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交換留学!

よろしくお願いします

 あぁ、わかっていた。きっとこんなことになるんじゃないかなって気はしてたんだ。物語の中では別に特別なことじゃない。いくらでもある話だ。

 だが、だからといって自分がその特別な環境下に置かれたらどう思う。

 不安になるに決まっている。



 今、俺がおかれている立場を一言で行ってしまえば姉妹校による交流生徒交換だ。交流生徒交換とは、俺が属する高校、楯の宮高校とその姉妹校である楯の宮女学園との交換留学のようなもの。


 普通の交換留学と違うのは、俺の通う高校が共学なのに対して、楯の宮女学園はその名の通り女子高って所だ。そもそも俺が俺って言ってるあたり俺の性別が男性であるということはわかるだろう。


 その男がどうして女子高との交換留学をすることになったのかといえば、これも端的に言えることだが、抽選で当りました・・・・・・はい。別に応募なんてしてないんだけどね、学校の方針で今年から我校から一人向こうから一人交換留学をすることになったらしい。それも希望者を募る方法などではなく完全なるランダム。


 そもそも男の俺が女子高に行っていいのか? と、思うんだが問題ないらしい。世間と比べ閉鎖的な楯の宮女子はそもそも交換留学生相手は男をほしがっていたみたいだ。

 おそらく、男が入ることで世間の常識を少しでもわかってもらおうという判断なのだろうが、俺にとっては迷惑千万だ。


 今、言ったことから少しは想像できるかもしれないが、楯の宮女子はお嬢様学校といってもいい。穢れを知らず、自分はいつだって高みにいると感じている人間が多いこの女子高では一般常識をあまりしらない人間が多いらしい。さっきも言ったが俺が入ることで少しでも理解してもらいたいという学校の計らいだそうなのだが俺一人入ったところで何ができる? いや何もできまい。


 俺だって完全な人間じゃないし一般常識を教えられるほど物事を知らないただのガキだ。そもそもそれなら、もっと敷居の低い学校にしてしまえ。


 そのほうが世間の若者が沢山入学できるし、そうすれば一般庶民がどんな生活をしているか、色々わかるだろう。だがそれは方針にあわないらしい。あくまで身内のみでがんばって欲しいそうだ。

 そしてその身内に義兄弟的な乗りで俺は留学させられた。


 正直俺はかなり行きたくなかった。クラスには仲のいい友達もいたし、親友と呼んでも差し支えない仲間もいた。さらには憧れの縦端たてはし 瑞穂みずほもいた。最近少しずつ仲良くなり、休み時間には二、三言程度だが会話もするようになった。俺は青春ロードをやっと走り始めたというのに、今走っている道は急にそらされた。ゴール地点には縦端が待っていたはずなのだが今は誰もいない・・・・・・


 だってそうだろ? 友達ってのはいつもすぐそばに居て、笑いあって、バカにしあってこそが楽しいんじゃないか。会おうと思えば休日にでも会えるけど、毎日一緒にいたやつが、急にそばから居なくなれば寂しいに決まってる! なにより毎日、縦端の顔が見れなくなっちまう!


 それなのに・・・・・・学校に俺の拒否権は無いと言われた。もしいやだというのなら学校を辞めてもらってもいいそうだ。ひどすぎる! 横暴だ! だが、そう異議申し立てる俺に学校教諭は生徒手帳を開かせる。


 生徒手帳二十二ページ、楯の宮会則第十二条、本校における交換留学生に選ばれた生徒はいかなる理由があっても拒否することは出来ない。上記に同意できない場合退学扱いとする。

 因みにこれは入試を受ける前に読んでおけと言われた〔楯の宮に進学する生徒諸君へ〕の同意書にも書かれていたことであり俺はそれに同意していた。まぁもちろん同意書なんて読んでいない。そもそも同意書など形ばかりと思っていた俺は、重要な会則を知らず気軽に拇印を押していた。


 過去の自分を俺は嘆きながらもその場に膝まずいた。教諭がおれの肩にそっと手を置きがんばれとささやいた暁には腸が煮えくり返る思いだった。まぁすべては俺の浅はかさが招いた結果だが・・・・・・

 落ち込む俺を親友やら友達やらが慰めたり、はたまた女子高に男一人で行くなんてハーレムだとか騒いだりうらやましがられたりしたが、俺はハーレーレムに興味はない。俺が興味を持っているのはただ一人、縦端 瑞穂だけだ。


 縦端は縦端で俺との別れを憂いてくれた。せっかく仲良くなったのにねと微笑みながら握手をもとめられれば、汗ばんだ手を制服のズボンでしっかり拭き、強く握り過ぎない程度に握手の手を返す。少しにぎにぎし、縦端の手の感触をかみ締めた俺はただの変態だが、縦端自身、俺の思惑に気がついていないようなので問題ない。


 俺はなくなく手を離すと縦橋に挨拶をしてその場を立ち去る。「また話そうねっ」とかわいらしい声で分かれの挨拶をしてくれた縦端に感謝と敬意を込めて手を振るうと、パタパタと子犬のように手を振り替えしてくれた。


 この瞬間だけは俺の留学に感謝した。今までで一番縦端に近づけたからだ・・・・・・だがこのあと今まで以上に遠ざかると思うと欝になる。

 まぁいい、いつまでも嘆いているのは男らしくない。せっかくなのだから、こんな人生にまたとないような体験楽しまなくてはそんじゃないか、の精神で俺は自分を奮い立たせ、クラスメイトとの別れを終えた俺は、楯の宮女子に赴いた。



 楯の宮女子の概観を改めて見た俺はため息をつく。以前下見として来たときも思ったが、たたずまいが圧巻なのだ。巨大な門により中と外は断絶されており一般部外者は容易に侵入することはできない。校舎も俺の学校とは違い、かなり綺麗だ。へたすりゃ大学なんじゃないかといえるほど敷地も広い。高校にこんなに金をかける必要はあるのかと俺は思うのだがあるからこうなんだろうと納得することにした。


 最初に職員室に行く。それが当たり前なのかもしれないが、教諭は女性しかいなかった。若い教諭もいれば年老いた教諭もいる。ある意味選び放題だ・・・・・・何がとは言わない。

 俺を案内してくれる教諭は若く、何より美しい。少しむちっとした体つきは大人の女性の色香を漂わせ・・・・・・すまん縦端。俺はこの人に惚れそうだ。


 少しだけ罪悪感を持ちつつも案外女子高っていいんじゃないかと俺は不埒な考えを抱いてしまった。

 むっちり教諭について歩いてゆくといつの間にかクラス前に着いていた。教諭は少しだけ待っててと俺を廊下に立たせていると、中から俺を呼ぶ声が聞こえる。


 心境はまるで転校生。あながち間違ってはないだろう。扉は横スライド式。ただ一般の高校と違うのは綺麗な建てつけそして、軽やかにスライドしてゆく扉。わずかばかりの感動と緊張をないまぜに俺は教室へと入った。


 視線が殺到する。殺到する、殺到する、殺到する!

 むしろ殺気を感じるッ?


 教諭に自己紹介を促された。さて、ここはお茶目でいくかそれとも真面目にいくか。

この自己紹介で今後の自分の立ち位置がある程度決まるだろう。とあれば俺は慎重にならざる終えない。ビビリな俺は真面目な挨拶を心がける。


「初めまして、悠木 空と言います。皆さんの通う楯の宮女子高校とは姉妹校の楯の宮高校からやってきました。沢山の女性徒の中、異質であるかもしれませんがどうか暖かく迎えていただければ幸いです。本日からお世話になります。どうかよろしくお願いしたします」


 と同時に頭を下げると、俺を向かえる暖かい拍手は起こらなかった・・・・・・少し冷や汗を掻く。俺はどこかで間違いを犯してしまったのだろうか。いや、俺は今完璧な挨拶をしていたはずだ。確信がある。ゆえに俺は自信を持っていいと自分に言い聞かせ恐る恐る顔を上げる。


 一番眼についたのは、足を机の上で組み、憮然とした表情で教壇・・・・・・すなわち俺を見る女子生徒。彼女の表情は恐ろしいほどにさめていた。


 いや気がついた・・・・・・彼女だけじゃない他のクラスメイトたちまでもが俺という交換留学生に一切の興味を持つことすらなく席に着いていた。


 だらしがない。そういう言い方は不適切かもしれない。だらしがないというよりは素行の悪そうなイメージを見せる態度。とてもじゃないがここがお嬢様学校だとは思えなかった。


 むっちり教諭はおそらくこのクラスの担任なのだろう。はぁっと小さくため息をつくと俺を指定の席に着くようにと促した。席は・・・・・・クラスのボス的存在・・・・・・つまり先ほど一番に目に付いた女生徒の隣の席だった。クラスど真ん中から窓側に一つずれた位置。ようするにボスはボスらしくど真ん中にいた。


 俺が席に歩いてゆくとボスと視線が合う。綺麗な瞳だった。さらさらと流れるような黒髪は櫛でとかしても引っかかることなどないように思えた。気のせいかもしれないがふんわりと甘くいい匂いがする。少しだけ惚けそうになるがハっと意識を取り戻し、紳士の精神をもって軽く会釈し着席した。


 もちろん俺の会釈は華麗にスルーされたが俺は気にしない。気にしたらきっと負けな気がするから・・・・・・本当に気にしてないんだからねっ!

 おっと、ふざけが過ぎた。席に着いた瞬間俺は尻に違和感を感じる。


 少し腰を浮かして手で確認してみるとガムがこびりついていた。うすら寒くなる。自分が想像以上に歓迎されていたことに俺は落ち込んだ。


 こんなことでこれからやっていけるのだろうか。頭の中には花よりおこわのドラマが再生される。御触れがでないか心配だった。

 その日一日はそれ以外何事もなく放課後を迎えた。本当に何事もない。クラスで友達ができることもなく、俺は自己紹介のとき以外一切発言しなかった。ありえない。



 楯の宮女子初登校から一週間経った今でもクラスでの俺はかわらない。一切話しかけられることはなく話しかけることもない。最初は話かけることを試みた。だが完全スルー。本当に誰にも話しかけられていないかのような振る舞いで俺を無視しされると、心にグサリと差し込まれるような痛みが走る。早くもめげそうだった。


 人と話せないことがここまで苦痛なことだとは思わなかった。ただ幸いなことに御触れが出されることもなく、初日のように微妙な嫌がらせもないことだけはせめてもの救いだ。



 昼休み。いつも通り一人昼食を食べていると放送で職員室に呼び出され、すこし不安をかんじつつも、まぁあれだ俺なんかしたのかな? とかどんな話なのかな? とかそんなことを考えつつ俺は早足で歩みを進めた。

 まっていたのはむっちり教諭。


「ごめんなさい」


 突然丁寧に謝罪される。俺は何がなんだかわからずその場であうあうときょどっていた。そんな俺の様子を少しだけくすりと笑うと俺はなんだか恥ずかしくなった。

 教諭は少しだけ真剣な面持ちで、


「あのね、本当は言ってはいけないのだけれど、でもあなたの様子を見ていると居た堪れなくて、本当のことを言うわ」


 俺はなんのことかと首をかしげ続きを促す。


「あなたが通っているクラスの人たちは、この楯の宮女子の落ちこぼれ・・・・・・いいえお払い箱にされているような人たちなの」

「お払いばこ?」

「そう、つまりは素行不良って言うといいかたが悪いわね。えっと要するにお嬢様学校であるこの高校にはふさわしくない振る舞いを行う人たちなの。うちの理事がそれが気に入らないらしくて、そういう人たちだけを集めてあのクラスに押し込んだのよ。別に一人一人悪い子ではないんだけど気難しくて。それに男の人になれていない人たちだから、あなたのこと少し怖がっていると思うの。だからっ」

「ちょっと待ってください」


 俺はストップの声をかける。そして膨らんだ疑問を一気に口にした。


「俺がこの学校に留学させられたのは一般常識を世間知らずのお嬢様に少しでも世間というものを知って欲しいということだったのですがそれは違うと?」

「えぇ」

「正直俺が今いったことをやれと言われてもどうしていいかわからないし、俺一人でなにをすればいいんだって話です」

「えぇ、だからそれは建前で」

「わかっています。それを踏まえてうえで俺は聞くんですよ」

「?」

「では俺はなんのためにこの学校に呼ばれたんですか?」

 教諭はしばし困ったように視線を漂わせるとやがて俺に鋭い視線をぶつける。

「あの子たちと仲良くして欲しい」

「無理だ!」


 俺の大声が職員室に響くと他の教諭の目が向く。少し顔を伏せながら頭をさげ、改めてむっちり教諭へと顔を向ける。


「どうして無理なんていうの?」

「俺は最初自分から歩み寄りました。先生も知ってるんじゃないですか? 俺がまるで透明人間のように扱われていること」

「それは」

「でもまさか自分がそんな場所に留学させられるなんて思っても見ませんでした。これって俺の学校の教諭達も知ってるんですか?」

「それは・・・・・・」

「もしかして知らないと?」


 教諭はこくりとうなずいた。なら一刻もはやく現状を回避しなければならない。もし俺が学校に訴えればもしかしたら留学を取りやめにしてくれるかもしれない。

 そうすればまた俺は縦端に会える。俺の青春ロードは少し寄り道をしただけでもとのコースに戻れるではないか。俺は自分のすばらしい考えに興奮し、その趣旨を教諭に訴えようとした・・・・・・が。


「それは無理よ」


 と何も言う前から否定されてしまった。


「あなた、留学を取りやめにしてもらおうと考えたわね?」


 俺の考えを見事に先読みした教諭には感服だった。俺はその通りだとうなずく。


「私たちの学校は姉妹校としてあるのは知っているわね? そしてここが無理な理由なのだけど、私たちの学校の理事は一緒なのよ・・・・・・もうわかるでしょ?」

「つまり、教諭達はしらなくとも学校を経営する側はしっている。つまり俺が訴えたところで意味がないと?」

「えぇ、留学を拒否しようとするのであれば結局は退学にさせられるでしょうね」

「そんな」


 ってことは、結局俺はあのクラスで一年間丸まる過ごさなければいけないのか? 嘘だろ。正直自分が持つかわからなかった。


「だからあなたにはあの子たちと仲良くして欲しいの。せっかくならそのほうがいいでしょ?だから頑張ってみて」


 俺はしぶしぶうなずくと教諭はこれでこの話しはお終いと打ち切った。俺は少しおぼつかない足取りで自分のクラスへと歩みを進める。

 クラスに帰る途中、やはり女子高に男がいるのが珍しいのか、好奇の視線がビシバシと当たる。だが誰一人として話しかけてはこない。


 ただそれでも俺を俺としてみていることには変わりないから少しだけ安堵する。だが結局クラスに戻ればまた俺は透明人間だ。


 嫌なことというのはあっという間にやってくるくせに過ぎる時間はかなり長い。俺は一瞬だけクラスに入ることをためらったが、しかし勢いよく扉を開く。バンッとかなり大きな音をたてるとその瞬間だけ視線が集まった。少しだけ満足。俺は透明人間なんかじゃないんだ。


 席に着けばいつもの通り大人しく――しなかった。俺は決めたのだ。ずっと透明人間なんて考えられん。どうせなら楽しくそれが俺のモットーなんだ。だったら友達作ってやろうじゃん。

 そう、こんなことは物語の中ではよくあることだ。いじめられたり無視されたり、突然一般庶民がお金持ちの学校に行くことになったり。


 そりゃ不安は沢山ある、でも、だったら俺は主人公を目指すしかない。そういったはちゃめちゃな人生も漫画やアニメの主人公はどうにかして乗り切っている。

 なら俺も主人公になって乗り切ってやろうじゃんか。つまりそういうこと。俺は友達を作る! これが最初の目標だ。まずは最初の一人。さぁ~て誰と友達になろうか!


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