友達作り~九上院恋歌の場合~7
翌日。登校してきた九上院は俺と目を合わせることすらなかった。話しかけようにもどうにも避けられているようで、ちゃんと話せる環境もなかった。
昼休み一緒に飯でもと思ったのだが、誘おうとしたときにはすでに教室には居らず、俺は少しだけ途方にくれた。
さっぱりだった。どうしてここまで九上院は必要に俺を避けるのか。何故急に態度を変えたのか。せっかく友達ができたと思ったのにまた一人に戻るのか?
そんなの俺は全然楽しくない。
「お笑いだな。お前九上院に見捨てられたか?」
西城だ。最初はとことん無視を決め込んでいたのに、今は、とことん俺を追い詰めたいようだった。だが西城の言葉は的を得ているのかもしれない。
「返事もできないか、なんなら私の下僕にでもなるか? 可愛がってやるぞ」
ひどい言い草だ。可愛がる気なんてさらさらないような人を見下した目。ここぞとばかりに俺を攻撃する。
「ふん、何も言えないか・・・・・・クズだな。女にここまで言われて腹が立たないのか?」
「立つよ」
「あ?」
「腹、立つに決まってる。でもお前に腹立ててもしかたねぇから何も言わないだけだ。だって無駄だろうそんなことしても。それに、西城に腹立てても八つ当たりみたいでかっこ悪いしな」
「はっ、そうかよ」
西城はそうはき捨てるように言って教室を出て行った。
携帯のバイブレーションがなっている。縦端からのメールだった。
《お久しぶりです。って言ってもつい最近もメールしてたけど。そういえば友達作りはどうなったの? 順調ですか?》
俺は縦端と割りと頻繁にメールのやり取りをしていた。俺の話すことといえば大体は九上院との友達つくり作戦の話。
《沢山友達できるといいね。突然だけど私は少し九上院さんがうらやましいです。悠木君から聞くお話はいつもおもしろそう。私ももっと悠木君と話せたらなぁなんて思っちゃってたりします。どうかな?九上院さんとはうまくやれてる? はは、そこに私もまざりたいなぁ》
うまくやれてたらよかったのにな。縦端が俺ともっと話したいとかこんなにうれしいこと言ってるのに全然にやけらんねぇ。
《もし、うまくいってなかったら・・・・・・九上院さんとお友達になればいいよ》
は? 何言ってるんだ縦端の奴。俺たちはすでに友達、いや違ったのか? そもそも九上院は一度だって俺を友達として見たことはあったのか? 本当に下僕だと思ってたのか? だとしたら悲しすぎる。俺は九上院と話すのが楽しかったし、これからも仲良くやっていけたらいいと思ってる。でもどうしたら。
《悠木君が九上院さんとお友達になるのは簡単だよね? だって悠木君は九上院さん直々にお友達の作りのレクチャーみたいなもの受けてるんだもんね》
縦端お前、このタイミングでこのメールはどんぴしゃすぎだろう。もし俺が普通に九上院と仲良くやれてたら、この内容痛すぎるぞ。さすが楯の宮の誇る美少女不思議ッ子。
でも、確かにそうだ。俺は九上院から教わっただろう。人が無視できない状況って奴を! それで九上院を振り向かせる。そしたらちゃんと話し合って理解しあって、和解する。九上院が教えてくれたことをそのままぶつけてやる。やる気でてきたぁぁああ! よしッ、やってやろうじゃんか!
俺は作戦を考える。一瞬で思いついた。ことは簡単だ。ちょっとだけ西城を利用する。だがもちろん西城に許しはもらわん。少し名前だけ使わしていただくだけ。
九上院が戻ってくると早速俺は作戦実行する。携帯を開き、いかにもいじっているよ、という雰囲気をかもし出す。そして上下左右を確認し西城がいないことを確かめる。俺はそこで携帯を耳にあてそして九上院に聞こえるような声で、
「おう、西城か?」
ピクっと動く九上院の耳。
「そうそう。いとしの空君だよ、でさ今度一緒に遊び行こうぜ? もちろん二人っきりだって」
反応はよりいっそう大きくなる。微妙に他の女子が反応している気がするが仕方がない。一部はかなりガンを飛ばしてきている。だが無視だ。
九上院だってさすがに西城の名前を出されては無視できまい。当たり前だ。何故なら俺たちは西城を狙っていた。にもかかわらず九上院と喧嘩? したあとすぐに俺が西城と仲良さげに電話していたら気になるはず。少なくとも俺だったら、どういうなりいきで急接近したのか気になりだしたら夜も眠れないだろう。
そう、もし縦端が知らん男と楽しそうに電話などしていたら・・・・・・よし考えるのは止そう、気分が沈みこんでしまう。
「あっははは、そうなんだ西城って結構初心なんだな」
俺は横目で九上院の様子を伺う。そわそわしているのがなんとなくわかった。先ほどから俺をちらちらと見たり見なかったり。きっと話の内容が気になるのだろう。九上院はどんな話をしているのか一切わからないはず。何故なら俺ですらわからないのだから。
さっきから自分でも何を口走ってるのかよくわからないのだ。もしかしたらなれないシチェーションにビビっているのかもしれない。だってそうだろ? 俺は今までクラスのど真ん中で妄想携帯通話ごっこなんてしたことないんだから。
だが効果は確実に出始めていた。九上院はついに重い腰をあげ俺の方に振り返る。ゆえに俺は追い込みをかけた。
「オーケー、オーケー、まかせとけって西城のことは俺がきっちりとリードしてやっから、何も心配することはな―――」
そして俺の手からするりと携帯電話が中へ浮く、ひとりでに?
「で、誰が初心だって? 誰が誰のリードしてくれんだ?」
「・・・・・・・・・・・・」
俺は振り返ることができなかった。
「なぁ、悠木ぃ~。お前おもしろいよなぁ。上下左右確認しといて前後は見ねぇんだもんなぁ・・・・・・で、もう一度聞こうか? 西城って誰のことだ。言ってみろ」
俺はギギギッと音がでようかというほど不器用に後ろに振り返る。西城の手の上では俺の携帯がギシギシと悲鳴を上げていた。
俺は目をそらしながら、
「ぇっと、西城さんのことではないですはい」
「そうか、私のことじゃないんだな?」
「まったくですはい」
「そうかそうか、この携帯どこにもつながってないのになぁ、じゃあお前は誰に向かって話してたんだぁ?」
っぐこのヤロウ。
瞬間辺りがざわめき始める。俺の目の前でヒソヒソ話が始まった(俺に聞こえる声で)俺は今完全に痛い子だ。
西城の一言によって、たった今この瞬間、俺は一人通話をする寂しい人間の烙印を押されてしまったのだ。
俺はさっと九上院を見る。だが彼女はもう俺に興味を失ったのか、着席しコチラを振り向こうとする気配が一切ない。
っく、くそう!
「っさ西城のバカぁ!」
俺は西城の手から携帯を奪い教室を飛び出した。羞恥心でもはや教室に戻る気は起きなかった。今日はふけるか・・・・・・。