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第八話 来春

 恐かった。その恐怖心がどこからくるものかも痛い程わかっていた。彼がした事は、許せる事ではなかったし、あたしを傷つけるのには十分な出来事だった。それなのに、彼は急にあたしに優しくした。あたしが一人で帰るのを止めて、送ると言いだした。考えられない出来事が起きて、あたしは混乱せざるを得なかった。

 バスの中で揺られながら、あたしと秀司は目を見合わさない様に、そして体を触れあわない様にするのに必死だった。

 妙な緊張が漂う中、あたしの家に近いバス停までくると、秀司もそこで降りた。

 前にもいったように、彼の家はあたしの家から結構距離がある。なのにそこで降りるのには、あたしに話があったからだろうか。でも、あたしは話を聞く気になんてなれない。早足にバス停を離れた。

 だが、あたしは気づくのが遅かった。彼が帰る道はあたしと途中まで同じなのだ。当然方向も同じだ。

 ついて来るのは当然のことで、あたしはもう一つの足音を耳にしながら帰らなければならなかった。あたしより早く歩けるのに、彼はあたしより先を歩こうとしなかった。

 あたしは長く続く沈黙に耐えきれなかった。後ろにいるのはあたしを傷つけた人だ。そんな人にずっと付きまとわれるような感覚を味わうのは嫌だ。

 立ち止まると、後ろについていた足音も消えた。

「なんのつもり?」

 あたしの声は震えていた。

「なんもねぇよ」

「あたしの事、キライならほっとけばいいじゃない」

「そうだけど、そうもいかない」

 曖瑁な返事に、あたしは彼の方をみないわけにいかなかった。

「はっきりいいなさいよ! あたしのことほっときたいなら、そうすればいいのよ。あたしはもう、あんたなんて好きでもないし! むしろキライなんだから」

 彼を命一杯にらみ付けてから、また歩きはじめた。足音はまだ聞こえてくる。彼は何も言わない気でいるけど、あたしはそれが気になってしまう。

 だんだんその足音さえもうっとうしくなり、あたしは走っていた。家まではすぐだし、別に送ってもらわなくてもよかった。走っている間に、彼の足音はなくなっていた。

 彼の意図がわからない。何もかも、あたしが感じた全てのモノに謎を感じる。ただ、あたしは彼を忘れる事ができないんだと確信する事しか。


 佳枝は脳天気に昨日は楽しかったね、なんて事を口にした。まだ腹立たしい気持ちの残っているあたしには、佳枝さえ憎く感じてしまう。ひきつったままの笑顔で佳枝の望む答えを口にした。

 秀司は何一つ変わらず、いつものように、いつものメンバーとつるんでいた。昨日の事が嘘のように感じれるくらい、あたしは彼を遠くに感じた。

 月日は激流のように流れていった。

 あたしは新たな恋を無理して探す事をやめた。合コンはもうこりごりだった。あたしには佳枝のように簡単にだれかと仲良くなる様には出来てないし、複雑な恋だって出来るはずない。ただ、彼を忘れる事ができないのなら、思い出に変えるしかないと諦めていた頃だった。

 

 春、あたしは高二になり佳枝とはクラスが替わってしまった。そして、なんでか幼なじみの高司と同じクラス。最悪な事に秀司もあたしと一緒のクラスだった。あたしはとことん、地獄に落とされる運命にあるのかもしれないと自分を呪った。

 佳枝と離れたのは、少しほっとしていた所がある。彼女はあたしを利用する面があったから、いつでもあたしは佳枝の付き人みたいなものだった。おかげで高一のときに出来た友達は佳枝のほうにばっかりいく子だ。佳枝は仲の良い友人で、それ以上にはなれなかった。たとえ、彼女に親友という言葉をあたしに投げかけられても、心の中で否定するしかできなかった。

 佳枝はなるべくあたしのクラスに来ると言っていたけど、来るコトはなかった。お昼ぐらいしか一緒になるコトはなかったのだ。

 おかげで、あたしは新しいクラスに馴染めたし、秀司のコトを除くとこのクラスにあたしはだいぶ溶け込んでいた。高司もあたしと秀司のコトを良く知ってるので気づかってくれるし、この一年うまくやっていけそうなきがしていた。

「美香、球技大会なにする?」

 友人の一人、遥があたしに聞いた。遥は派手好きで、制服の着方がすごくカワイらしい。それでもって、顔はちっさいし目は細めで美人といえる顔つきだ。それでもって、ストレートで長い髪をいつもアレンジしてくる姿は誰かに恋してるからだと、すぐに気づいた。

「うーん、みんなで楽しく騒げる奴がいいんだけど」

「じゃ、バスケしよ! あっちゃんと、ヤッスとタカちゃんとあたしと美香で」

「混合バスケするってこと?」

 遥の目は輝いていた。あっちゃんは背の高いバレー部の女子だ。今年の夏にはキャプテンになるとかで、今から気合はいってる。ヤッスは同じくバレー部だが、男子バレー部の方だ。高司と仲がよくそれつながりであたしたちも仲良くなった。タカちゃんは遥がそう呼んでるだけで高司のことだ。

「あたしソフトボールしたいなぁ。もっといろんな人呼んで」

 遥は低く唸る声をだして、後ろにある黒板を見た。そこに競技とやる人の名前を書くようになっている。

「ソフトは名前かいてあるよ。見てよ、あたしあの辺の人苦手なんだけど」

 黒板にはあたしも苦手な秀司たち、クラスの中じゃ目立つグループの名前があった。あたしたちが名前を書いたら丁度よい人数になる。でも、遥と同じ様にあたし達も秀司のいるグループと関わる気にはなれなかった。

 でも、あたしはやっぱり呪われていた。



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