60. 結婚式とは一体
結局、式は冬となってしまった。天候が不安だったが、その日は珍しく快晴で、積もった雪がキラキラと反射していた。
教会のステンドグラスの光がゆらめく。フローラは奥方にエスコートされ、バージンロードの上で白いドレスがふわりと舞った。
白いベールを被ったフローラはアーサーの手を取り、奥方は席へ戻ってゆく。
「アーサー・フロスト、フローラ。お二人は自らすすんで、この結婚を望んでいますか」
年老いた神父が尋ねた。アーサーとフローラは顔を見合わせ、そして答える。
「「はい、望んでいます」」
「結婚生活を送るにあたり、互いに愛し合い、尊敬する決意を持っていますか」
「「はい、持っています」」
フローラのいじめもまた、愛である。多分。いや、アーサーはある意味喜んでいるから、やはり愛なのだろう。
「あなた方は恵まれる子どもを、まことの幸せに導くように育てますか」
「「……はい、育てます」」
子供という言葉を聞いて、アーサーはフローラに似た娘を思い浮かべて恐怖し、フローラは共に悪趣味を楽しむ図を考えた。おかげで少し返事が遅れた。
「それでは、冬の精霊王と春の女神、私たち一同の前で結婚の誓約を交わしてください」
「新郎アーサー・フロスト。 貴方はここにいるフローラを、悲しみ深い時も喜びに充ちた時も共に過ごし 愛をもって互いに支えあうことを誓いますか?」
「誓います」
「新婦フローラ。貴女もまたここにいるアーサーを、悲しみ深い時も 喜びに充ちた時も共に過ごし 愛をもって互いに支えあうことを誓いますか?」
「誓います」
「では、指輪を……」
その瞬間、アーサーはプロポーズと勘違いして片膝を突き、フローラは間髪入れずに立たせた。そして客席に向かってニコリと笑った。旦那様が少々浮かれすぎているようで、といった具合だ。奥方は手で口元を隠し、前当主は頭を抱えた。ジョシュアは大笑いするのを必死に我慢した。
「どうぞ」
「っ!!!」
あまりの恥ずかしさにカチンコチンになってしまったアーサーだったが、どうにかしてフローラの細い指に輪を通す。対してフローラは嫋やかに、ごく自然に、太くて大きすぎるアーサーの指に輪を通し返した。
アーサーは、フローラのベールを上げる。フローラの美しい瞳に魅入られて、アーサーはまた固まった。
そこでワッと歓声が上がり、ざわめき出す。まだベールを上げただけなのにどういうことなのかとフローラが考えていると客席から、
「うーん、苦いな」
「そうですね、とても苦いです」
「え、苦いってどういう……苦い!!苦い!!!」
という言葉が聞こえてきた。そこでフローラは祭りについて調べていた時に見かけた、結婚式のある流れを思い出す。
苦い時は、どういうものが欲しくなるのか。
「……赤くならないでくださいよ。あなたの領地の風習でしょう?」
「い、いや、そうなんだが……って知って、ちょ」
フローラはアーサーのタイを引っ張り、無理やり口付けた。アーサーはみっともなくもわたわたと手を上げたり下げたりしたが、しばらくすると観念し、フローラの後頭部に手を添えた。
「さすがに甘すぎるだろ」
「……百二十、うん、二分経過しましたね!」
「あの、カウントしないでくれます? っ!」
従者どもがワイワイ話しているが、フローラはキスの時に目を閉じない。チラリと視線を寄越し、黙らせた。アーサーは目を瞑っている上に無我夢中で何も気づいていない。
「……っ腰、抜かさないでくださいよ?」
「すまない、もう抜かしているかもしれない」
やっと唇が離れ、アーサーは息を吸う。顔は真っ赤になっていて、鼻で呼吸もできない下手くそだとバレバレだ。なんなら少し涙ぐんでいる。
……フローラはふわりと柔らかい笑みを浮かべて、アーサーに尋ねる。
「この後は街を回るのでしたよね。その顔で自慢して、牽制されるのですか?」
「……勘弁してくれ」
可哀想なアーサー。爆散よりタチが悪い。これでは公開処刑だ。
……やっぱり、フローラは優しくない。




