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射城学園の殺し屋  作者: 黒楼海璃
壱 『異常』に『異常』で『普通』じゃない
14/44

拾参殺

 授業が終わって昼休みになったのだが、何故か俺だけがまた理事長に呼び出された。


「ごめんね。さっきも呼び出したのに」

「気にせんで下さい。それよりも今度は何ですか。こっちは授業で疲れてるんですよ」

「いやぁそれがさ、また暗殺の仕事があるんだ」


 そう言うと理事長は俺の前に書類を出す。


「今度の獲物はある暴力団の組長。ソイツは麻薬取引を結構やってるらしくて、厄介の種だから消してくれってに言われたんだ」


 俺は書類を受け取ると中を確認する。場所は、港町?


「それでその獲物は港町で取引しているらしいんだけど、一つ厄介な事があるんだよね」

「何ですか厄介な事って?」

「その獲物さ、面倒な事に『えいそうようへい』を雇ってるらしいんだ」

「はあっ!?」


 自衛武装傭兵。人はそれを『えいへい』とか『へい』とか『へい』とかという風に略して呼んでいるが、要は金で動く何でも屋。様々な所で雇われ、文字通り武装をしていて、逮捕権、そして殺害権を持っている。大半は警察の仕事を手伝ったり、民間に雇われたり、或いは政府に雇われて人を消す仕事を請け負ったりしている。


「ちょっ、ちょっと待って下さいよ理事長。何で自兵が暴力団に雇われてるんです?」


 だが自兵――俺はそう呼んでいる――は基本的にはヤクザや犯罪者に雇われる事はまず無い。もし雇った後で犯罪者だと分かれば逮捕、或いは殺せる。なので自兵が暴力団に雇われているという事は、それに気付いていない、或いは気付いていてワザと雇われたまま、最悪考えられるのは潜入している、という事になる。


「それがね、どうも雇ってるのは自兵の偽者らしいんだ」

「に、偽者?」

「うん。でも、偽者を名乗ってる割には結構強いかもしれないよ。充分気をつけてね」

「……はい。分かりました」


 俺は書類を一緒に貰った茶封筒にまとめて入れる。


「それで理事長。がいないのは何でなんです?」

「あー、それがね……」


 すると、ドドドドドドドドドドドドドドドドドド、


「……噂をすれば影とやら」


 ――バンッ!

 ドアが思いっきり開く。


「お兄ちゃーん!」


 ――ガシッ

 ――ベキッ!


「ガッ!」


 説明すると、伊佐南美が理事長室に入ってきて早々俺に思いっきり飛びついて抱きつき、その拍子で伊佐南美の胸と両腕に挟まれた俺の肋骨が折れ、俺が痛みに声を上げた、といった感じだ。


「お兄ちゃん! お兄ちゃん! お兄ちゃーん!」


 我が妹伊佐南美は笑顔でスリスリと顔を俺の胸に擦りつけてくる。なので、

 ――ゴンッ!


「いったぁーい!」

「伊佐南美てめぇ! やって来て早々抱きつくのは良いけど、人の肋骨折ってんじゃねえ! 殺すぞ!」


 俺が怒鳴ると伊佐南美は俺から離れて慌てて頭を下げる。


「ご、ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」


 そしてペコペコと頭を下げて謝ってくる。いくら伊佐南美でも俺に殺されるのだけは嫌らしい。


「まったくよぉ。毎度毎度俺の骨折るなよな」

「毎度の事なんだ……」


 とりあえず折れた肋骨は『あっこつ』――折れた骨や外れた関節を激痛と共に無理矢理治す整復術――で治した俺と、怒られてしょげてた後で俺に頭を撫でられてすぐに笑顔に戻った伊佐南美を理事長は顔を引き攣らせて見ている。


「で、伊佐南美。また俺に会いに来たのか?」

「それもだけど、理事長さんに呼ばれたの」

「は?」

「うん呼んだよ」


 さっきまで引き攣っていた理事長はすぐにケロッとした顔に戻る。切り替え速いねこの人。


「それで理事長さん何ですかー?」

「伊佐南美君に暗殺の仕事だよ。ハイ」


 理事長はそう言って伊佐南美に書類入りの茶封筒を渡す。伊佐南美はそれを受け取ると浮かない顔になる。


「どうした伊佐南美?」

「り、理事長さん。もしかして私、一人で暗殺しに行くんですか?」

「うんそうだよ」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」


 伊佐南美は案の定絶叫する。まあ、今までずっと二人で行動してたしな。無理も無い。


「伊佐南美、理事長は俺達みてえなしがない暗殺者に殺しの仕事を与えてくれるんだぞ。我が儘言うな」

「そ、そうだけどぉ~」

「分かった分かった。その仕事頑張ったら俺からお前にご褒美をやるから」

「頑張ります!」


 伊佐南美は一瞬でやる気を出す。うんうん。俺の妹は扱いやすくて助かる助かる。


「じゃあ俺達はこれで」

「失礼しましたー」

「はい。お仕事頑張ってね」


 理事長はニコニコ顔で手を振ったが、その笑顔は何か曰く付きな顔である事が分かったのは、理事長室のドアを閉じてからだった。


「ねえお兄ちゃん」


 理事長室から出て早々伊佐南美が話しかける。


「何だよ」

「さっきのご褒美の事さ、あれ嘘だったらどうなるか分かってるよね?」


 伊佐南美は可愛い笑顔で聞いてくるが、その笑顔は人を脅す時に出る笑顔と丸っきり同じ。


「伊佐南美、俺が今までこの方お前に嘘ついた事があったか?」

「無いよ」

「そういう事だ。じゃあな」

「じゃあねー」


 俺はここで伊佐南美と別れる。伊佐南美よ、俺がお前に嘘をつかない理由が分かるか? だって嘘ついたらお前、俺の事殺すだろ。いくら『暗殺影シャドー』と呼ばれた俺でもお前に殺されるのだけは御免だぜ。

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