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友達作り~西城椎名の場合~7

 通学は途中まで花華と一緒だったが、通う学校が違うため家をでて五分ほどで分かれることになった。一人寂しく登校するのにはもうなれた。実は楯の宮高校は中高一貫で俺と妹は同じ学校だったのだ。ゆえに、普段通学路で一人寂しい思いはすることも無く、毎日花華とくだらない会話に花を咲かせていた。


 ぼうっと空を見上げる。一人で通学していると、なにぶん無駄な行動を取りたくなるものだ。

 青い澄んだ空を見上げたり、そのキレイな空を横切る飛行機を眺めたり、野良猫と戯れてみたりはたまた、見覚えのある女の子が不良に絡まれているのを見たり、って西城ッ?


 不良達はどうやら西城にがなりたてている。西城は西城でそれを面倒くさそうに聞いていた。彼らの近くを通る通行人たちはその周囲を避けて通り、誰も分け入って助けようとする者はいなかった。


 まぁこれが現代人か・・・・・・自分が傷つくのが怖いから、無視をする。見てみぬ振りをしておけば自分は安泰だ。胸糞悪い。自分がよければそれでいいのか? 違うだろ! って思う。でも、俺だってあまりまわりの人間と違いなかったかもしれない。もし、もし、ここで絡まれているのが西城じゃなかったら俺は何もしなかったかもしれない。


「おい」


 気がつくと俺は、不良達の輪の中に飛び込んでいた。西城は驚きに眼を潜め、不良達は突然の乱入者に苛立ちをあらわにする。


 そのうち一人が俺の胸倉を掴む。


「おい、じゃねぇよ。俺たちになんか用でもあんのか? 見ての通り取り込み中だ。どっか行ってろよ」


 視線が突き刺さる。


「それはできない相談だ」

「なに?」


 俺は負けじと眼を飛ばし、牽制した。


「悪いけど、この女に恨みがあるのはお前らだけじゃないってことだ」


 西城には悪いがここは安全に切り抜けたい。登校するまでに喧嘩でもしてボロボロになるなんてあまりにも良くない。これでもし退学にでもなってみろ、いろいろな意味で人生が終わる。

 学校に行けなくなったら進学も厳しいし、憧れの縦端にだって顔向けできない。そんなんじゃお先真っ暗だ。


「俺はこいつと一対一で話をつけたい。もしお前らが複数人でどうこうしようってんならまた今度にしてくれないか?」


 不良達は瞠目していた。それは恐らく俺が西城とタイマンを望んでいると言ったからだろう。不良達の間では西城の力を無双だと恐れられていることは、以前風の噂で聞いていた。だからこそ皆が皆西城を取り囲んでどうにかしようともくろんでいるのだ。そんな西城相手に俺は一人立ち向かおうとしている。奴らからしてみれば英雄視されてもおかしくない。ゆえにこいつらは、


「そうか、わかった。今回はお前の雄姿に免じて引いてやる」


 と、以外にも素直に引き下がった。

 不良達がぱらぱらと散っていってから俺はふぅっとため息をつく。一安心だ。喧嘩なんてまともにしたことが無いし、下手したら袋叩きにされていたかもしれない。まぁ西城がいたから助けてくれたかもしれないが保障はない。


「っと、西城大丈夫か? 何もされてないか?」

「・・・・・・・・・・・・」


 無言の西城の視線が痛い。余計なことをするなと物語っている。


「えと、西城さん?」

「で、どんな恨みがあるんだ?」


 っぐ、メッチャ根に持ってる。


「あ、いや・・・・・・特にこれといって恨みは無いんですけどね」

「なら私のことは、ほっておけ。私はお前に助けてもらわなくてもどうにでもできる」


 冷えた風が通り抜ける。西城にとって助けてもらうことはそんなに嫌なことなのだろうか。俺は、たぶん間違ったことはしていない。ここで西城がケンカして怪我でもしたらいやだし、相手に怪我をさせて問題になってもまずい。まさかお嬢様がケンカで相手に重症を追わせたなんてことになってそれがスキャンダルにでもなれば大問題だ。


 もしかしたら、こいつのお家の力でもみ消すことなんていくらでもできるかも知れないが・・・・・・でも俺がこいつを助ける一番の理由は、


「似てるんだよな」

「は?」

「似てるんだよ西城は」

「誰にだ」

「俺が昔あった女の子にさ」

「っ」


 西城は何故か眼を見開いたが俺は気にせず続ける。


「昔さ、すごいブロンドが綺麗な女の子が居たんだ。ただその子のブロンドは人目をすごく引くものでさ、しょっちゅう変なのに絡まれてた。例えばもしその女の子が普通の女の子同様に、そういった絡みを怖がる子だったら違ったかもしれないんだけど、なまじケンカが強くてさ、絡んできた不良をばっさばっさなぎ倒してたんだよ。そしたらいつしか不良達の中で恐れられ、挑まれる存在になっててね。今の西城みたいだろ?」


 俺が冗談交じりにそういうと西城は真剣な顔つきで、


「続けろ」


 と、促してきた。何が西城をそんな顔つきにさせたのこ少し疑問に思ったが、俺は西城の言うとおり続けることにした。


「そいで、俺はその子の絵がめっちゃ好きだった。確か、中学生の二年だったかな、全国の中学生達の希望者が応募できる絵のコンクールがあったんだ。それはすごく規模の大きいコンクールでさ」



 そのコンクールで佳作に選ばれた絵があった。決して金賞でも銀賞でもない、賞の中では一番小さな賞・・・・・・佳作だ。これだけ大きなコンクールだと美術の授業でも取り上げられたものだった。


 あの時は自分の好きな絵を描いて提出する授業だった。そのとき、例として、コンクールの受賞作が挙げられた。少なくとも一般人の手本にはできない物だった。


 手本にしたところでまったく意味が無いほど次元が違う。どの受賞作もすばらしいものばかりだったけど、その中でも佳作だった、母の空というタイトルの絵が俺の印象に強く根付いた。


 一人のブロンドの女性が草原の上で青空を見上げているだけの絵。それも後ろから見た絵だ。もちろん顔は一切無かったし、ただ、ぼうっと空を見上げる女性は、それゆえに綺麗で、たくましくて、何より愛がこもっていた気がした。


「俺はさ、その絵を描いた人を人目見たくて、ストーカーぽかったかもしれないけど、必死に探したんだ。そしたらその人の後姿が絵の人そっくりでびっくりしたんだよ。ほら、さすがに受賞作ともなれば学校名とかも載るしさ、しかもその学校が俺の通う学校のすぐ近くってきたもんだ。これは儲けたと思ったね。すぐにその学校に行って絵を描いた人が誰だか聞いたんだけど反応がいまいちで、でもどうにか聞き出すことができた。名前はわからなかったけど、目立つ容姿をしてるから待ってればわかるって言われてさ、そしたらブロンドヘアの女生徒が歩いてきたから一発でわかったよ。ああこの人がこの絵を書いたんだってね。そしたらそのあとさ」




 西城は思い出していた。久しぶりに見た夢のことを。空と始めてあったときのことを。西城は最初から気づいていた。空が過去に西城を褒めた初めての他人だということに。


 だが空は忘れていたようだった。自分を見る目は他人を見る目。初めて会った人を見うような目。それが気に入らなかった西城は空が席に着く瞬間、ガムを吹き飛ばし空のイスに命中させていた。


 気に入らなかった。あの時空が言ったことがうれしくて、だから空の言う通りにしたというのに。それ以降姿を現すことはなく、久しぶりに会えたと思えば空には忘れられていた。だから、嫌がらせのような言動も取った。


 空が告ぐ言葉は今朝方見た夢の通り、懐かしい思い出の通り、そしてまた自分の頭の中でリフレインする。懐かしい言葉。うれしかった、初めての父以外からのほめ言葉。


「――――だって俺は、君の絵が大好きになっちゃたから」


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