友達作り~西城椎名の場合~6
「懐かしい夢だ」
西城は起きぬけにポツリとつぶやいた。自分の髪に手を通し、寝癖をある程度整え、楯の宮女子の制服に着替えると、もう一度自分の髪に手を添えた。
「・・・・・・黒い」
西城の髪は黒い。
さらさらと流れるような黒髪は日の光を浴びればわずかに茶色く、まるで昔の余韻を残すようだった。
「今、思えば私はバカだったんだ・・・・・・ただ意地になって突っ張っていた。今も変わらないかもしれないが、圧倒的に変わったこともある。ほんと・・・・・・・私はバカだったよ」
西城のつぶやきは誰も聞いていない。
午前六時と早い時間だが、リビングに行けばきっと父親がいる。だが、ここは自室だ。
まさか父親が西城の部屋の前で聞き耳を立てていなければ誰も聞いてるはずがない。西城は苦笑し、
「さて、学校へ行くか」
と、自室の扉を開いた。
「っぐ! おおお起きるのが辛い! 布団から出るのが辛い! 目覚ましがうるさい! 眠い! もう一度寝る!」
「寝るなぁ~寝たら死ねぇ~っとう」
「っぐっふぁ!」
とたん、俺の腹にとてつもない衝撃が走る。それは鋭く突き刺さるような痛みで、あまりの苦痛に息もできない。
ようやく息が整い始めると、今度は体に重みが増し、尚且つ花華の甘い匂いが鼻を通る。まさかこいつダイビングしてきやがったのか。
「って、花華っ何すんっ――だ!」
と、以前にも同じように花華を放り投げた記憶があった。花華はグヘっとカエルの潰れたようなうめき声を上げながら床へと落下するが、すぐに立ち上がりニコやかに、
「兄貴ぃ、朝なんだぜ、起きろい」
「もう起きたよっ!」
「兄貴ぃは、ばかなんだなぁ・・・・・・・起きたなら言うことがあるはずやろぅ」
「なんで上から目線なんだお前は・・・・・・まぁいい、おはよう花華」
「うむ、苦しゅうないぞぉ」
「何がだ!」
ったく、花華め朝から無茶しやがって。
花華は俺が起き上がっても部屋から出て行こうとせず、相変わらずニコニコと笑っていた。俺はその横でパジャマから制服へとチェンジする。
「兄貴ぃッストップ!」
と思ったが、花華の静止によりズボンを半脱ぎというなんともいえない格好となった。
「なんだよ」
「なななんだよじゃないぞぉ! 妹が起こしてやったからって、腐れイチモツをおったてるたぁどういうこったい!」
ぁ? 俺は思わず自分の息子に目を向けてみれば、しっかりとテントが張られていた・・・・・・あぁ、うん、これは生理現象だから仕方がない。まぁしかし、本当に花華はどうしてそんな下品な言葉を平然と使えるんだ。
まったくもう少し品のある子に育って欲しかった。
「まさかウチに惚れたからか! ウチが可愛いすぎるからか! わかるわかるよ、その気持ち。ウチもときどき自分に見惚れるしな!」
「それはただのナルシストじゃねぇか!」
「そうともいう」
「そうとしか言わねぇよ」
俺は相変わらずバカな妹とくだらない会話をしつつ、いそいそと着替えを再開した。俺が着替え終えると、「だっこぅ」と花華。
「だっこはきついからおんぶな」
と、俺は返し、花華を背負い自室からリビングへと朝食を取りに行った。