がぶつかる。


「っ――!?」

「ラァァァァァァァァァァァァッ!」


 俺の踵落としはそのままヨウサイを巨大な音と共に地面に叩き落とした。


「……さてと、どうだ」


 次に俺が地面に着地する。手応えはあった。あれを喰らって平気でいられる訳が……


「ゲホッ、ゲホッ、あぁっ、いてぇ……」


 ……は?


「あぁ、ったくよぉ、油断しちまったぜ。まさか一撃もらうとは思わなかったなチクショウ」


 な、何なんだよ本当に。コイツ、鉄墜喰らったのに平気で立ち上がって頭を搔いているってどういう事だよ。


「あぁ、マジいてえ。関節外れたかな」


 けど全然効いていないという訳ではないみたいだ。地面が半壊している所を見るに、喰らったには喰らったが、単にコイツがタフなだけだ。


「さてと、直すかな」


 ゴキンッ! ベキンッ! ヨウサイの腕の関節から大きな音が聞こえ、奴は顔をしかめている。あれは多分、外れた関節を無理矢理直す『あっこつ』に酷似したものだ。ヨウサイは腕を軽く回し、直り具合を確認する。そして俺の方を見る。


「……お前、中々やるな。こんなにいてえ思いしたのは久々だぜまったく」

「あっそ。で、ヨウサイさん? あんたは誰だ?」


 俺が質問すると、ヨウサイは地面に落ちてた黒刀を拾い、そのまま背中の鞘に納刀した。そして俺の質問に答えるかの様に後ろを振り向き、海の方へと歩いていく。そして顔だけをこちらに向け、


「……俺は、『異常』な人間だ」


 そう言い残し、そのまま海目掛けて飛び降りた。俺が慌てて走って下を見たが、そこには誰もいない。


「……『異常』な人間、ね」


 そんな事言われてもな。それだけじゃ、教えませんよって言ってるモンじゃねえか。


『警察がやって来ます。早く退散して下さい』


 すると黒眼から警告表示が出てきた。やべえな、このままここにいたらってもいない濡れ衣を着せられる事になっちまう。


『警察に気付かれずに逃げるルートは……』


 俺は黒眼の表示に従い、この場からサッサといなくなった。

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