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友達作り~九上院恋歌の場合~

感想をいただきました。ありがとうございます。

返信もさせていただきました。これからもどうぞよろしくお願いします。

 さて、意気込んだのはいいのだが、誰と友達になろうか。はたまた簡単に言っているもののどうやって友達になるかが問題だ。

 だいたい俺は透明人間扱いを受けている。普通に話しかけるだけじゃ無視されるのがオチだ。かといって肩を掴んだりして強引に話ても、もし変態扱いされればそれだけで破滅の道まっしぐら。俺は決意して数分後に大きな壁にぶち当たってしまった・・・・・・早すぎる。


 目標ができると過ぎる時間は早くなる。退屈だったクラスの時間も今ではさほど苦痛に感じない。

今、俺の頭の中は友達作りの事でいっぱいだ。めまぐるしく思考を回転させてもいい案は浮かばない。なら流れに身を任せるしかない。


 結局はいつも通りに過ごしチャンスをものにすることを第一通過地点とすることにした。俺の青春ロードの第一ポイントだ。ゴールはまったく見えないが少しだけ楽しくなって

きた気がする。


 俺が思考にふけっていると、いつの間にか学校は放課後になっていた。授業は何をやったかまったくおぼえておらず、クラスの人達も誰一人としていない。声をかけてくれてもいいのにと感じるが、俺はまだ透明人間。甘んじて受け入れてやろう。



 帰り支度をして教室を出ると微妙に視線を感じた気がした。っふと辺りを見回すも人影は見当たらない。気のせいかと思い校舎を出る。

 だが一向に気配を感じる。姿は見えないが存在感が半端じゃないのだ。しかし見えないことには対処の使用もない。すぐ近くに縦髪ロールの金髪ヘアーで楯の宮女子の制服を着た女がじっとこっちを見ているが、俺には見えない。


 だってそうだろ? リアルに縦髪ロール? バカな、そんな人間いるはずがない。だってドリルだぞ? 絵に描いたようなお嬢様キャラじゃねぇか。そんなものは漫画の中だけで十分だ。ゆえに俺は気づかない振りをして歩かなければならない。

 何故なら「近づくな危険」の臭いがぷんぷんするからだ。


 コツコツと後ろからつけてくる足音が聞こえる。おもしろすぎるほど堂々としたストーカーだ。振り返る。威風堂々とはこのことかと感じられるほどに雄雄しく振る舞う彼女は大またを開き腕を組んでいる。いっそ清々しいほど堂々としている。


 俺はまた歩きを進める。またコツコツとつけてくる足音が一つ・・・・・・二つ、三つ?

 ふとまた振り向けば今度は金髪ロールが二人の柄の悪そうなお兄さんたちに軟派されていた。俺は頭を抱えたくなる。やっぱり巻き込まれた。危険な匂いがぷんぷんしてた時点でとっとと逃げればよかったのだ。


 はぁ~とため息をつく。でもまぁ、見てしまったからには無視できない。あれでも一応女の子、ましてや閉鎖的環境下にいるお嬢様じゃ、男に絡まれた日にや、怖くて震えてしまうだろう。

 俺はしょうがなく女の子の元へ駆け寄って行った。

 だが、俺の予想に反して女の子の第一声は力強いものだった。


「話しかけないで下さるこの下郎!」


・・・・・・力強すぎる気がしなくもないが。


「そんなつれないこと言わないでさぁ俺らと遊びに行こうぜ?」


 よくある光景によくあるセリフ。まぁどれも物語りの世界でだが。


「女性一人をお誘いするのに殿方二人などチャンチャラおかしいですわ。恥ずかしいと思いませんの?」


 恐ろしいほどに定型句を使う楯の宮女子の生徒。俺は不覚にも感動してしまった。俺だって本当はお嬢様キャラ嫌いじゃないんだぜ。

 だがそれがよくなかったのかもしれない。

 柄の悪そうなお兄さん達の沸点は低く。まぁようするにぷっつんしちゃったわけだ。


「お前、なめた口ききやがって・・・・・・っへへ、痛い目みせねぇとダメだなこりゃ」


 勢いよく肩をつかまれた縦髪ロールは痛みに顔ゆがませた。


「離しなさい! っく痛い」


 だがぎりぎりと手を肩に食い込ませてゆく男たち。縦髪ロールの表情にはやっと恐怖と不安の色が浮かび始める。やはり世間様をわかっていなかったようだ。自分の発言を聞き入れない者などいないとでも思っていたのだろう。だからこそあれだけ高飛車な態度をとることができる。

 だが今は完全に萎縮し怯えている。

 俺は駆け出した。



「ふごぉ!」


 気づいたら相手をぶん殴って縦髪ロールの手を引いて逃げていた。最初は追いかけてきていたものの、意外にも逃げるのが早い俺たちについてこれなくなり、やがては追いかけてこなくなった。何かを叫んでいたような気もしたがどうせ負け犬の遠吠えだろう。気にする必要はない。


「はぁはぁはぁ」

「ふぃふぅふぅ」


 二人の息遣いが響く。ここは狭い路地裏だ。入り組んだ構造をしているし、隠れるには最適な場所だった。


「まぁここまで、来れば大丈夫だろう」


 俺は掴んでいた手を離し縦髪ロールに向き直った。縦髪ロールは、はぁはぁと荒い息をつきながら俺を睨んでいる。少し上気し赤く染まっている頬、わずかばかりにたまる涙は、なかなかにそそる光景だったが俺は紳士。

 ゆえに、彼女が落ち着くまで黙っていることにした。


「大丈夫か?」


 男子の走りについてこれるあたりかなり運動神経はよさそうだ。ちょっと休憩するだけで息が整い始める。そしてようやっと口を開く。


「あなた、急になんですのっ?」


 そうきたか・・・・・・まさかお礼じゃなく、いきなり攻められるとは思わなかった。だがまぁ相手は縦髪ロール、ある程度予測できていたことだ。

 俺は落ち着いて彼女の頭を叩いた。


「きゃっ、痛いですわ! いったいなんの真似ですのっ?」

「助けてもらったんだからお礼くらい言えよ」

「むぅ、誰が助けを求めたと言うのです。私一人でも何も問題なかったですわ」


 まぁここまでは定型だ。いい感じに高飛車してる。


「そうか、ならさっきの奴らの所まで送ってやろう」

「え?」


 俺は縦髪ロールの手を掴むとひっぱり表の道に出ようと足を運ぶ。


「ちょ、ちょっとお待ちなさい! わかっ、わかりました、わかりましたわ! ありがとうございます。これでいいのでしょう?」

「ヘタレたな、そして最初っからそう言え」


 むぅっと悔しそうな顔をする縦髪ロールに対し俺は口を開いた。


「でだ、お前はどうして俺の後を付けていた?」

「お前ではありませんわ、九上院 恋歌ですわ」

「・・・・・・九上院はどうしてつけていたんだ。ストーカーか?」

「ストーカーではありません! 尾行ですわ」


 まぁあれかコイツはそこそこのアホなんだろうと俺は認識した。


「まぁ尾行でもストーカーでもなんでもいい、そもそもお前は誰だ?」

「っな、この私を知らないと? あなたと同じクラスですのに、まぁ今まで登校していませんでしたし、しょうがないと言えばそれまでですが」

「不登校か」

「なにを抜かしておりますのこのアホは」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「私は昨日まで海外に旅行に行っていましたの。帰国の報告を学園にしていたら、交換留学生がいるというではないですか。ですから噂の留学生がどんな人物なのかこの眼で確認している最中だったのですわ」


 なるほど、つまりコイツはクラスの奴が俺をどんな扱いしてるかまだ知らないって事か。これは使えるんじゃないか? 少なくともコイツの中で俺の評価は高いはず。なんてたって危ないところを助けたんだからな。こいつを友達にすれば光明が見えるかも。


「まっ、あなたの評価は下の下ですわね」


 っぐ、侮りがたしお嬢様。まさかいくらなんでも評価が下の下まで落ちていたとは思わなかった。俺の右手が火を噴きそうだったが理性で押さえ込む。


「それでも私を救ったことは評価に値しますわ。よってあなたを下僕のとして扱ってさしあげますっ痛い!」


 右手が火を噴いた。とてもじゃないが抑えきれない。ゲームや漫画の世界での高飛車はもだえるが、いざ自分がやられると腹が立つ。リアルと仮想は大違いだと気づいた瞬間だ。

 まぁだがこの際下僕でも何でもいい。とにかくクラスの人間と接点が欲しかった。下僕扱いされたところで俺はそれに従わないし、特に問題点はない。少しでも交流できればいずれ他のクラスメイトとも接点ができ始めるだろう。


「まぁそれはわかった。下僕でも話せる相手がいればそれだけで助かるし、なぁ下僕?」

「そうですわ、私と話せることを誇りに思いなさ・・・・・・下僕ッ?」

「っち気づいたか」

「あ、当たり前です! 私が下僕呼ばわりされたのなんて初めてですわ。なんて失礼な」


 九上院はプンスカと怒っているがまったく迫力がない。むしろ、上気し赤く染まり、空気を溜め込んでぷくっと膨れた頬は微笑ましさすら感じられる。なかなかいい素材を持っていた。


「まぁいいや、お前が明日からクラスで困らないように教えといてやる。俺はクラスから透明人間の扱いを受けている」

「どういうことですの?」

「そのままの意味だ。つまりみんなから無視されてるってこと」

「・・・・・・それで私もあなたを無視しろと? クラスからハブられないよう情報を教えてくださったと? 私をあまりバカにしないでくださる? 私はそういう曲がったことが大ッ嫌いですの!」

「バカかお前」

「っな」

「俺は、言っただろう? 下僕だろうが話せる相手がいたら助かるって。それなのに無視しろなんて言うわけないだろう。お前にはいろいろ協力してもらうつもりだ」

「むっき~~~! あなたさっき私が困らないようにって、言ったではありませんか」

「ん? 俺は、俺がクラスで打ち解けるため、協力するのにこまらないよう伝えたんだ。そのほうがスムーズだろう?」

「ぬぐぐぐ」


 なんか少し言い事言ったつもりになっていた九上院の出鼻を挫くと顔を真っ赤に染める。ただまぁほんの少しうれしかったってのもある。照れ隠しに少し強い口調になってしまったのは内緒だ。



 

 プンスカと怒る九上院を安全そうな所まで送るとまた明日と軽く手を振りお互い帰路に着いた。

 ふっと気づくとポケットの中の携帯が自分の存在を一生懸命に知らしていた。要するにバイブレーションだ。着信を見てみると、縦端 瑞穂だった。


 自分の顔がニヤケそうになるのをこらえる。実はクラスからさったあの日、ちゃっかり縦端とアドレス交換をしていた。申し出たのは縦端からだった。せっかく友達になれたのだから、このまま終わっちゃうのは寂しいよねと言われた暁にはコンマ三秒かからないうちに赤外線のセットをしていた。

お互いのアドレスを交換し満足していると今度メールするねと言われ、昇天すれすれまで、己の気持ちが高ぶった。


 縦端はいつだっていい子だ。ショートカットで前髪をピンで留めている。活発な印象を持ちつつも落ち着いていて、男女隔てない優しさを持つため、男にはもちろん女の子にだって人気だった。

 少し不思議ちゃん気質はあるが、時には告白されることもあるそうだ。だがいまだ告白が成功したものはおらず、影では難攻不落の城壁とまで呼ばれているらしい。一時期レズ疑惑が浮かび上がったが、過去に女の子から告白されそれを断っていると言うことが発覚し疑惑も消失した。

 結局彼女がどうして他人と付き合おうと思わないのかは誰も知らないし。俺は知りたいとも思わない。だってそうだろ? もし理由が絶望的なら俺に望みはない。俺だって男だ。少しは夢見たっていいじゃないか。


 因みに縦端からメールが来たのは今回が初めてだ。メールするねと言われてから約一週間。つまり今日までの間、俺が悶々としていたのは言うまでもない。俺からメールを送ってもよかったのだが、もし迷惑に思われたらと思うと送れなかったのだ・・・・・・なんとでもいえばいい俺はヘタレだ。

 メールを開く。可愛らしい絵文字が沢山使われていた。見るだけで和む。だがメールは見るものじゃない読むものだ。


《お久しぶりです。メールするのに一週間もたっちゃった・・・・・・本当はもっと早くしたかったんだけど送って迷惑にならないかなって少し不安に思っちゃって》


 俺は縦端が俺と同じように思っていたことに感動を隠せなった。


《少しだけ悠木君からメールこないかなって期待したんだけど来ないからやっぱり迷惑なのかなって。でも今日は思い切ってしてみました! 迷惑じゃなかったかな? 話は変わるけど、悠木君の学校はどうですか。楽しくやれてるかな? 女の子ばっかの学校にいるんだもんね、いろいろ大変なこともあるだろうけど頑張ってください! 応援してるね♪でも少しだけ不安だなぁ、悠木君がいろんな女の子にちょっかいだしてないか心配だよ。って悠木君がそんなことするはずがないか》


 ばかやろう、俺が縦端以外の女の子に興味を持つはずが・・・・・・むっちり教諭は大人の女性だから対象外な。


《そうだ、今度ねうちの学校で文化祭やるんだよ? 知ってるよね。もしよかったら遊びにきてよ。そっちの学校の友達もつれてきてくれればきっと楽しくなるよ》


 そうだなぁ確か一ヶ月後だったか。


《もしきてくれるんだったらって考えると、へへ。今から楽しみだなぁ。あっあとそれから今日ね学校で体育の授業があったの》


 まだあるのか、結構長いんだな。いやこれは逆に考えるとそれだけ俺と話したいことが沢山あったってことか?

 俺はまだまだ続く長いメールを読み続けた。かれこれ五分はメールを読んでいた気がする。だがまるで縦端と隣同士で話しているかのように感じるこの時間は至福であり、楯の宮女子で傷ついた心の清涼剤になった。


《それじゃ、ながながとごめんなさい。一週間分たまっちゃってたんだもんしょうがないよね。それではお体に気をつけて、またね》


 俺はメールを読み終えると。どうメールを送るか苦難しつつも長い時間をかけて返信した。若干の満足感と再度返信があるかもしれないという期待に俺は胸を膨らませつつも家の玄関を開ける。いつの間にか帰宅していた俺だったが、それほど縦端とのメールは楽しいものだったのだろう。

 誰も居ない家に向かってただいまと言い、二階へ駆け上がり自分の部屋をあけベットに飛び込んだ。すると一日の疲労からか瞼が重くなり次第に意識も薄れていった。

 


 可愛らしい少女が笑っていた。公園のブランコを一生懸命に漕ぎ、ブンブンとゆれる小さなアトラクションを精一杯に楽しんでいる。俺はそんな彼女をうらやましそうに眺めていた。ブランコは二つある。一緒に遊ぼうと誘ってくれる女の子だったが俺はそれを拒んだ。にも関わらずブランコで楽しそうに遊ぶ彼女を俺はうらやましく思う。


 俺はこのときブランコに乗ることが怖かったのだ。勢いよく風を切り、ブランブランと前や後ろにゆれるこの乗り物を見ていると、自分の体がそのまま吹っ飛んでいってしまうのでないかと考えていた。

 だが彼女はそんなことお構いなしに俺を無理やりブランコに乗せた。一人で乗っていても楽しいけど二人の方がもっと楽しいと、自分の持論を俺に押し付け無理やりに乗せたのだ。結果的には楽しかった。怖がっていたのがバカらしくなるほどに俺は笑い声を彼女と一緒に上げていた。二人で高い景色を見て、二人で風を切った。それがすごく気持ちよくて。彼女の髪がひらひらと風に揺れていた。長く綺麗な・・・・・・



 はっと眼を覚ます。自室の電気をつけて時計を見れば午後七時。五時近くに帰ってきたからおよそ二時間寝ていたのかと思うと少しもったいなく思う。

 俺はベットから降りようと上半身を上げたところで気がついた。いや、正確に言えば上半身は上がらなかった。


「なにやってんだ花華はなか

「兄貴ぃが寝てたからだぞう! 思わず一緒に寝ちまったぁ・・・・・・お、おぅ? 女の匂いがするぜぃ。女子高に行きはじめてから女くさくてたまらんの」

「うるさいぞ、そんなことはどうでもいいだろう。それに俺の上にねっころがるんじゃねっ――ぇよ!」


 と、俺は気合をいれつつも花華をベットから投げ飛ばす


「いてぇ! 兄貴ぃ!」


 こいつ悠木 花華は見ての通り女だ。え、男じゃないのかって? バカ言うな。仮想には男の娘とかいう生き物が居るらしいがふざけるな。リアルにそんなもんはいない。

見た目が可愛けりゃそれは女だ! 女の子だ。

まぁあれだ・・・・・・つまり花華は可愛い。だから紹介するぜ。


 花華という名前は花のように可憐に美しく育って欲しいという意味を込め、俺の両親は名づけたそうだが、多いに失敗だと俺は思う。

 だって誰がどう見てもこの花華は可憐じゃないからだ。

 確かに見た目だけならうなずける。


 俺の二個下である中学三年のこの愚妹はたぶん身内贔屓無しで可愛らしい。清楚な白いワンピースでも着ていれば、色の白い肌や、つややかなショートカットの黒髪と相まって、さらにそこに麦わら帽子でも被せれば、どこからどう見ても、良家のお嬢様といってもいい――――しゃべらなければ・・・・・・だ。


 まぁ口調からもわかるようにこいつはアホだ。にもかかわらず頭は無駄にいいし、運動神経も抜群と来た。ここまできたら何か不得意なものがあると思うのだが、こいつは炊事、洗濯、家事、おやじ、まですべてをそつなくこなすスーパーウーマンだ。もし、口調さえ普通だったら、男共はきっと引く手あまたとなっただろう。

 まぁそんなことになったら間違いなく、その男たちを血祭りに上げるがな・・・・・・


「っぐ、重いぞ」


 花華はもう一度俺の上へとのしかかる。


「だまれぃ、くされびっちぃ! 女の匂いをぷんぷんさせやがってぇ。うちは兄貴ぃをそんな風に育てた覚えはなぁ~い? うちの匂いに染めてやるぜぇ」

「なんで疑問系! しかも、そんな言葉どこで覚えてきたんだ!」

「ぇ~? クラスの静香ちゃんがいうてた!」


 静香ちゃんのアホぉ!


「って、そろそろどけって」

「おうよ!」


花華をどかすと俺は制服からパジャマに着替え、部屋を出ようと立ち上がる。


「兄貴ぃ、おんぶぅ」

「ったく、ほら」


花華は俺におんぶをせがむため背負ってやり階段を下りてリビングへと向かう。花華の甘えん坊は昔から直らない、なかなか困った癖であり、ことあるごとにおんぶをせがむのは少し面倒くさくもあるが、まぁ可愛い妹のためなら仕方がなかった。


 リビングに入ると料理のいい匂いが食欲をそそる。テーブルの上には今夜の飯がすでに出来上がっており、父親はもう席に着いていた。


「あ、帰ってたんだお帰り」

「おうただいま」


 挨拶もほどほどに家族みんなが席に着くと、手を合わせいただきますの挨拶だ。

 親父がふと口をひらく。


「最近学校はどうなんだ? 前の学校の時と違ってあまり学校の話はしなくなったみたいだが」


 不覚にも涙が出そうになる。普段寡黙な父が息子である俺を心配してくれた。それだけで胸を打つものがあった。俺は返事を返そうとすると、


「兄貴ぃから女の匂いがしたぞぉ。彼女ができたのかもしれないぞぃ・・・・・・ぅ~ん絞めるかぁ」

「ぶふっ! 絞めたら死んじゃうだろうが」


 俺は口から飯を吐き出しそうになる。親父も少し驚いているようだ。


「ったく・・・・・・何、勝手なこと言ってやがる。別にそんなんはいねぇよ。居たとしてもお前に絞める権利は無い」

「むぅ」


 花華は少し不満げな表情だったが親父は気を取り直したのか、


「まぁ、楽しくやれてるならそれでいい」


 と、優しい言葉をいただいた。だが実際楽しくやれてるかといわれれば嘘だ。まだまだ辛い道が続きそうなのは否めない。でも俺はこれから楽しく過ごすって決めた。心強い?味方もできた。勝負は明日から。

 全力を尽くしてダメならしかたがない。親に正直にいって助けてもらったらり、親友や縦端にだって相談すりゃいい。俺には味方が居る。決して一人じゃない。だから、


「問題ないよ。ただ特筆して話すことがまだないだけだ。これから楽しくなるって」


 父はこくりとうなずくと黙々と飯を食べる。母はそんな俺たちを見て終始ニコニコとしているだけだった。花華はまだ納得いってないような表情だがそれはしらん。

あたたかい家族の絆を感じた気がする。食卓の空気は程よく温まり、テレビの音をバックグランドに俺は今日の出来事を少しだけ話した。

 変な男に絡まれている女の子を助けた話をすると皆は驚きそして心配してくれる。


 久しぶりに心が落ち着いた。心地いい。俺はご飯を食べ終えると寝る準備をして今日の暖かさを胸にかみ締めながら眠りにつく。少しだけ今日の出来事を振り返り、そして明日に期待を・・・・・・やがて眠気は最高潮にたっし、気づかない内に意識を手放していた。


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