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射城学園の殺し屋  作者: 黒楼海璃
零 悪が蔓延る裏の世界。そんな世界を生きる無法者。
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零殺

 悪。それは何処にでもいる存在。悪の化身、悪人、表の悪、そして裏の悪。何処にでも悪はある。善があれば必ず悪はある。そして悪は決して消える事はない。一度消えてもまた現れる。表の悪が裁かれようとも、裏の悪は裁かれない。法にも人にも天にもすら裁けぬ裏の悪、そんな世界に身を投じ、闇に紛れて悪を滅する無法者。


「……それが俺達、殺し屋稼業、か」


 時は遡る事約1900年代の夜。とある場所に男1人、女2人の計3人の男女がいた。男は身長180cm前後でボサボサの黒い髪にドス黒い目、そして全身を奇妙な服に覆われていた。それは真っ黒いロングコートだった。但し『普通』のコートではなく、『異常』だった。男の足首辺りまでを覆うぐらい長く、沢山の金具が彼方此方に付いていおり、長いベルト二本が体にX字に巻かれている。ベルトは他にも腰と腕に二本ずつ巻かれてあり、コートの下側は黒い長ズボン。両手には黒い手袋を嵌めており、口元は覆面の様な物で覆っている。まるで忍者の様に。それに男の右目が左目に比べて『異常』に黒い。まるでカラーコンタクトでも付けているのではないかと言うくらいに。更に付け加えるなら、男は背中に一振りの日本刀を背負っていた。その日本刀からは『普通』ではない雰囲気が漂っている。

 そんな男の肩を、その隣にいた女が指でチョンチョンとつつく。


「どうした?」

「…………」


 女は身長が165cm前後、黒いロングストレートに麗しい黒い瞳、男が着ている黒いロングコートとほぼ形が似た黒いロングコートを着ていた。違う所は下が黒いロングスカートであるという所、覆面を付けていない所、そして物静かそうで大人しそうな雰囲気を漂わせていた。

 女は喋らず男と目を合わせる。たったそれだけの動作で、男は女が言いたい事が分かり、代弁した。


「しかし我らは生涯、正義の人として謳われることは有り得ない。何故なら我らは法の下に属しない。如何なる罪をも犯し、何とも思わない無法者、か。うんうん、確かにそうだな」


 男は女の頭を撫でながら頷く。女も男の真似をする様にコクコク、と頷く。


「そして我らは裏で忍び、戦い、ひっそりと朽ち果てる。誰にも褒められず、称えられもせず、静かに散る無法者」


 そこへ不意に、黒尽くめの女の隣にいたもう1人の女が続けて言った。女は身長170cm前後、緑髪みどりがみに碧眼の結構な美人、ブラウンのロングコートを羽織り、白いブラウスにブラウンのロングスカート、ブラウンのブーツを穿いていた。一見すると『普通』の美女にしか見えないが、それは絶対に有り得ない。黒尽くめの男と女は知っている。この女は『異常』だ。昔一緒に育ち、学び、戦う仲だからこそ分かる。


「なあかえでさん、いつの時代でも裏の世界はアレだよなぁ。なんつうか、見てるだけで吐け気がするぜ」

「そんな事言わないで頂戴、らんぞう君。そんなのいつでも何処でも皆同じ。『普通』の出来事じゃない。でしょ九四七雫ちゃん?」

「…………」


 黒尽くめの女はブラウンコートを着た女と目を合わせる。それだけでブラウンコートの女は黒尽くめの女が言いたい事が分かった。


「私も乱蔵さんとは同意見。分かっている事だけど、こんな裏の世界は見てられない、か。まあ、九四七雫ちゃんの言ってる事も一理あるわね」

「おい楓さん、何で俺の時と九四七雫の時と対応が違うんだよ」

「だって乱蔵君は短気で面倒臭がりでスケベだけど、九四七雫ちゃんは普段から大人しくて優しくておまけに可愛いからに決まってるじゃない」

「何だとテメェ!」


 男は一瞬でキレ出し、『異常』な殺気が放出される。


「確かに俺が短気で面倒臭がりでスケベなのは自覚あるし、九四七雫が普段から大人しくて優しくて可愛いのは知ってるけど酷い言われ様だなそれは!」

「そう思うんだったら少しは改善しなさいよ。本当に乱蔵君には困ったものよね。すぐにキレて喧嘩するし、部屋は散らかったままで片付けようともしないし、私や九四七雫ちゃんがお風呂に入ってる時もしょっちゅう覗くし」

「上等だ! テメェからブッ殺してやる!」


 男が暴れそうになるのを黒尽くめの女が羽交い絞めにして止める。そして黒尽くめの女はブラウンコートの女に目を合わせる。


「ほら乱蔵君、九四七雫ちゃんが、『怒らないで乱蔵さん。私は別に裸を見られても平気だから』って。ていうか九四七雫ちゃん、宥める所少しズレてるわよ」


 それを聞いた男は何故か殺気を収め、落ち着くと羽交い絞めを振り解き、黒尽くめの女の方を見る。


「……九四七雫、わりい。俺いっつもこんなんで」

「…………」


 黒尽くめの女は一言も喋らず、只男と目を合わせた。


「……気にしないで乱蔵さん。私は、私の事を第一に思ってくれてる乱蔵さんの事が好きだから一緒になりたいって思っただけ。だから乱蔵さんは気にしないで、いつも通りに狩り尽くして、か。ありがとな九四七雫」


 男は黒尽くめの女の頭を撫でる。おかげで黒尽くめの女はニッコリと微笑み、ブラウンコートの女はニヤリ、と笑う。


「本当に2人共仲良いわね。でもよく口喧嘩とか起こらないわよね。乱蔵君の事だからすぐに起こりそうな気がするんだけど」

「あのな、いくら俺でも九四七雫相手に口喧嘩は絶対しねえよ。そんな事したら俺の方が一方的じゃねえか。只でさえ九四七雫は『喋らない』のによぉ」


 そう。黒尽くめの女が一言も発しない理由は、喋らないから。否、喋れないからだ。男はそれを知っているから、殺し合いはしても口喧嘩だけは絶対しないと決めていた。


「まあ、そうね。ところで2人共良いの? そろそろ時間じゃない?」

「あ!」


 男が右側の虚空をジッと見つめる。その後すぐにブラウンコートの女の所に歩み寄る。


「そうだったな。んじゃあそろそろるか」

「そうね。今回の標的は裏で覚醒剤密売をやってる政治家とその一味。高値の報酬に与っている護衛の奴らも皆殺しで」


 黒尽くめの女がコクコク、と頷き、男は背中の日本刀を抜刀した。ブラウンコートの女はポケットから黒い手袋を取り出して両手に嵌め、黒尽くめの女は静かに目を閉じた。


「忍法『きょうちくとう』」

「『心奇牢ミラージュ』」

「…………」


 3人はその場から姿を消した。

 その男は嘗て超が付くほど『狂暴』で、その女は生涯『静寂』であり続け、その女は嘗て『あくじょ』と呼ばれていた。



 時が流れて数十年。東京都某所。ここに若い男2人、若い女1人の計3人がいた。


「しっかしよぉこうげん、俺達がのんびりと暮らしている間に世の中変わったよな。なんかこう、随分とけがれちまったっつうかさ」


 男は面倒臭そうに呟いた。男の年は随分と若く見える。まだ20代ぐらいだ。身長は約190とかなり高く、黒いボサボサの髪、さっきまで寝てた様に見える寝ぼけた黒い目。そして男が着ている奇妙な服。それは真っ黒いロングコートだった。男の足首辺りまでを覆うぐらい長く、沢山の金具やベルトが彼方此方に付いていおり、なんとも『異常』な雰囲気を漂わせるコートだった。両手には黒い手袋、口元は覆面の様な物で覆っている。まるで忍者の様に。それに男の右目が左目に比べて『異常』に黒い。

 話を振られた若い男は至極平然とした返答を言う。


「ふむ、成程。じゅうぞう君はそう捉えるのか。僕としては昔の世の中に戻った、と言うべきだと思うかな。さんはどう思うかな?」


 男は黒尽くめの男の隣にいる若い女に尋ねる。男の身長は約180cm前後、黒いスーツ、白いワイシャツ、黒いネクタイをキチンと着こなし、顔全体を覆う、白い笑い顔の仮面を付けていた。なのでこの男の顔を見る事は出来ない。だが素顔を見なくても分かる。この男もまた『普通』じゃない。そう断言出来る理由の一つは、男が右手に持っている日本刀だ。くろうるしざや太刀たちこしらえのその日本刀は『普通』じゃない雰囲気を漂わせている。2つ目の理由に、この男自身が放っている殺気だ。2人の男女はもう慣れてしまったが、その殺気はまるで『少しでも近づけば斬る』と言わんばかりに『異常』過ぎる。


「私はそうねえ、今も昔も大して変わってない、っていう風に捉えるかしら。どんな時代にでも、必ず裏の社会には悪はあるわよ。それが世の中の『普通』。悪のない世の中なんて寧ろ『異常』よ」


 女はそう吐き捨てた。女の年も男同様20代ぐらいだが、どう見ても『普通』じゃない。身長は約170と高め、黒くてサラサラとしたロングストレートヘアー、何ものにも汚れていない綺麗で黒い目、それぐらいはまだ良い。だが問題はその後だ。女が着ているのは男と形状の似た黒いロングコートだが、普通』じゃない理由の第一に肉付き。一言で言えばグラマーな体型なのだが、まず胸が『異常』に大きい。こんなサイズの胸があって良いのだろうかと思うくらいに大きい巨乳だ。次に四肢。ロングコートで足首まで隠れているとはいえ、吹く風でコートが揺れ、その度に黒いミニスカートが見える。しかもそのミニスカートから露出したむっちりしなやかで柔らかそうな太股が『異常』なまでに色っぽく、ついつい見とれてしまう様な色香を持っていた。第二に顔。その女は顔を隠していない。おかげで女の顔がよく見える。その顔はあまりにも、絶世の美女に例えられるぐらい美貌であった。街中で男と擦れ違ったら間違いなく全員が振り返ると豪語出来るぐらいに、美しい。


「まっ、それを毎度の如く狩るのが私達のお仕事なんでしょうけど」


 女はンーっと伸びをしながら言う。そして伸びをした事で女の馬鹿デカイ胸が大きく揺れる。それをジーっと見ていた黒尽くめの男が色目で女を見る。


「なあ伊佐南祈、お前また胸大きくなったんじゃねえのか? これ終わった後で触らせてくれよ」


 黒尽くめの男の言葉に女は顔を赤く染め、両腕で胸元を隠す。


「もうっ! 獣蔵さんったら! 今はそういう事言わないでって言ってるじゃない!」

「それはそうだけどよぉ、やっぱお前の胸見てたら我慢出来ねえんだよ。な、良いだろ?」


 黒尽くめの男は両手を合わせ、頭を下げてお願いする。女は少し考えた末、


「……じゃあ、このお仕事で頑張ったら、その、いくらでも」


 女が恥ずかしそうに言うと、黒尽くめの男は物凄く嬉しそうな顔になる。


「よっしゃあ! 全員皆殺しにしてやる!」


 男がやる気満々でいると、その2人のやり取りを見ていたスーツ姿の男が景気良く笑う。


「はっはっは。いやぁ本当に獣蔵君と伊佐南祈さんは仲が良いね。羨ましい限りだよ」

「んな事言うんだったら、お前も早く女作れよ。結婚する時は俺達がちゃんと祝ってやるから」

「ありがとう獣蔵君。でも、出会いというのは花の様にパッと咲き、花の様にパッと散るものだからね。特に僕の場合は」


 スーツ姿の男が顔を俯かせて言うと、黒尽くめの男はさっき言った事が失言であった事に遅れて気付いた。


わりい光元。つい口が滑っちまった」

「いやいや気にしないでくれ獣蔵君。僕は君と違って助平では無いからね。まあ、気長に探すさ。助平である君が色気のある伊佐南祈さんを手に入れられた様にね」

「お前サラッと失礼な事言いやがったな」

「うん? 君が助平なのは事実じゃないか。中学高校とよく僕を巻き込んで女子更衣室を何度覗いた事か。僕は正直気乗りしなかったんだがね」

「嘘つけ。お前の方がスケベだろうが。特に小学生女子の着替えを覗こうと言って無理矢理連れられた挙句にバレて親父達に殺されかけたのは俺なんだぞ?」

「はっはっは。僕は君と違ってグラマーな体型の女性はあまり好みでは無いからね。どちらかと言えば年下の女性に興味があるからね」

「このロリコンが」

「どうとでも言えば良い。後で殺してあげるがね」


 スーツ姿の男は持っていた日本刀の柄を握り、鯉口を切ろうとしていた。


「上等だぜ。『あつにくすじ』」


 黒尽くめの男の全身からバキバキと音が鳴り、さっきまで中肉だった黒尽くめの男の体が、コート越しでも分かる筋骨隆々の様な筋肉質になり出し、それと同時に『異常』な殺気が放出される。


「ちょっと2人共止めなさいよ。もうすぐお仕事の時間よ」


 女が2人の間に割って入り、2人が殺し合いになる所をどうにか止める。2人の男は女に止められて『異常』な殺気を収めていく。


「悪い悪い伊佐南祈。ありがとな」

「済まないね伊佐南祈さん。君が止めてくれなかったら今頃東京の人口の3割ぐらいが滅んでたよ」

「もう! 2人はいっつもそうなんだから! 少しは仲良くしなさいよね!」

「何言ってんだよ伊佐南祈。俺と光元はよく一緒に覗きに行ったぐらい仲が良いぜ? いざとなりゃグチャグチャに引き裂くけどな」

「そうだよ伊佐南祈さん。僕と獣蔵君は共に育ち、学び、強さを競ってきた言わば親友だよ。尤も何かあったらすぐに惨殺してあげるがね」

「だからそれを止めなさいって言ってるのよ!」


 女がプンプンと怒る。この男2人はこんな会話をいつも平然とやっている。なので女の方も度々疲れてしまう。


「ていうか2人共、本当にそろそろ時間なんだけど?」

「おお、もうそんな時間か。んじゃ光元、この続きはまた今度にしようぜ。そン時はちゃんと殺してやるから」

「望む所だ。遠慮なく惨殺させてもらおう」


 黒尽くめの男はさっき元に戻したばかりの体をさっきの様な筋肉隆々に戻し、女は着ていたロングコートの上の方だけを脱いでその大きい胸が強調された白シャツ姿になり、スーツ姿の男はさっき抜きかけた日本刀を抜刀した。


「忍法『ひゃくじゅうへん』。俺は伊佐南祈のそのバカデカイ胸を揉むまで死にはしねえぜ」

「忍法『いろこいぶみ』。じゃあ私は獣蔵さんに胸を揉まれるまで死ぬ訳にはいかないわね」

「忍法『おとげっかい』。では僕は獣蔵君と殺し合いをするまで死ぬ訳にはいかないね」


 その男は嘗て『獣』と呼ばれ、その女は嘗て『蠱惑』な魅力を持ち、その男は嘗て『冷酷』で『残忍』で人々に恐れられていた。



 再び時が流れ、2013年。その少年は『影』と呼ばれ、その少女は全てが『霞』がかっていた。

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