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奇々怪界  作者: エヌの人
3/10

第三話 肝試し

学校の昼休み、教室の後ろがやけに騒がしかった。


「昨日の動画、もう一万回いったぞ」


「マジかよ、タカシすげーな」


心霊ユーチューバー。

そう呼ばれている同級生のタカシは、最近、妙に調子に乗っていた。


俺の後ろの席で、タカシはスマホを掲げながら言った。


「次はさ、禁足地。

ガチでヤバいとこ行ってくる」


その言葉を聞いた瞬間、

俺はシャーペンを止めた。


禁足地。

昔から、近づくなと言われている山の奥。

肝試しにはちょうどいいが、

あそこは“怖い”場所じゃない。


隔てられている場所だ。


放課後、境内の掃き掃除をしていると、

アヤメがふわりと現れた。


「ワカ、さっきの話ね」


箒を動かしたまま、俺は黙って続きを待つ。


「あの場所、魂の世界ではね。

神聖な祀り場所なんだよ」


アヤメは、楽しそうでもなく、怖がる様子もなく言った。


「だから現世界とは隔離されてる。

人が簡単に入っちゃいけない場所」


……やっぱりか。


「行くのは、タカシだけか?」


「撮影で一人みたい。

面白半分だね」


俺はため息をついた。


「イズナ」


肩にいた管狐が、ぴょんと跳ねる。


「様子見、頼めるか」


「まかせて!」


イズナはそう言うと、

風みたいに境内の外へ消えた。


肝試し当日の夜。


禁足地の空気は、異様なほど静かだった。

虫の声も、風の音もない。


タカシはカメラを回しながら、奥へ進んでいく。


「いや〜、マジで何もねぇな」


「これじゃ〜再生数稼げね〜よ」


その一歩が、

境界を越えた。


景色が、わずかに歪む。

夜なのに、影が逆に伸びる。


「あれ……?」


その瞬間、

こちら側に戻ろうとする足が、動かなくなった。


気づけば、

周囲に“人の形をした何か”が集まり始めている。


連れて行こうとする魂達。


だが、次の瞬間。


「ダメだよ、そこは違う」


エリカとトウヤが現れ、

魂達を力任せに引き離した。


「帰る場所、間違ってるだろ」


「こっち来んなっての」


魂達は抵抗することなく、

霧のように散っていく。


その時だった。


「おやおや……こんなところで何をしている」


背後から、しわがれた声。


振り向くと、

そこには杖をついた老人が立っていた。


イズナだ。


「若いの。

夜道は危ない。戻りなさい」


タカシは、なぜか素直に頷いた。


「……そうっすね」


そのまま、ふらふらと引き返そうとした瞬間。


空気が、揺れた。


遅れて、俺が駆けつけた。


境界が乱れている。

ここは、もう“肝試し”の場所じゃない。


俺は深く息を吸い、

静かに口を開いた。


カタカムナウタヒを唱える。


音というより神名、周波数、

場に染み込ませるように。


歪んでいた空間が、

ゆっくりと元に戻っていく。


隔ては隔てのまま、

在るべき形に。


やがて、夜の虫の声が戻った。


「……あれ?

俺、何してたんだっけ」


タカシは首をかしげている。


「撮影、やめとけ」


俺はそれだけ言った。


理由は説明しない。


アヤメが、俺の隣で小さく呟いた。


「人が集まるとね。

境界、薄くなるんだよ」


俺は何も答えず、夜空を見上げた。


肝試しは、

怖がるためにあるんじゃない。


越えちゃいけない線を、知るためにある。


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