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第十六話 不安

 どうしたの?とは聞けなかった。秀司があたしの手を掴む力は強く、やっぱり汗っぽかった。険しい顔は何を表しているんだろう。何か、あたしにも言えない秘密でもあるのかな。急に不安になる。急いで前を歩く秀司を見ながら、あたしは彼の気持ちが本当に自分に向いているのか信じられなくなっていた。美沙の言葉が何度も頭の中にこだまする。

「話、聞こえた?」

 あたしは俯いていた顔をあげた。秀司はあたしに背をむけていたけど、声は怒っていなかった。もう、あの険しい顔はなくなったのかな。

「・・・本当の事言うと、聞いてました」

「正直者」

 秀司は歩みを止めた。校舎をでて自転車置き場まで来ていた。誰もいないし、自転車もほとんどなくなってる。残ってるのは部活をしてる人ぐらいだろう。あたしの自転車に近付くと秀司は荷台に腰を下ろした。

 あたしを見据える目は真剣。その瞳にあたしはたじろきながら、彼が差し出す手に手を重ねた。

「オレは、ちゃんと、本気で、美香が好きだから」

 名前で呼んだ。あたしって赤面症だったかな。真っ赤になっていくのが分かる。あたしは彼の気持ちを疑ってしまった自分が馬鹿だと思った。こんなに真剣に想われてるんだから、自信持つべきだ。声を出すと裏返ってしまいそうだったから、あたしは首を縦に振って気持ちを受け入れた。

「美沙の事は、話した方がいい?」

 それはあまり気にしてない。あたしと別れてた時の事だから、いろいろあっても全然かまわないし、今の気持ちがあたしにあるなら心配することはない。聞きたい時に、昔話をするみたいに聞けばいいんだし、今は聞かない。あたしは首を横に振った。

「そう。じゃあ、美沙の言ってた事、知りたい?」

 それって。

「隠してる事・・・あるの?」

 秀司は眉間に皺を寄せて、困った顔をした。どうやら、これが一番あたしに聞かれたくなかった事みたい。よく、秀司がつくった顔だった。久しぶりの顔にあたしはまた顔に熱があがってくるのが分かった。

「あるよ」秀司は重い息を吐いた。「たいした事じゃないって、ただ、今は言えない」

「なんで?」

 今、言えないって、そんなに隠すことなんだろうか。

「それも、言えない。それを言ったら、美香はオレのことキライになる」

 首を傾げた。どうなったら、そうなるんだろ。話したくれないと、どうなるかなんて分からないはずなのに。あたしはどうにか聞き出そうと、何度も口を開閉したが、結局秀司の真剣な顔に負けた。

「わかった。今は、聞かない。でもあたしのこと決めつけないで。あたしは、秀司と離れる気ないんだから」

 口元を上向きに釣り上げて、秀司はそうだなと言った。両手を握り合って、気持ちを確かめ合った。汗ばんだ手も、あたしを見る目も、あたしの名前を呼んだ声も全部、愛しい。それを、秀司も感じてくれてたらすごく、嬉しいんだけど、どうだろ。

 期待を込めて見つめてみたけど、笑ってくれるだけだった。


 あたしは眠れなかった。あたしに隠してる事、気になる。彼は何を隠す事があるんだろ、あたしは彼に対してオープンでいるのに。話を聞いてしまうと、どうしても不安ばっかが心に溜っていく。眠れない、目を閉じても浮かんでくる秀司の顔があたしを締め付ける。良い話ではないんだ。だから、隠す。

「話してくれたらいいのに」

 言葉は宙に浮いて消えていった。誰にも届かずに、消えていく言葉をあたしは拾えなかった。拾っても、誰も聞いてくれない。彼が話す時を待つしかない。彼の記憶が戻るのよりは早いはずなんだ。

 記憶、といえば、彼は昔の面影を作るようになってる。

 あたしがよく知る秀司の顔もするし、たまに口癖も出てくる。何か引っ掛かる。何かっていうのが、分からないけど、おかしい。悩みが増えてる事に気づいてあたしは、考えない様にした。たいした事じゃない、いつか気づけるはずだし。

「へぇ、美沙ってやっぱ大胆だったんだ」

 あっちゃんはめずらしくスナックをかじりながら、そう言った。スナックは結構カロリーが高かったりするから、バレー部内で食べる事を控えていたはず。ヤッスもお菓子食べないし、今日みたいなあっちゃんは珍しい。その隣の遥はいつもの様にチョコ菓子を食べてるけど。もちろん、あたしもそれをもらう。

「でも、つき合ってるし、ちゃんと好きだって言われてるならいいじゃない」

 まぁ、それはそうだけど。昨日の夜になってから美沙の事が気になりはじめていた。チャリ置き場の時は、秀司の言葉に安心したばかりだったから聞かないでいられたけど、少し離れただけで思考が変わってしまった。あの二人に何があったのか、そして、どうして今あんなに仲良くしてるんだろ。

 いつの間にか睨む様に話す二人を見てしまった。

「こらこら」

 と、あっちゃんがあたしの目を手で隠す。

「ダメよ、そんなに恐い顔してたら。美香笑いなよ。気にしなくても大丈夫だから」

「うん」

 遥の言葉に頷きながら、あたしはやっぱり強い不安の波に呑み込まれそうになってた。あたしって、意外と嫉妬する子だったんだ。



すみません。ちょっと、雑に書いていた所がいっぱいあったので、本当にごめんなさい。
今回は心を入れ替えて、しっかり書いたので文は前より読みやすくなっているとは思います(というのも、前がひどすぎました)。

評価ありがとうございました。
続きが気になると言われると、書きがいがあります。

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