蓮&加奈子(元・拍手お礼)
※蓮12歳時
「蓮ちゃん蓮ちゃん、これ着て見ない?」
仕事から帰ってきた加奈子さんの手に握られた紙袋の束に、私は夕食を作っていた手を止めた。
「……また服買ってきたの?」
「うん!」
これ可愛いんだよ!と嬉々として服を取り出し始めるその姿に、重々しく溜息を吐く。
ああ、これで一体いくらの出費なんだろうかと、私の頭はすでに計算を始めていた。
「…………当分はいいって言ったよね?」
合計で2万か。結構な出費だなぁ、おい。
この間旅行するから節約しなきゃねとか言っていたのはどこ誰だったか。
「でも蓮ちゃんに似合いそうだったから!」
「いいって言ったよね?」
稼いでいるのは加奈子さんだが、私に対しての無駄遣いは奨励しない。
ということで強めにといかければ、加奈子さんは服を握りしめてしょぼくれ始めた。
「…ぅー」
「言ったよね?」
「だってぇ…」
「だってじゃないでしょ」
涙目で見たって許しません。
「ご、ごめんなさい…」
とか言いながら、まだ買ってくるんだろうな、どうせ。
行動パターンはもう見え見えだから、呆れるしかない。
「もう買ってきちゃったからしょうがないけど」
何か買わせないためのいい方法は無いものか。
そんなことを考えている私を前に、加奈子さんはさぁ試着をと言わんばかりにずずいと服を押し付けてくる。
「蓮ちゃん!」
…そうだ。
「冬物が店に並ぶまでにまた服買ってきたら、加奈子さん夕食なしね」
「ええ!?」
「当然でしょ。まったく、また無駄遣いして」
「無駄遣いじゃないよ!」
加奈子さんのお金だからね、どう使おうと勝手だけど。
でもね、限度って言うものがあるのよ。
「無駄遣いでしょ。何着買ったと思ってるの」
「えーっと10着…くらい?」
「それ入れて17着!去年のも着回せるから買ってくるなって言ったのに!」
クローゼットに入りきらなくなるような服の買い方してどうするの!
「ご、ごめんなさーい!」
「そういうわけで、今後冬物並ぶまでに買ってきたから加奈子さんの夕食作らないから」
加奈子さんの嫌いなコンビニ弁当か、外食で凌いでね。
そう言えば、加奈子さんは本格的に泣きだし、私に抱きついてきた。
「うぅ…蓮ちゃんのハンバーグ、エビチリ…チャーハン、オムライスぅ」
そんなに食べたいのか。
私の手料理なんぞ、不味くないだけで美味しくもないと思うんだが。
「食べたかったら買ってこない」
「…我慢します」
でもまぁ、効果覿面だから、よしとしとこう。
「よろしい」
まだ泣いている加奈子さんの頭を少しこそばゆい思いで撫でながら笑った。
蓮の手料理は本人わかってないけどプロ並。
舌肥えてるので味にはうるさい。