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第二十四話 勝手

 冷静になるとよく分かる。あたしってめちゃめちゃわがままだ。

 どうして人の事をもっと考えてあげられないんだろう。昨日の秀司との言い争いなんてまるっきり、秀司を無視してた、最悪だ。謝るべきだと思うけど、謝りにいけない。どうしてこんなに我をはってるんだろう。こんなに自分勝手すぎてたっけ、あたしもっと人に優しくできる子だって思ってたけど、秀司に対しては違うのかな。あぁ、もうやだ。

 ケンカじゃないと思ってたんだけど、あたしと秀司の考えてることは違っていたのか、あの日以来秀司とは口をきいていない。会っても目を合わせたりもしない。あたしが見つめても、秀司はあたしを見ようとしない。話しかけようと、口を開いてもすぐに遮られる。

 避けられるって事、なんか辛い。

「まぁ、まぁ、今だけだって。気落とすなよ」

 子供扱いして、もっさんはまたあたしの頭を撫でた。最近の相談相手はもっさんか、愛美になっている。二人とも経験豊富なものだから話しやすい。でも、子供扱いはやめてほしいんだけど。

「はぁ、そういいますけど・・・本当にこのまま喋らなくなったら、あたしどうなっちゃうんだろ」

 思わず頬を手で包んだ。そのまま顔を埋めて、考えるのを止めようと頑張ってみたけど、溜め息を止めるしかできない。それにやっぱりあたしはわがままだ。

 自分の事ばっかりでどうしてもマイナス思考になる。

「美香ちゃん考え過ぎだって。もっと軽くしないとだめだよ、あ、肩揉んだげよっか?」

「いいですよ。あぁ、なんか気が抜ける」

 本当はそうでもないけど、どうせ明日は休みだし。気を楽にするならあしたが適任だ。

 それにしても、どうして彼はあたしとは喋らないくせにサヨとはいっぱい喋るんだろ。いっつも夜になると外に出ていくし。あたしってあいつの何よ。本当にどうなるんだか。

 やっぱり謝らなくて良かったかもって、二人を見ると思ってしまう。だけどやっぱり、あたしは空回りな事を言った。すっきりするためにも、謝るべきだもんな。っとここで溜め息。


 海って結構人のいないイメージがあったけど、よく考えれば今は夏なわけで、人がいるわけで、泳いでばっかなわけで、海はそんなに広く遠くまで泳げるわけじゃなくて、あたしは・・・水着を忘れてしまっていて。

 夏の思いで作りも水着を忘れていては、何にも楽しいことなんてない。あたしってアホだわ。

「美香ぁ、あたしら向こうまで泳ぎにいくから、荷物見ててくれる?」

 ってみんな泳ぎにいくし。民宿から借りたパラソルの下であたしは伸びをしながらシートの上に寝転んだ。周りの景色といえば砂浜には人が埋め尽くし、砂地なんて少ししか見えない気がする。ここって有名なところじゃないけど、人の多い街に近いからよけいそうなのかも。ビキニの美人やら、目を向けたくない人、あたしの目から見てめちゃめちゃ格好いい人とか通るけど、ナンパなんてありえないし。しかもカップル多いし。

 遠くまで行ってしまった秀司を見つめる。麻美ちゃんも愛美ももっさんも、楽しそう。っていうか、あたしに気を使う余地はないのか。あたしに一人でいろって、あぁそうですか。なんか気が滅入る。

「こんなとこに一人でいるつもり、なかったんだけどなぁ」

 見上げた空は、あたしの心に比べるとかなりの差があった。でも、すがすがしい空はすごく好き。

 光が眩しくて、手で目を隠す。そしたらすぐに、秀司の顔が浮かんだ。少し前のあたし達はこんなかんじだった。話すこともせずに、ずっと他人みたいにしてた。

 でも今回はあたしが話しかけようとしても遮られるばっか。しかもサヨの存在が気になってしまうし。

「やんなっちゃう」

 声に出せば出すほど、あたしがみじめに思える。本当にみじめ。


 その日、あたしは結局日に焼けるだけ焼けて、それだけで終わってしまった。

 夜に花火をしようと気を使って、声をかけてもらったけどその気になれなくて、ふてくされたまま部屋に閉じこもった。もう、どうにでもなれって感じ。

 あたしってなんでも空回りしてて、どうやってもひとりぼっちになってしまうのかな。誰かに気を使ってもらっても、今の状況じゃ嫌味にしか聞こえなくなっている。本当は素直になりたいけど、そう上手くできてない。あたしの気持ちを察してくれる様な、都合のいい人現実にはいないから、悲しくなっても人に見られないように泣くしかできない。

 今がそれなんだけど。

「美香」

 そうそう、そうやって呼ばれるの待ってるわけよ。

「美香、起きてる?」

 はっとして顔を上げた。畳の上に寝転んだままだった体を起き上がらせて、部屋の引き戸の所にいる人を見る。秀司だ。妙に声が優しく響いたから別人だと思ってた。

 近付いてくると手を差し出してきた。あたしは無言で眺めると、すぐに目をそらした。

「なんで、今更話しかけれんの?」

 あたしの目にはいっぱいの涙が浮かんでいて、既に流れてるものもあった。

「秀司、あたしのこと怒ってたんじゃないの・・・? 愛想つかしたんじゃ、なかったの?」

 手の甲で涙を拭うと、秀司は畳の上に座って、あたしの手をつかんだ。これは、あたしをあやすときにする行動。あたしもそれに慣れて、落ち着いてしまう。下を向いたあたしの顔を覗き込みながら、ぎゅっと手を握った。

「ごめん」

 そう言うと、あたしの手を引っ張って胸の中に招き入れた。がっしりと体を包み込まれ、力強く抱かれる中で自然と涙が溢れた。

 あたしの居場所に帰れた。うれしくて涙が出た。

 背中に手を回してあたしからも力を込めた。温かい背中が心地よくて、体を寄せた。



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