ありえない対面(元拍手お礼)
注:本編とは何ら関係ございません
「こっちが加奈子さん。私の叔母で、親代わりなの。で、加奈子さんの夫で英明さん」
加奈子さんと英明さんの住まいであるマンションのリビングで、ヴォルドと一緒にソファーに座りつつとりあえず紹介してみた。
「こんにちは」
「…」
真向かいで床にクッションをしいて座る加奈子さんからは、のほほんとした挨拶が返ってくる。
一人掛けのソファーに座る英明さんは、ムスッとした顔でウンともスンとも言わない。
「こっちは一国の王様で、お腹の子の父親の…」
「ヴォルド・フィーシェーラ・ヴィレンツァーレだ」
体格の差違か、窮屈そうにソファーに座りながら、一国の主としての風格はあれど、私の目からすればどこか畏縮した様子でヴォルドが名乗った。
瞬間、加奈子さんから歓声が上がった。
「かっこいい人捕まえたのね!蓮ちゃん!!」
「カナ!それより突っ込むところがあるだろ!?」
冷静な英明さんの突っ込みもなんのその。
加奈子さんに通じるわけがなく。
「えー…。あ、玉の輿!?王様なんだよね!?」
「違う!」
よくよくズレた思考を持つ加奈子さんと、どうして英明さんはこんなに続いてるんだろうと甚だ疑問に思った。
やっぱり愛か。
愛の力なのか。
馬鹿なことは、まぁ置いておいて。
仕方ないので助け舟を出してみた。
「加奈子さん、英明さんが言いたいのは、何子供作ってんだ!ってことですよ」
「お前が言うな!」
せっかく助け舟出してあげたというのに、何たる言い種。
作った張本人が言うなってか?
強姦だから私に責任ねぇっての。
それ以上に…
「やーだって加奈子さん絶対わかってないし」
「そりゃそうだがな…」
「でも、そこは蓮ちゃんだし」
がっくりとうなだれる英明さんに、悪びれもなく加奈子さんが言い放つ。
いや、てか。
「それは理由になってねぇだろ」
「私だからの意味がわかりません」
幼馴染や友人らと違って、私の貞操は緩くはない。
そのかわり、うっすいけど。
…ん?どっちも変わんないか?もしかして。
わかんなくなって悶々としていると、それまで触らぬ神に祟りなしとばかりに押し黙っていたヴォルドが口をはさんだ。
「流されやすいからという意味ではないのか?」
「ああ…。そうかな?」
「さっすが、ボルさん!」
私ってそんなに流されやすいか?
自分では納得いかなかったが、叔母夫婦な二人が納得しているために、違うとも言えなかった。
自分でわからないだけで、実際他人から見ればそう見えるのかもしれない。
それにしても。
「発音びみょーに違うよ、加奈子さん」
ボじゃなくてヴォ。
しかも最後のドが抜けている。
ヴォルドもほぼ愛称とそう変わりないのに、これ以上縮めてあげるなと、少し思った。
「だって言いにくいのよぉ」
確かに、日本人には優しくない名前だ。
ボもヴォも変わんないじゃんと言いたくなる。
「わからんでもないけど…。改名しようか?ボルド…っぷ」
試しにボで呼んでみたら、思わず笑ってしまった。
それに対し、ヴォルドが不本意そうな顔をしていて。
「何故笑う?」
「いや、急に安っぽくなったなぁって」
セイシャーリじゃ立派な皇帝様だというのに、威厳のへったくれも無くなった感じだ。
「安っぽくしとけ。でだ。いきなりいなくなって帰ってきたかと思えば子供とは、どういう了見だ」
なんというか、堅物な英明さんらしい発言に失笑してしまう。
けど、真っ先に問い詰めるべきはヴォルドじゃなかろうかと思ってしまうのは、私だけか?
問い詰められたら面倒だから、どうでもいいけどさ。
「どうもこうもこういう了見。あ、結婚しないから」
「えーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
あまりの大音量に、キーンと高い耳鳴りがする。
「加奈子さんうるさい」
「だってだってだってー!蓮ちゃん白無垢は!?ウエディングドレスは!?」
「着ない(もう着せられたし)」(※ホワイトデー小ネタ参照)
二度も三度もあんな仰々しいものを着せられる気は、いくら加奈子さん相手とはいえ私にはない。
一度着るだけで充分だあんなもの。
「…うぅ。蓮ちゃんの結婚式ー!」
本気で悔しがっている加奈子さんに、英明さんは疲れた様に肩を落としている。
「カナ…。お前もう少し良識もってくれ」
「ヒデちゃんが堅いのよ。結婚しないってどういうことー?」
加奈子さんは軽すぎると思います。とは言えないので、正直に答えた。
「だってヴォルドとは恋人でも何でもないし」
「っな…!?おまっ」
五月蠅い人が五月蠅くなる前に、畳みかけるように言葉を重ねる。
「英明さんは黙ってて。ヴォルドとは話はもうついてるし、一応出産の報告だけ。…ね?」
「ああ…」
ヴォルドに笑いかければ、薄らと蒼褪めた顔で相槌を打たれた。
これってもしかして、前に言った殺される発言を気にしてるんだろうか。
英明さんが嫌いなのは私であって、ヴォルドじゃないから気にする必要ないのに。
「そっかぁ…。じゃぁ、結婚する時がきたら教えてね!プロデュースするから!」
「一生しないから、しなくていいよ?」
「うん。準備しとくね。あ、ボルドさん」
人の話聞いてないなぁ。
加奈子さんだから当然なのだけど。
「…何か」
「蓮ちゃん泣かせたら、包丁もって押しかけますね!」
いい笑顔で言われて、ヴォルドの顔が俄かに引き攣った。
「そのようなことはないから、普通に訪ねてくれ」
蒼い顔のままけれど毅然として言うヴォルドが可笑しくて、ついつい加奈子さんに便乗した。
「包丁なんて持ってたら、まず門番あたりに捕まるんじゃない?青酸カリとかのがいいよ」
「それもそっかぁ」
青酸カリがなにかは分からなくても、それが毒薬であることには気付いたのだろう。
ほどほどにしてくれと苦く笑いながら、ヴォルドは私の頭を撫でた。
「…馬鹿娘。そいつのこと嫌いなのか?」
毒殺をススメている私に、英明さんが何ともいえない顔で言った。
「え。別に…好きな部類だけど?でも加奈子さんのが大事」
ヴォルドは加奈子さんよりは下なのは当然のこと。
何を今更とそう返せば、英明さんの表情は更に微妙なモノになった。
「……むくわれねぇなぁ」
ヴォルドに対し同情する英明さんに、私は訳がわからず首を傾げた。
何にも知らないからこその英明の反応。
ヴォルドが一方的に懸想してるとか考えてそう。