目隠し (マーノン)
とてとてと音がしそうな小走りで動き回る子供に、目を細める。
大量の本の間を行ったり来たり。
少し目を通すと他の本を手に取りまた少し目を通すと元の本に戻る。
そんな繰り返しの中で、時折何かを書き出してもいるようだが、子供が書くのは文字としては見たことのない部類のものだ。
「んー…」
ぐっと背伸びをして、本ばかりに向けられていた子供の視線が不意に上がる。
目が合うと、驚きに目を瞬かせた。
「マーノン。びっくりした、何時からいたの」
ずっと子供と一緒にいたのに、本に集中しきっていた子供はまるで気付かなかったらしい。
気配に疎過ぎる子供が、こうやってこちらの気配に気付かないことは珍しくない。
こんなにも疎いと、すぐに背後を取られて殺されてしまうのではないかと気が気ではない。
「あ、ねぇ、これ読んでよ」
答えずにいるとすぐに興味が削がれたらしく、広げていた本を寄こしてくる。
見れば神話の類のようで、フィーリ・クォリリアの名に、顔を顰めそうになった。
「今は何を調べてるの?」
「んっと…12神について、かな。最初はこの世界の神様について調べてたんだけど」
人間たちがつけた、12神とはフィーシェンラを含めた最高位と上位の神々の総称ことだ。
調べていくうちに限定的になっていったというところか。
放っておけば、どれか一つの神についてを徹底的に調べてしまいそうだ。
それも人間のわかる範囲内でだろうが、それでもあまり子供の知識は増やしたくはない。
「神子についてはもういいの?」
「力や契約に関しての記述がまるで見当たらないから、天上神から調べようかと思って」
「そう…。でもそれなら5位以下の天上神に定めたほうがいいと思うけど」
「なんで?」
「神子に力を貸すのは大抵そこらへんだからね。僕だって神子には興味なかったし」
「あー…」
机の上に伏せながら本を閉じ、積み上げた本の中から新たにを探し始める。
容易く信じてしまう子供にいじらしくなりながら、頬杖をついてさらりとした黒髪を指で弄った。
嘘はついていないが、あまり知られたくない情報から遠ざけられたので、今度は渡された本を進んで読み聞かると、子供は嬉しげに礼を言う。
雛鳥みたいな子供は、未だこの世界に染まらず、無垢なままだ。
無知でいてくれたらとも思うけれど、知識を得ることに貪欲な子供はこちらの思惑どおりにはならないのだろう。
「ね、ね、じゃあここは?」
また引っ張り出して広げた本を指さしてくる子供の頬を撫でながら、額に口付けを落とす。
今少し、無知のままでいてくれるようにと、願いを込めながら。