友達作り~九上院恋歌の場合~8
と、思ったが、あまり九上院との今を長引かせるのはよくないような気がする。ゆえに俺は作戦第二フェイズを始動させなければならなかった。
正直二つ目の作戦は捨て身だ。失敗すれば俺は間違いなく退学。成功しても折檻はきっと免れないだろう。だがそれでも男にはやらねばならぬ時がある。
教室へ戻るとクラスの視線が殺到する。俺は時が来るまで羞恥心を我慢した。やがて授業が始まる。だがそれでもなお視線は止まない。人知れず悶えながらも授業に励みそしてチャイムがなる。時は来た。作戦開始だっ!
授業の合間には必ず十分休憩が存在する。そしてその十分で行うことなど大抵の人間が同じだろう。
俺は教室を出て行く九上院の後を付ける。運も俺の見方をしているようで人の気配はない。彼女の向かう先、それはトイレっ。かつて西城と遭遇したあの場所だ。
俺は多少興奮しながらも九上院の入ってゆくトイレに忍び込む。
足音を消し息を殺す。九上院にばれないよう最大限の努力を怠らない。やはり運がいい。トイレには誰一人、いや他クラスの女の子が一人いた。気の弱そうなだが可愛らしい子だった。その子は口をパクパクしながら、
「ぁ、あの、っい、今は休み時間なの、でぉ、女の子の時間―――」
俺は小声で、
「今、その話は重要か?」
「ぇ?あれ?」
ドスを聞かして、
「重要なのかッ!」
「ぃ、いいえっっふ、ふみゅぅ~」
どうやらわかってくれたようだった。女の子がへなへなと崩れるのを確認すると俺は九上院の尾行を再会する。
楯の宮女子のトイレは広い。淑女のために作られたトイレは回転効率が異常に悪いゆえ、改善としてトイレの数を増やさなければならなかった。よって、トイレ内部の構造が少し複雑に、そして広々しているのは仕方がないことだった。だがそれゆえに俺のさっきの女の子とのやり取りが九上院にばれなかったと言っても過言ではない。
九上院は丁度トイレのドアを閉める直前だった。目立つ金髪ドリルが見えたので間違いない。
俺はそのしまる直前のドアと建てつけの間に指をねじ込んだ。
「っひぃ!」
中から悲鳴が聞こえる。そらそうだ。俺だってトイレのドアを閉める瞬間に指が入ってきたらビビッちまう。だが俺にそんなことを考える余裕はなかった。すかさず扉を開き。すぐに潜り込み、そして扉を閉める。
九上院は便器の上にぽてっと座っており、口を半開きにしていた。
「っき、きゃ――ぅむぐむぐう」
悲鳴を上げそうになった九上院の口を俺はさっとふさぎ、
「しゃべるなッ、もし口を開けば痛い目を見るぞ」
と、とんでもないことを言ってしまった。なんだかんだ言って俺もパニクっているようだ。いくら九上院の気を惹くためとは言え、まったくなれないことをするものじゃないなと思いつつも、九上院を促すとなみだ目になりながらもコクリとうなずいた。
「とりあえず出るぞ」
俺が出口へと促すと、九上院はおとなしく付いてきた。
「お前に話がある」
「っく、九上院ですわ・・・・・・」
九上院は少しもじもじしながら言う。
「あなた、トイレにまで押しかけてきていったい何のつもりですの?」
「九上院と話したかった」
「っ」
九上院はもじもじをとめない。どうしたんだこいつ・・・もしかして、
「九上院、トイレに行きたいのか?」
「っ!」
「なら行ってこい、我慢はよくない」
「って!あなたが無理やり連れだしたんでしょうっ!」
そう言うと九上院はトイレに駆け込んだ。
「悪いことしちまったな。っはは」
あまり笑い事ではなかった。だが、九上院はトイレから戻ってくると、放課後二人で話し合いの場を作ってくれると約束してくれた。
この借りはいつか返しますわと、いわれればひたすら謝り、しかし少しいつもの九上院に戻った気がしてうれしくもあった。
だがこれで安心するのはまだ早い。すべては放課後で決まるのだ。俺は深呼吸する。この学校が女子高だからか、少し甘ったるい匂いを肺いっぱいに吸い込んで吐き出す。
「うしっ、しっかりしなきゃな」