友達作り~九上院恋歌の場合~3
俺は授業中九上院との会話を反芻していた。追々話すと言っていた二つの意味で周りが俺に興味を持ち始めるという話についてだ。
一つ目、単純に、誰かが俺とコミュニケーションをとることで、関わりづらい雰囲気を取り消すと言っていた。だが俺の場合、取りづらいと言うよりは完全に壁ができていた気がする。それがどうしてかは、わからない。だが事実その壁が取り払われようとしているのは確かだった。
九上院との雑談を終えたあと、俺は初めてこのクラスの奴に話かけられた。内容は本当に他愛ない。例えば、九上院とはどんな関係なのか。仲はいいのか。昨日はなにをしていたの? 等だ。
俺は突然話しかけられるようになり戸惑うことも沢山あったが。これはこれでいい傾向なのかと思った。
しかし、二つ目の理由を聞いた俺は、この話しかけてくる奴らが無性に腹立たしくなった。俺は気づいてしまったのだ。一つ目の話というのは、物事を親切に、優しく切り取った、ただの物語でしかないことで、こいつらが話しかけてくるのは二つ目の理由が大きな要因だってことに。
九上院は金持ちだ。クラスの奴らもみんなそう。一般階級ではありえないような会話は日常茶飯事だし、身に着けているアクセサリーもブランド物。どうしてそんなものが手に入れられるのか、そんなのは親に買ってもらっているからとしか言いようがない。
親は親できっと一生懸命に働いていて、金を沢山貰っているのだろう。それが悪いとは言わない。むしろがんばることはいいことだ。
だが、どうだ。仕事を成り立たせようとするものはコネクションを必要とする。自分より上のものに媚び諂い、よりよい商売を行おうと。
ただまぁこれも悪いとは言わない。当たり前だ。そもそもそんなのは処世術だし、自分の持つ会社をうまく立ち回らせようとするのは当たり前だ。俺だって社会にでればきっと愛想笑いを振りまいたりするだろう。そう思うと胸糞悪いが、だがそれが大人ってもんだ。
じゃぁ何で俺の気分が悪くなるのか?
子を使うな・・・・・・九上院は言っていた。自分は事業を成功させているトップクラスの人間の娘。他の実業家達はそんな私に媚をうろうとすると。年下である私に愛想笑いを振りまき、私の親と懇意になろうとしていると。だが、そんなことだけで懇意になれるはずもなく。ならば自分の娘を使って私に近づいてくるのだと。
九上院がどこかしらの令嬢との仲も深まれば、親同士で会うことも増えてくるそうだ。それはそうかもしれない、子のどちらかが家におじゃますれば、いつも仲良くしてくれてありがとうなどという建前で近づくこともできるし、上流階級の間ではむしろしないことが失礼にあたいするらしい。
一般庶民の間じゃ考えられないことだがな。で、結局何が言いたいのかといえば、俺は、九上院とのパイプ役として使われそうになっているということだ。やはり親の権力が強い者はクラス間しいては学校の中でも権力が高くなるらしい。そう考えると、九上院は間違いなくトップクラスの権力を持つ。ゆえに楯の宮の女子は親のためだけじゃなく自分自身としても九上院とのコネクションが欲しいわけだ。
だってそうだろう? 権力の強い者の仲間なら自分は周りから攻撃されることもなく、もしかしたら親同士のコネクションもつくかもしれない。そうすれば、今よりも暮らしが豊かになるかもしれない。下手すれば九上院と懇意になるだけで一石三鳥だ。すべての人間が必ずしもそういった思惑を持っているわけではないだろうけど・・・・・・
「ままならねぇな」
俺は思わず口に出してしまった。ボソっと言っただけなので誰かに聞かれてるって事はないと思うが。だが隣から一瞬視線を感じた。西城だ。俺がふと向くとすぐに視線を前に向けた。
少し感慨にふける。昔ならば俺が授業中に何を言ったところで見向きもしないだろうに。
今朝の一軒から間違いなく意識され始めた。これは自意識過剰なのだろうか。
俺は思う。西城はどうなんだろうか、俺が九上院と友達だから意識し始めたのか? 西城もコネクションが欲しいのか?
いや、それはなんとなく違う気がする。西城にそんな思惑があるとも思えないし、それに、コイツの視線には敵意を感じる。もし九上院と懇意になりたいのであればそんな視線は飛ばさないだろう。
ともすれば俺はいったい全体どうしたって西城にこんなに嫌われてるのだろうか。実際何かされてるわけじゃないが、少なくとも絶対に好かれてはいない。
俺は心の中で深いため息をつく。
それに西城の件だけじゃない。そもそも俺がどうしてクラスの皆から無視されてたのか、最初に俺のイスについていたガムは一体なんだったのだろうか。
授業終了のチャイムがなる。授業中の話はまるで俺の頭には入ってこなかった。黒板には意味不明な数式が沢山書かれていて解答方法も所狭しと並んでいた。
ここの学校のレベルは高い。授業をまともに、ましてやノートすら取ってないといったらあっという間においてかれてしまう・・・・・・まずいなぁ。
俺は心の中で深々と二度目のため息をついた。