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第三十三話 告白

 千羽鶴が完成したのは、10月にはいった頃で季節的にも寒さが増してきて頃だった。

 高司とは今も友達としてつきあっているけど、あたしがそうなのかぎくしゃくしてしまう時がある。そういう時は遥が簡単に見抜いてしまい、あたしは少しだけ遥に怒られた。

 それから、ちょっと前に美沙に呼び止められてあたしは一発平手打ちをくらった。相変わらず手の早い女の子だ。秀司の傍にあたしがいない事を怒ってるみたいだったけど、あたしにはいい迷惑。それに美沙にしてみればあたしがいない方がいいんだろうに。でも秀司を心配してくれている事がうれしかったから、あたしからは殴り返しはしなかった。

 秀司は九月にはいってから学校に来る回数が減っていった。

 あたしはおばさんを通してなるべく秀司の見舞いに行っているけど、話はしない。あたしが声をかけても聞こえない振りをされたり、返事を返すぐらいで会話にならない事が多かった。今は治療が厳しくなり、入院生活が続いている。

 秀司の姿を見ると日に日に変わっていっている。声もどこか元気がない。見ないに来る友人のほとんどにあたしみたいな態度をとってると、励ましでおばさんが言ってくれたことがあった。もしそうなら、悲しい。秀司のやっていること寂しいことだって、あたしは言ってやりたい。でも、いまのあたしじゃ無理だって思った。

 だけど、千羽鶴が完成した。これを届けた時、あたしはちゃんと伝えるって決めた。もう一度あたしと秀司の気持ちが向き合えればいいと。

 病院につくとすぐに病室の方に足をほこんだ。すこし大きめのバックを持っているのは初めてだから、顔なじみの看護婦さんに何を持っているのか聞かれ、千羽鶴と答えると嬉しそうに笑ってくれた。

 おばさんは今日は来れないって言ってた。おじさんが遅くに顔を見せに来るって話だ。

 病室の前で立ち止まり二三度深呼吸を繰り返した。それからおもいっきりため息を吐き出して、ドアをノックした。中からはーいという秀司の声が聞こえ、あたしはすぐに中に入った。

 秀司の目があたしを見てすぐに、別の方を向く。それを気にしないように秀司の傍にあるイスに腰掛けて、鞄を布団のうえにのせた。そして秀司が鞄の方を見たのを確認すると鶴を取り出した。小さめのやつだけど、ちゃんとカラフルな千羽鶴になってる。

「じゃーん、秀司の病気が治るように・・・折ってみたんだけど、どう? 上手いっしょ?」

 あたしが手に持った千羽鶴に手を伸ばして秀司はそれをつかんだ。そのまままじまじと眺めまわした後に、あたしの方を見た。

「すごいでしょ? クラスの人にも手伝ってもらったから、いっぱい気持ちはいってるからね」

 とくに関心のない目が、呆然と鶴を見ていた。その瞳にはあたしはやっぱり映っていない。意志の薄い瞳。あたしが知っている目ではなかった。寂しい瞳。ともいえる。

「あたし、決めてたんだけど・・・これが完成したら、告白しようって」

 反射的にあたしの目をみた秀司の表情は驚いていた。

「気持ち、伝えなきゃならないなぁって。だって、めちゃめちゃ好きなんだもん」

 今度は、顔をうつむかせてあたしには見えないところに顔を向けた。

「・・・なんか言ってよ」

 無反応。鶴を握る手にゆっくりと力が込められていくのが見えるだけだ。

「何も言わないなら、あたし勝手に秀司の事好きになって、勝手に見舞いとか来ちゃうから」

 それでも無反応。ついにあたしは、泣き出してしまった。静かにそっぽを向く秀司にはあたしが泣いていることを分からないように。静かに。

 急にあたしの前に鶴が現れ、秀司があたしの気持ちに答えを出したんだと思った。断るってことなのかな、って思って、鶴をゆっくり握りしめると胸に抱いた。

「どうしてもあたし、傍にいちゃ駄目なの? どうしてか、わかんない。あたし一緒にいたいのに。寂しく、ないの?」

 あたしを見ない。答えようともしない。

「答えてよ!」

 握っていた鶴を秀司にぶつけた。ぐしゃっとした音がして、すぐに床に落ちる。呼吸が荒くなって、息がよく聞こえてくる。あたしこんなに怒ってるのはじめてかもしれない。こんなにむかついてるのは久しぶりで、こんなにむしゃくしゃするのも・・・。

 笑いたかった。怒るつもりなかったのに。 

「困る」

 秀司の声に反応して、顔を上げた。でもあたしを見てはいない。

「オレは、一人でいいよ。誰とも関わりたくないし・・・もう、傷つけるのも傷つけられるのもうんざり」

「あたしは傷ついたりしない、秀司といれたら、それでいい」

 秀司はあたしをみて、力の抜けるような笑みを浮かべた。

「ばか。オレはそんなの嬉しくないよ」

 わかってるよ。秀司の気持ち。あたし痛いほどよくわかってるからさ。

「傍にいたら迷惑?」

「迷惑」

「勝手に一緒にいても、いい?」

「だめ」

「でも、会いにくるから」

 ついに秀司は黙った。あたしは言葉を続けた。好きだってことをいくらでもわからせたい。秀司の身に染み込むくらい、いっぱいに言ってやりたい。

「好きだよ」

 秀司はあたしの方を見て、困った顔をした。それから、あたしの肩をつかんで抱き寄せると、きつく抱きしめた。

「もう、わかった。観念する」

 気持ち、伝わったんだよね。やっとあたしの事認めてくれたんだよね。だめとか、嫌とかもう言わないんだよね。あたし秀司の傍で笑ってもいいんだよね。

「よろしい」

 あたしも背中に腕をまわして秀司の心臓に近い場所に顔を埋めた。音が響く。胸板は薄くなってるけど、体の細さなんて気にならない。あたしから見れば、秀司全然元気だよ。まだ、死んだりするなんて考えられないよ。

 力を込めて抱き合うと、心地よくなって眠ってしまいそうになる。泣き出したくなく瞳をぎゅっと閉じて、秀司にしがみつく。

「本当は・・・会いたかったから。やっぱり離れてると・・・しんどいし、気が変になりそうだったよ」

 あたしは小さくばかっと口にした。本当に大ばか。あたしも秀司も。

 これからはもっと傷付くことがあるかもしれない。でも、ずっと傍にいさせてほしい。生きてる事を一緒に嬉しく感じたい。あたしと秀司の恋は恋じゃなくなってても、まだそれには気付きたくなかった。

 

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