友達作り~西城椎名の場合~5
金髪の少女はいつだって一人だ。
その風貌と噂から少女によってくる人間は少ない。そしてその数少ない人間といえば、
「やっと見つけたぜ・・・・・・この前の借りはしっかり返させてもらう」
と、このようにゴロツキばかり。
数人に囲まれた少女だったが、意にも返さず、近寄るものをただなぎ倒す。少女にとってケンカとはただの作業に過ぎない。勝つことが当たり前で、彼らは路傍の石と同じ。蹴ればどこかへと飛んでいくような石であり、障害にはならない。
けれど、その日初めて彼女の障害に成りえる男が現れた。
その日は、いつもと同じく近寄るゴロツキを、千切っては投げ千切っては投げと繰り返していた。
「いいかげんうんざりだ・・・・・・」
「ならやめたらいいじゃん?」
少女のつぶやきに突然見知らぬ少年からの返事が一つ。
少年は飄々とした出で立ちでニコニコと少女を見つめていた。少女はその穢れのなさそうな目に嫌気を感じた。何も知らない癖にと・・・・・・本当は、本当は好きでこんなことやってるわけじゃないのにと。
「お前、だれだ」
「俺が誰だかは俺と友達になってからじゃないと教えられないなぁ」
少女は少し疑問に思った。普通誰だか知らなければ友達になろうとも思わないんじゃないかと・・・・・・しかし、少年は少女の思考をまるで読んでいたかのように話し出す。
「俺は友達は選ぶタイプだ。今の君とは友達になりたくない」
「っ」
「だってそうだろう? 君と友達ってだけで誰かに絡まれたりしたら嫌だし、面倒だ。だから俺自身のことは教えない」
少年は大仰に手を仰ぐ。まるで自分をバカにされているようで、少女の腸がくつくつと煮え始める。
「そもそもどうして君は絡まれたりしてる?」
少女にとってそれは禁句だった。昔から一つの理由が今の自分の在りかを作っている。このせいで、この髪のせいで。しかし、彼女にとってこの髪は何よりも大切な思い出でもあった。この少年にはそんなことわからない。わかるはずもない。
だが、それでも、少年の軽口に少女は腹が立って仕方がなかった。
「っぐ!」
少女は我慢が利かなくなると、少年の襟首を掴み上げた。
「なにするの?」
「お前を殴る」
「どうして?」
「お前がウザイからだ」
「何がウザイ?」
「お前が私を詮索してくるところだ」
「そっか、わかった・・・・・・じゃあもう詮索するようなことは言わない。言わないけど一言だけ言わしてもらう! その髪の毛黒くしろ――っぐ!」
「お前!」
少女はより強く少年の襟首を締め上げる。
「勝手なこと言ってんじゃねぇよ! お前にそんなこと言われる筋合いはねぇし、そもそも今日初めて会ったような奴にどうこう言われたくないんだよ!」
少女は拳を振り上げる。
「・・・・・・・・・・・・」
だが、少年は目をつぶることもなく、ただただ冷めた眼で少女を見つめていた。
「っく、クソが」
少女は、そんな少年の目に耐え切れなくなり、握っていた拳を解くと、掴んでいた襟首も離した。
すると、今度は少年が少女の手を掴む。
「何をす――」
「ねぇ、君はしってた?」
「???」
「ケンカとかしたら手は傷だらけになっちゃうんだよ」
「だったらなんだ!」
「勿体無い!」
「は?」
「君のこの手はこんなにもキレイなのに、ケンカなんてして傷がついたら勿体ない!」
「っな、なに言ってやがる」
少女は少年を振りほどこうとするが、少年は、放さない。
「だから髪の毛黒色にしよう」
「お、お前キモイぞ! あったばかりの女に黒髪強要すんじゃねぇよ」
少年は胸を抱え少したじろいだ。
「た、確かに今の俺はキモイけど・・・・・・っで、でも君だって本当はわかってるだろ? その目立ちすぎる金髪が今を作ってるんだって」
「あぁわかってる! わかってるけどこれは母さんとの大切な思い出なんだ! 母さんとの唯一の共通点で繋がりなんだ!」
少女に母親はいない。
少女の母親は少女を産みすぐ他界した。片親の下、暮らす少女は寂しい思いもした。母親がいないことで小さいころはバカにされたりもした。
幼い子は素直だ。素直だからこそ思ったことをすぐに口に出す。母親がいないという少女は周りとは違う。派手な髪の色、片親・・・・・・異質な目で見られる要素はいくらでもあった。
少女は辛かった・・・・・・死んだ母親を恨んだ時もある。
しかし、父は母の事をいつもいつも楽しそうに話し、そのときはいつも「母さんはお前のようにキレイなブロンドの髪だったんだ」と、優しく少女の髪を撫でた。
そんな話を聞かされていれば、いつしか少女の中でも母親は大切な存在になった。母に会いたい、会って話がしたい・・・・・・そう思ったこともある。
だが、それは叶わぬ夢・・・・・・だからせめて、母との繋がりだけは消したくない。そう思っていた。
同じ色の髪だから・・・・・・・・・・・・
「私はだからっ――」
「俺は君と母親の間で何があったかなんて知らない! 君がそこまでその髪に固執する理由も・・・・・・でもわかることならある。君の母親は、思い出の為に傷つく君を見て喜ばない・・・・・・違うかな?」
少女は反論ですることができなかった。
父の話を聞く限り母はとても優しい人で、きっと誰かが辛い思いをしていたら自分も傷ついてしまう。ましてや傷つく人は自分の娘だ。
自分譲りのブロンドでのけ者にされているなど知った暁には、きっと心を痛めてしまうだろう。
「・・・・・・だが、お前にそれを言われる筋合いは」
「でも口を出したくなっちゃうんだよ――――だって俺は」