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お姉さま(短文)

前倒しでどうしても書きたい衝動にかられた。


※よって時系列としては本編より少し未来。

※まだ出てないキャラ有り。

※ネタばれ


上記三つが大丈夫な人のみ、お読みください。




 パタパタと走って来る愛らしい少女に、アナクは大きく息を吐いた。

 この国に来てすでに1週間近いが、なぜこうも懐かれたのかがわからない。

 女装か。女装のせいなのだろうか。と、未だにさせられている女装姿に、またもため息が出る。

 隣で優雅に紅茶を飲んでいるフィーリーシャ神の眷属である蓮は、一貫して我関せずといった態度を崩さず、アナクは一人、やって来るだろう衝撃に軽く身構えた。

「お姉さま!!」

 腰のあたりにタックルをかまされ、衝撃を殺しながら受け止めると、緋色の髪を乱しながら少女が笑う。

 手に持っていた籠から焼き立ての菓子を取り出して、アナクへと差し出しながら少女は自慢げに言った。

「お姉さま!今日はメルテ(クッキー菓子)を焼いたんです!食べてみてくださいな!」

 悲しいかな、アナクには一切伝わらなかったが。

 北の大陸、ロストパーズ大陸の南端に在るモーレ王国。

 幸いにも島国であるためか、内陸で起こっている戦禍に巻き込まれず長閑な平和を保っているこの国で、蓮とアナクは表向き王女の客として滞在している。

 王女とは、目の前にいる緋色の髪の少女だ。

 王女というには大らか過ぎてどこか町娘のような少女は、手に持った菓子を掲げて、期待を込めた瞳でアナクを見ていた。

「…レーン様」

 大陸が違えば言葉は全く違う。

 喋る言葉も書く言葉も、この大陸に関しては全く知らないアナクは、困ったように蓮を見た。

 その視線を受けて、蓮は面倒くさそうに動いた。

 実際面倒なのだろう。

 ガッと菓子の入ったバスケットに手を突っ込んで鷲掴みにすると、アナクの口に押し込んだ。

「んぐっ…!」

「お姉さま!?」

 咽喉に詰まらせたアナクを眺めつつ、蓮はまた紅茶を飲みだす。

 声も出せず、マーノンの迎えも来ない状況で、苛立ちが募っている蓮にとって、アナクへの態度は完全なる八つ当たりだ。

 少女が、アナクが男だと知りながら女物の服を着せるのも、アナクに女装趣味があるのだと、蓮が誤解させたからだ。

 そのおかげで、視覚的苛立ちは随分半減できた気がすると、内心ほくそ笑んでいる。

「お姉さま!死なないで!…ああ、私が作ったメルテに毒が仕込まれていたなんて!!」

 涙目でわたわたとしている少女に、アナクが咳きを堪えながらすまなそうに笑っている。

 言葉が通じないからこそ微笑ましい光景に、蓮はぼんやりと紅茶を口に含んだ。

ぶっちゃけお姉さま!がやりたかっただけなんです。

ごめんなさい。

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