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ダンスの話 (元・拍手お礼)

※拍手お礼だった、蓮とマーノン(10話で省いたダンスの話)の会話文に肉付けしたものです




 1、2、3。1、2、3。

 聞こえてくるそのリズムはしかし、実際は12、…3。1、2、…3。と、狂いまくりだ。

「レーン、さっきから何してるの?」

 思わずマーノンがこう問いかけても無理もないその光景に、蓮は平然とこう答えた。

「え、ダンスの練習」

「…………」

 今のが?と問うことも赦されないような気がして、マーノンの目に憐れみが浮かぶ。

「っちょ、何その反応!?」

「人間のダンスっていうの何度か見たことはあるけど、レーンのはあれだね…」

「あれ?」

「踊りっていうものですらないよね」

 多分、亀がばたついてるほうがよほどマシだと思う。

 とはさすがに口にしない心やさしいマーノンなのだが、言いたいことをなんとなく察してしまった蓮にしてみれば、嫌味にしか聞こえない。

「…うっさいバカ!!」

 顔を真っ赤にして怒鳴る蓮に、マーノンは内心にやけっぱなしだった。

 だって可愛い。

 涙目になっちゃって、すっごい可愛い。

 ぷるぷる震えちゃって、ヤバいくらい可愛い。

 力いっぱい抱きしめたいけど、でもそんなことしたら本格的に拗ねそうだ。

 抱きしめるのは諦めて、もう少し弄ることにした。

「動きなんて普通決まってるモノだよね?」

「だったらなに?」

「全然動きが定まってないよね、レーン」

「だって…」

 踊れないことを相当気にしていたようで、蓮は本格的に落ち込みだしてしまった。

 ダンスの練習始めてもう5日目。

 本番は明後日だ。

 一向に上達しないことに焦っているのも知っていたマーノンは、いじめすぎたかなと頭を掻いた。

「しょうがないな…」

 俯いて立ちつくす蓮の前にマーノンが立つ。

「うん?」

 何をする気だと睨みつけてきた蓮に、マーノンは右手を差し出した。

「はい、手」

 有無を言わせない言葉に、反射的に手を乗せた蓮の腰に、左手を添える。

「うぇっ!?」

「はい右足、前。…どうして踏むほどに足出すのかな」

 意図的にとしか思えないほどの強さで踏まれ、マーノンが顔を顰める。

 体を離して靴を見れば、くっきりと痕が残っていた。

「ごめんなさい!」

 真っ青になって謝る蓮に、もう一度手を差し出す。

「半歩でいいんだよ、半歩で」

「半歩。…うん、半歩ね」

「もう一回行くよ?」

「うん」

 腰に手を添えて問うと、真剣な顔をして蓮が頷いたので、リズムを刻みながらマーノンは足を動かした。

「……リードに逆らおうとするのはなんでかな?」

 同じ失敗をしないだけマシかとは思うものの、どうにも反対へ反対へ動こうとしているかのように抵抗を感じるマーノンに、蓮はむーっと眉間にしわを寄せる。

「いや、逆らう気はないよ?ないんだけど…」

「体の力は適度に抜けばいいんだよ。レーンてばガチガチ」

 リードに流されるだけで、それなりに様になるだろうにと溜息をこぼされ、蓮はいじけたように視線を落とした。

「だって、こういう体が密着してると思うと、なんか体に力が入っちゃって」

 抱きついたりする時はそうでもないくせに何を言ってるんだろうこの子は、と呆れと驚きに押し黙ったマーノンの沈黙が痛かったのか、蓮は必死に弁解する。

「これでもレッスンの時よりいいんだよ?今日なんて足踏み出そうとして、縺れて転んだからね!」

 それだけ信頼されていると喜べばいいのか。

 どちらにしろ踊れていない時点でそう変わり映えしないが。

「自慢になってないよ、レーン」

「わかってるよ」

「とりあえずステップ覚えようか」

 リードに流されてくれないなら、より正確にステップを覚えるべきだろうとマーノンは判断した。

 けれど、蓮はそれがお気に召さないらしい。

「……覚えたつもりなんだけどなぁ」

「なら一人でまともにステップ踏めるようになろうよ」

「……………ハイ」

 きっと、頭の中では正確に覚えているのだろう。

 それに体がついていかないどころか、変な方向に動くだけで。

「まぁ、僕も見て知ってるだけで実際踊るの初めてだからね」

「あれ、そうなの?」

 ちゃんと踊れるのに?と見上げてくる蓮に、マーノンは苦笑した。

 ちょっと考えればわかるだろうに。

 マーノンが“人間が”踊るダンスなど、普通なら見向きもしないことが。

「うん。覚えたのだって、レーンの練習遠目で見てたからだし」

「…み、見るな!」

 ああ可愛いなぁ。

 握っていた手を離して、右手も腰にまわしてへらりとマーノンが笑う。

「どれだけレーンがこけたって、気にしないから大丈夫だよ」

「私が気にする!」

「ただ、体に傷はつけないようにね」

 傷なんてつけたらリィにお願いしてこの国滅ぼそう。

 そんなことをマーノンが考えているとは露とも知らない蓮は、肩を殴りつけながら喚いた。

「人の話聞こうぜ、この野郎!?」

「さて、練習の続きしようか?」

 殴りつけてくる手を取って、練習を再開しようとするマーノンに、蓮は暴れた。

「もういやだ!離せ!今日はもう文字の練習して寝るんだから!」

「はいはい」

「いーやーだーーーー!!!!」

 抵抗も空しく、その後みっちりと練習させられた蓮だった。

 マーノンとはしっかり踊れるようになった翌日の昼間。

 練習相手の講師とは依然として踊れず、マーノンとの練習は全くもって無駄となった。

マーノンの人気が右肩上がり過ぎていじけた(俺が。

変態にしようと頑張ったら、単なる蓮馬鹿になった…。

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