第十四話 両想
ファミレスを出るとすぐにあたし達は駅に向かった。あまり長いするつもりはなかったし、特に見たい所はなかった。それより、ずっとファミレスにいて喋ってる方がずっと楽しく思えたし。
家の近くの駅まで着くと、あたしたちは今日はさよならになるはずだった。彼とあたしの家の方向はこの駅からだとまったく別になる。だけど、秀司はあたしを送って行くといってくれた。断わってもどうせついて来るなら一緒に歩く方がいい。っていうのは立前で、あたしは秀司と話をしたかった。
だから秀司が送ると言った時はすごく嬉しくて、顔に出てたかもしれない。
「あ、ここでいいよ」
角を、曲がれば家はすぐそこだった。あたしも秀司も照れて頬が赤く、はにかむ様に笑う。
「じゃ」
とあたしが手を上げて帰ろうとした。でも彼はあたしの手を取って、それを止めた。あたしが秀司をみると、手をつかんだままあたしを引っ張って、一歩分彼に近づいた。
「一緒にいたいんだけど」
あたしは近付く彼の顔からなるべく離れる様に身を退いた。
「・・・あ、あたし・・は」
言葉が詰まった。どうしたいのか、続く言葉が出てこなかった。彼はあたしの目を見る。そんなふうに見られても出てこないもんは出てこない。
「早く、言えば」
「・・・やっぱ、むかつく。あたし帰る。別に一緒にいたくないし」
あたしは彼の手から手をするりとひき抜いて、身を退いた。でも、かれは指をぎゅっと掴んであたしをまた止めた。
「素直になれば? あんただってオレといたいだろ?」
目が輝いてる。これっていたずらッ子がする瞳だ。あたしはまたからかわれてるの?だけど、声は真剣だと思う。っていうか、信じたい。
「うっさい! いたくないし、あたしはいつでも素直だし・・・」
彼は首を傾げて次の言葉を待ってる。あたしは息を吐いて、観念した。
「そうよ、あたしだってあんたといたい。だって、もうあんたに恋しそうだもん! これでいい? まんぞくした?」
「した」
秀司はあたしの指を引っ張って、腕を掴んだ。それをそのまま、引っ張って秀司はあたしを抱きしめた。前以上に力強く抱きしめられて、あたしは苦しかった。でも、なんだか胸のなかにいることが誇らしくもなった。
今度こそ、信じてみてもいいのかな。彼はあたしの側にいてくれるって、あたしの気持ちを受け止めてくれるって。
「これ、本当に騙してるんじゃないよね」
秀司は力をこめてあたしを抱きしめた。
「マジだよ」
その瞬間、あたしも秀司を抱きしめた。背中に手をまわして力強く抱きしめる。彼の胸の鼓動もあたしの音も、伝わってくる。嘘じゃない、本物だって聞こえてくる。しばらくそうしてから、場所を思い出して、一度抱き合う力を緩めて、顔を見合わせた。あたしの家のすぐ近くで、家ばっか並んでる道で抱き合うのはだいぶ恥ずかしい。幸い人が通る事がなかったが、人に見られていたらあたしはすぐに家に向かっていただろう。
見つめ合うのさえ、照れてしまいすぐに小さく笑い出す。
あたしを覚えていた頃の秀司に、あたしが告白した時の事が思い浮かんだ。あの時はずっと頬が緩んでいて二人して目を合わせては笑ってばかりだった。今もそう。目を合わせるとすぐ笑ってしまう。
「どっか・・・行こうか?」
秀司が控えめにあたしに聞いた。あたしは返事をする変わりに、手を差し出した。しばらく秀司はあたしの手を見て、戸惑っていた。どういう意味かわからなかったのだろう。でも、すぐに手を重ねて強く握って手をつないだ。
「どこでもいいよ」
あたしは恋した。
今の秀司に恋をした。
あたしが知ってる彼とは違っているのに、どうしても惹かれてしまう。全てが違って見えるのに、本来あたしが惚れた所は変わらない。嫌な奴だったけど、今はそうは思ってない。
わがままな秀司だけど、あたしはすごく好きになっている。これから、あたしは恋愛していけるんだろうか。彼と恋愛をしていけるのかな。
手を離すと、秀司は自転車をおして公園まで歩いた。空を見ると夕焼けが広がり、道を見ると真っ赤なアスファルトが見える。日の光がつよくなり過ぎて、まぶしい。目を細めながら秀司をみれば微笑みをかえしてくる。
あたし、結構幸せかも。
評価してくださってありがとうございました。
とても嬉しく思っています。恋愛ものを書いていますが、なかなか上手くは書けないものです。なるべく現実的に描きたくても、書けないものですね。
見苦しい点が多くあると思いますが、これからも読んでいってください。ありがとうございました。