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第三十話 ツル

 本当の気持ちを覗けたら・・・いいのになぁ。

 人の気持ちを見透かせる力とか、あったらまず初めにあたしは秀司の心を覗きたい。ちゃんとあたしを見てくれてるのかなとか。ってあたし・・・フラれたんだよね。微妙なとこだけど。

 あれからあたしは千羽鶴を折ることにした。よくするじゃん、入院中の親戚とかに「元気になるように」とかって折るじゃん。あれをあたしもしようかなって思ってるの。信じれば、きっと届く。あたしの気持ちも、病気を治したいっていう気持ちも。一つ一つに祈りを込めて。

 何日かかるだろ。なんていっても、あたし鶴の折り方とか分かんないし。折り紙みたいな細かい作業嫌いだし、苦手だし。不得手なことをするっていうのは、難しい。

「そんなこと言ってないで、さくさくっと作っちゃいなさいよ」

 あたしに鶴の折り方を教えてくれながら、ぶつぶつと文句を言った。あたしだって作れるもんならさくさくっと、早くに完成させて、さくさくっと渡しにいきたいんだけどね。

「あたしも手伝うよ。あんまし仲良くないけど、元気になってほしいからね」

 言ったのはあっちゃんだ。秀司が入院していることはクラスのほとんどが知っている。でも癌だってことは誰も知らない。あたししかきっと、知らないんだと思う。あたしが勝手にそう思ってるだけで、意外と美沙とかは知ってるかもしれないな。

 千羽鶴は少しずついろんな人に手伝ってもらいながら、一羽一羽形が出来上がっていく。真っ白も、赤もオレンジも黄色も。いろんな色が百色ずつ集まっていく。

 あたし、決めてるんだ。この千羽鶴全部折れたら、秀司にもう一度だけ気持ちを伝えるって。それで、できるだけ秀司の望みを叶えようって。だから、早くにできなくていい。ゆっくりでいいから、秀司が長く生きられるように時間をかけたい。

 

 病院から退院したのは、学校が始まってから二週間経った頃だった。 

 クラスに顔を見せた時、あたしと秀司には新たに壁ができた気がした。あたしは友達ってことにしたかった。というのも繋がりが欲しかっただけなんだけど、秀司のことを見放したくなかっただけなんだ。病気の彼をどうして突き放したりしてしまうのか。彼女だったら絶対しない。でもあたしは彼女じゃなかった。

 だから友達。だから喋ってもいいはず。じっと秀司を見ていてもいいはずなんだと思った。

 でも、目もあわせないであたしなんて無視してる。眼中なしであたしの存在を、教室から消そうとしているようにも見える。あの時よりもひどい。夏のバイトの時、話しかけても遮ってばっかだったあいつ。今は話しかけてもあたしを見ない。見ないで話を遮ろうとせずにあたしをシカトする。

 慣れたっていうと嘘だけど。もう、秀司がそこにいるだけでいいって思う。今は無理してでも秀司のそばにいてやる。嫌がっても、この千羽鶴が折れたら、何かがかわる気がする。あたしの中でも、秀司の中でも、ちょっとした何かがかわると思った。

 

「吉田と別れたって本当か?」

 直球っていうか、それ誰にも話してなかったんだけど、なんで知ってるの?

「だから、態度というか二人見てたらすぐ分かるし」

 高司はあたし用にリプトンのピーチティーを机の上に置いて、ゆっくり机をはさんで前にあるイスに腰掛けた。それから色分けしておいた折り鶴を持ち上げて眺めまわした。

「へったくそだな」

「おかげさまでね。分かってるでしょ、あたし保育園の頃から折り紙とか苦手だし」

「そうだっけ? 美香って結構不器用なやつだってことは知ってるけど」

 不器用ね。ま、確かにそうかも。

「今日、バイトないの? っていうか・・・最近暇そうよね」

「そうかな? ま、バイトやめてから特になんにもしてないからな」

 ふーん。あたしなんて鶴折ることぐらいしかやることないんだけどね。

「で、なんで別れた?」

 高司の手にはいつの間にか赤色の折り紙があった。折りはじめるらしく変な鼻歌を歌っている。

「綺麗に且つ、祈りを込めて・・・折ってよ」

「祈りねぇ」

 バカにしたように高司は笑った。とはいえあたしもちょっと祈りって言葉、恥ずかしくなっちゃたんだけど。

「・・・別れたのは、お互いにちょっとしんどくなっただけ。あたしはまだあきらめてないし、まだチャンスはあるとおもってるからさ」

 鶴を折る手を止めてふーんとだけ、高司は言った。

「もし、今、美香のこと好きだって言う奴が現れても・・・美香はそいつになびかないんだ」

 そんなの起こりえない話なんだけど・・・っていうかなんでそんなこと聞くんだか。

「なびかないわよ。あたし秀司にしか興味ないし」

 言ってすぐ高司は笑い出した。自分でもちょっと笑いたくなるような台詞だったけどさ、人に笑われるなんかむかつく。

「ちょっと笑わないでよ。だいたい、なんでそんなこと聞くの?」

「そんなの、好きだからに決まってんじゃん」

 あたしの手から鶴が落ちそうになった。言葉の意味を読み違えてるかもしれないと、頭を振って少し笑ってやった。

「な、なにが?」

「とぼけられると、困るんだけど・・・」

 そんなこと言ったって、あたしに対して高司がそんな気持ち持ってるとは思えなかったから。顔が赤くなっていくのが分かる、焦って鶴が机の上に落ちる。

「とうの昔にあきらめてたんだけど・・・決定的に振られたって感じだな」

 高司があたしが途中まで折っていた鶴を拾って手に乗せた。その時にちらっと見た顔が胸を締め付けるくらい、寂しそうだ。

「ごめんね・・・ずっと一緒にいたのに気付かなくて」

 気付くべきだった。あたしたちは幼い時から一緒にいて、いつも遊んでた。どんなときも相談に乗ってくれて、へたな女友達なんかよりつき合いやすくて、最高の友達。だからあたしは高司の気持ち見てあげられなかった。

 泣き出したりしなかったけど、泣きたくはなった。いつも甘えていた人に、秀司の話ばっかりして・・・傷つけてた。あたし駄目なんだ。本当に秀司がいなくちゃ駄目なんだ。


 

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