7. だ、れ、に、しようかな
「何ですって……!?」
手紙を受け取ったフローラの母は、わなわなと拳を震わせた。第二夫人よりも格下であることを証明するようで腹が立ったらしい。問題はそこじゃないというのに。
「せめてドレスくらいは、あの女の娘よりも良いものにしなきゃ!」
今回は期間も熱量もあった分、余計に長く辛い日々だったが、これで最後と思い、フローラは耐えた。別邸なんて閉鎖空間で逆らう方がめんどくさいのだ。ドレスは無事完成し、フローラはホッとした。
当日、本邸の正面玄関ではすでに馬車の準備が整っていた。
「じゃ、行くわよ」
「はい、お姉様」
結局、異母姉は腹を壊していなかったらしく、むしろ肥えていた。フローラは、人間の皮膚の伸縮性は素晴らしいと思った。
娘のお供にフローラがつくことを、第二夫人は喜んでいた。使用人扱いだと考えているらしい。百人が見たら百人が、逆にフローラの引き立て役だと思うだろうに。つくづくおめでたい人である。美的感覚を失っているか、壊れているかの二択だろう。
「ふん! ぐぬぬ……よし。ふぅ」
先に異母姉が乗る。短く太い足は馬車に乗るだけでも一苦労だった。おまけに馬車はメキッと嫌な音を立てた。
「よろしくお願いいたしますね」
対して、上品に手を取り、軽やかにパニエを揺して乗るフローラ。美しき笑みに、御者は安全操縦を心に決めた。
フローラは馬車に乗るのが初めてだった。振動やお尻の痛さ、馬の息遣いなど、何もかも新鮮で面白かった。いびきを掻いて涎を垂らしている豚と同乗じゃなければ、もっとよかった。
ガーデンパーティーは立食形式のもので、軽食やお菓子などが並べられていた。
おそらく大貴族以上……公爵から伯爵までが招待されており、人数も多かった。王女様は侯爵令嬢や伯爵家の上位層とご歓談をしていらっしゃった。王女様は凛として華やかな方だった。
「お誘いのお礼を言いに行かなくちゃ」
「……お姉様、自分よりも上の身分の方に自分から話しかけるのはマナー違反です」
ましてや王族になんて恥知らずめ。ろくな躾もされていない。これでよく伯爵令嬢が名乗れるものだ。
「お姉様、あちらに美味しそうなお菓子が」
「ああ、向こうに美しい殿方が」
「皆様が何かお話をなさっているようですよ」
それからも大変だった。フローラはとにかく誘導した。異母姉は案の定誰からも話かけられない。鼻をほじろうとすればお菓子で釣り、くちゃくちゃと豚のように食えば取り上げて美男を、美男に向かいそうになれば噂話を聞いてくるように。
同じ家の人間な分、影響は自分にも及んでしまう。それだけは避けたかった。
「……ちょっとトイレ行ってくる」
「お花を摘みに行かれるのですね。どうぞごゆっくり」
十中八九、食べ過ぎである。
会場が王城なだけあって、案内役もいたことが幸いだろうか。フローラはやっと解放された。まさかここまで手がかかるとは思っていなかった。今までのお茶会などをどうやり過ごしてきたのか興味すら湧いた。が、時間の無駄だと思い直した。
せっかくの王女様主催だ。大抵の人間は接触したくて画策するだろうが、フローラには必要ない。
「あなた、初めて見る顔ね」
なぜなら、王女様の方からやってくるとわかっていたから。豚と妖精の組み合わせなんて目立つに決まっている。
「王女殿下にご挨拶申し上げます。スペンサー伯爵の娘、フローラでございます」
接触した上で王女様を味方につける、ということはかなり強い手になり得る。だから皆そうしたくて堪らない。でもフローラにはいらない。目立つことはしたくないのだ。
……それに、今日の目的はそこではない。
「そう、パーティーを楽しんでちょうだい」
さすがは王家、これ以上の長話はしたくないというオーラを感じ取ってくれた。一見すれば不敬にも見えるが、強かな者同士通じるところがあった。
「はい、誠に光栄に存じます」
そうして王女様の背を見送った後、フローラは目をつけていた男性の方へと向かった。




