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第十九話 真実

 目が覚めたときに、夢だったら面白いのにと、思った。

 面白いとは適切な言葉じゃない。ただ、考えると現実の事とは思えないし彼がそういう素振りを見せる事がなかったから、よけいに信じられないだけだ。

 夢といえば、あたしは勝手にストーリーまでつくって逃げようとした事もあった。が、逃げても現実がすぐにあたしを追い抜かしてしまった。

 気分はどん底、天気もあたしの気持ちを反映して濁った色をしている。風も、ほどほどに生暖かく、気持ち悪い。夏はすぐそこだと、感じられた。

 少しざわつく教室に入ると、あたしは冷たい空気の中に放り込まれた気持ちになった。遥もあっちゃんもまだ来ていない。ヤッスと高司の姿も見あたらない。そういう事は、よくあった。仲のいい子がいないなんてことは、よくある。けど、今日は様子がおかしい。

 秀司だ。秀司があたしの席に座ってる。覚悟はしてた、昨日のあたしが発した言葉で納得してくれるとは、思ってない。だから、何かしら話しかけてくるとは思ったけど、朝かよ。

「おはよう」

 あたしはなるべく笑顔を向けた。すると秀司は立ち上がって、教室を出ようと指で示した。ここでは、昨日の話なんてできないからかな。

 秀司について行く間、どうでもいい話をどうにか出そうとしたけど、どうやっても笑える話は思いつかなかった。連れてこられたのは、あたしを騙して苦しめた、第四校舎の空き教室。もしかして、またあたしを貶めるつもりかと身構えてみたけど、空回りした。

 適当な席に座ると、あたしたちはまた向かい合った。

「母さんから話聞いた。別れろとか、言われたんだろ?」

 あたしはあさっての方向を向いてみたけど、かえってそれが答えになってしまった。

「・・・気にしてる? って、気にするか。本当なら、オレがそういう事言ってしまうんだろうけど、オレはもうその気ないし、美香がそれに従うとは思えなかった」

 あたしは秀司をみた。口元を笑わせて、どこか寂しく見えた。

「聞きたいことが、あったんだけど・・・。事故で入院してたとき、あたしより早くに目が覚めてたって・・・本当?」

 秀司は頷いた。そうなると、よけいに疑問が押し寄せてくる。

「じゃぁ、あたしの事・・・本当は」

「覚えてた。じゃないと、どうやって隠すんだよ、病気のこと」

 あたしは後少しで、殴る所だった。でも一気に秀司の気持ちを読み取ると、そんな気は失せた。全部流れてくる、あたしの気持ちを考えてしてくれていた事だと、そう思うと胸がつぶされる様な気持ちになった。

「わかった。全部、演技だったんだ」

「そう、演技。結構辛かったけど、意外と演技派だったりするのかな。・・・本当に辛かった、美香に思ってもないことを言うのが一番辛かった。側に行きたいのに、行けないのも」

 あたしはあまりにも背筋がぞっとする言葉をあえて聞き流した。

 言葉にしなくてもよく分かる。うぬぼれてると、思われたっていい。彼は始めからあたしを好きだった。人格を変えたのは、あたしが彼の事を好きにならないようにする為。この空き教室であたしを苦しめたのも、嫌わせようとしたからだった。あたしが一時、身をひいて彼に近付かなかった時は安心をしていたけど、すぐに気持ちはあたしを捕まえようとしはじめた。それによって、あたし達は再びつき合うことになったわけだが・・・。

 全てがわかると、つじつまが合う所が多くて信じられるけど、少し疑うものもある。何しろ、あたしは本当に彼があたしを忘れたと思っていたのだから。

 人格だって見事なものだ。雰囲気さえも変えてしまわれると、あたしが見てきた彼の面影では秀司と判断する事はできないんだから。

「なんか」あたしは頭をおさえた。「驚いた」

 秀司はクスクスと声をだしてわらった。

「オレ、途中から楽しんでたんだよ。言葉遣いも、服装も、友達も全部違ってしまうと世界が変わって見えて、面白かった。美香は怒るかもしれないけど・・・美香の反応も楽しかったよ。ただ、泣かれた時はさすがに全身に悪寒が走ったけど。・・・オレは、諦めてない」

 あたしは頭を押さえていた手を下ろした。秀司は険しい顔をしてあたしを見ている。

「死なないよ。どうにかなるって、そう思う。だから、側でオレが元気になる姿見てよ。死んだりしないから」

 叫んでるように見えた。あたしを必要としてくれるのは嬉しいけど、あたしはその自信がなかった。でも、あたしの気持ちはやっぱり一つしかない。死のうが、病気を治そうが、あたしを騙していた過去があろうが、あたしはまるごと秀司が好きなんだ。

 秀司の手を握った。ぎゅっと、あたしの渾身の力を込めて力強く。

「ごめん、あたしが馬鹿だった。いるよ、ちゃんと側にいる。でも、一発殴らせて。あたしを騙したんだから当然よね」

 あたしが笑顔で言うと、秀司も笑顔で答えた。すぐ後にパチンという乾いた音が響いた。


 

 

評価、ご指摘ありがとうございました!
誤字脱字が多くて、本当にすみません。これからはしっかりと読んでから投稿します。
韓流っぽいですか。そのつもりはなかったのですが、昼メロみたいにはなってるかと思います。なんというか、歯の浮く様なセリフ多いですよね(笑)
これからもこの路線で最後までいくつもりなんで、おつき合いして下さると、嬉しいです。

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