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友達作り~九上院恋歌の場合~6

放課後、すべての授業が終わり、生徒達も一日の疲れを癒すため家に帰宅するよう教室を出てゆく最中、まだ教室に残っている九上院を呼び止めた。


「何ですの?」


 きょとんとした表情を向ける九上院は非常に愛らしい。学校では常に気品を見にまとっている彼女だが、クラスに他生徒もほとんどおらず、授業も終わっているので気が抜けているのだろう。


 初めて会ったときの九上院は自信に満ち溢れていたが気品というものをあまり感じなかった。

 以前に、学校とこの前外で始めて合ったときと、どうして振る舞いに違いがあるのか尋ねた事がある。九上院はあまりいい顔をしなかったが答えてくれた。


 いわく「私はつねに人の上に立つ者。であれば品のある振る舞い、強い口調、横柄な態度を心がけるのは当たり前のことなのですわ。下の者になめられてはかないませんから」とのことだが、こうも言っていた。「でも完璧な私だって疲れてしまうことがありますの。品というものがまだよくわかっていないのかもしれませんわね」だそうだ。だが彼女の上目線は自な気がしてならない。でなければ初めて会った相手に下僕だなんて言えないだろう、たぶん。


「ぁ、いやなんつうか、俺お前の作戦台無しにしたかも」

「何のことです?」

「俺、西城に殺すっていわれた」


 九上院は「ぇっ!」っと大げさに驚いていた。九上院にとって西城の殺す発言はそんなに珍しいものなのだろうか?


「いったどうしてそんなことになったのですか?」


 俺は九上院に今日のトイレ事件の概要を話した。するとジト目で俺を数秒凝視するとはぁ~と深いため息をつく。


「乙女のトイレに侵入するなど愚の骨頂ですわね・・・・・・最低ですわ。このド変態、犯罪者、懲役十年やろう」

「っぐ!」


 だがまぁ、しかたがない。確かに俺のやったことは最低だ。わざとじゃないにしてもちゃんと謝らなく――――俺はここでふと気づく。俺謝ってねぇじゃん!

 俺がぐったりと机に倒れ付すと九上院は俺の両肩をしっかりと掴み、


「ですが、よくやりました!」

「え?」

「私がもし西城さんと同じ立場にいたのなら間違いなくあなたを抹殺していますが、ふふ、でも今は違います。私はあなたの味方で西城さんの敵」

「敵? どういうことだ」


九上院は腕を組み、俺の周りをゆっくりと周回する。

こいつ本当にこの動き好きだな。


「私は言いましたわよね、西城さんには兎に角意識しといただきたいと。西城さんはあまり自分の感情は外に出しませんし、あなたに対してだけでなく常に周りとの接触をあまり好まない人なのです。ときどき西城さんの周りをうろちょろしている人たちもいますが、それはどちらかといえばただの取り巻き・・・・・・それも本人に面倒くさがられてるに違いありません。ですから西城さんが他人に口を聞くこと自体が珍しいのです。そして今回は、口を開いただけじゃなく、自分の感情。つまり自分が悠木さんをどうしたいか、すなわち内情までさらけだした! これを意識されてないと言わないでなんといいますか!」


 確かに、確かにそうかもしれないが。トイレに最中に進入されたら誰だって殺意が沸くのではないか? いやだからこそいいのか。結局はなんであろうと意識されることが重要みたいだし。


「ですからこのような機会があればじゃんじゃんやっちゃってください」

「できるかッ! マジでつかまるってんだよ」


 九上院は大げさにやれやれのポーズをとる。


「まぁ下僕のあなた程度の度胸じゃしょうがありませんわね」


 俺じゃなくても無理だろ・・・・・・。


「下僕言うな! ったく。でもよかった。九上院が一生懸命に考えた作戦がぶち壊しにならなくて。マジであせったぜ。九上院、ありがとうな」

「っ。別に、下僕なんですからご主人様にお世話されるのは当たり前ですわ」


 九上院は少し視線をはずし鼻筋を軽く掻いていた。照れているのか頬もわずかに赤い。


「でもさ、いい加減下僕はやめようぜ。俺たちダチだろ?」


 瞬間。九上院から表情が消えた。


「下僕下僕ってちょっとひどく――」

「――いいえ下僕ですわ」


 底冷えするような冷たい声が響く。

何も寄せ付けないようなそんな寂しい思いを抱かせるような九上院の態度の俺はいささか不安を覚えた。


「どうした?」


 俺が尋ねても返事はない。ずっとうつむいている。九上院のいつものような溌剌さがない。いつだって自信過剰なあの張りのある声が今はない。


「私に友達なんていませんの」

「は?」

「私は友達なんていりませんの!」


 そういって九上院は教室から飛び出して行ってしまった。それとすれ違うように西城が入る。


「なんだ、変態行為でも働いたのか」


 西城の嘲笑するような嘲りに、しかし俺は反応する気にもなれなかった。西城は忘れ物していたようで必要な道具を机から取り出すとさっさといってしまった。俺が返事をしなかったからか舌打ちのおまけ付だ。


「・・・・・・なんだってんだよ」


 俺は九上院の不可解な怒りを浴び放心していた。俺は何か気に障ることを言ったのだろうか。まぁいい、とにかく明日謝ろう。何が気に障ったのかは謝ってから聞いても遅くないはずだ。わからないことは聞かなければ始まらないから。

 俺は教室で少し外の景色を眺める。窓からは九上院が走っている姿がうかがえた。その背中はひどく心細く、気の強い九上院の面影はなかった。


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