6. ゴミはゴミ箱に
「なぜここにいる」
ここまでの道中で、フローラは作戦を変更した。
……当初考えていたものでは、ただ迷っただけだった。別邸で暮らすフローラが本邸で迷うことはおかしくない。別邸の書庫にあった間取り図の存在とフローラの頭脳など、誰も知らないのだから。
だが、第二夫人が失態を犯した今、最善手は変わる。
「イヴリン様のお茶会にご招待いただきました……が、紅茶に少し変な味がしましてお花を摘みに。お姉様も同じようになってはいけないと思い、医務室を探しておりました」
イヴリン様、というのは第二夫人の名前である。普段は覚えていなくとも、使いたい時にはスッと出てくるのがフローラの記憶力だ。
柔らかに、心配しているように、そして何より有能であるように。眉を下げ、しかし相手の目を見て、背筋は伸ばすが肩は下げる。
「ほぉ……」
今までのフローラは、伯爵の前ではか弱い令嬢として立ち振る舞ってきた。令嬢としての基礎は何の申し分もないのに、淡く脆い雰囲気を出していた。
そのフローラが、姉を気遣い、立て、行動している。
伯爵は単純に成長したのだと考えた。馬鹿め。フローラの策略通りに使いづらいと判断し、あまり接していなかったからだ。……婚約者なんぞ見つけてこられたら困るから、繊細風を装っていただけである。
「やはり、メイドに聞いてみることにします。では、失礼致します」
フローラは、最初の感嘆のため息だけで、ガーデンパーティーの同伴を確信した。
王女といえど、子供が開く茶会に大人が堂々と混ざるのは難しい。その上、あのハナクソはもう十三だ。大人が表立ってフォローすることは難しい。このままでは伯爵家の品位を落とすことになるのだ。金と権力が世界で一番大事な伯爵が、この考えに至らないはずもない。
「……ああ」
フローラは美しくその場を去った。もちろん、医務室になんて行かないが。もし誤って雑巾の搾り汁を飲んでいたのだとしても、それは間抜けな母豚を恨め、という話だ。腹が痛くでもなった方が、あの見るに耐えない贅肉が落ちるんじゃないだろうか。
「さて」
これで、異母姉の婚約者候補たちか、それ以上の者を落とせば、フローラの完封だ。異母姉は利用価値の低い存在として成り下がる。
唯一の懸念としては、狙ってない者から惚れられる、また変態を避けることだろうか。美しすぎるがゆえに、使用人が変質者に変貌したことも少なくなかった。母がフライパンで殴るか、フローラが夜中に掘った実験用落とし穴に落ちていたが。
「……ふふ」
どう転んでも、あの品位の欠片もない親子は、自分たちの代わりに別邸に住むことになるだろう。
ゴミをそこら辺に置いておくから不快になるのだ。ゴミはゴミ箱に捨てなさい、この言葉は正しい。
「ただいま戻りました」
フローラはまたニコリと笑って茶会の席に座る。着飾った豚と勝利に酔いしれている母は、今後の事など何も知らない。
「あら、この指輪なんてどれだけのゴールドを使ったか……」
「どこの意匠の物でしょうか。確かあの店はもう後継者がいないはずですが」
雑音を聞き流し、考えるのは婚約者候補たちのこと。立場を奪うことに抵抗などない。なぜなら、彼女に良心やら罪悪感なんてものはないから。
フローラは人形の仮面の下で、ほくそ笑む。新しい知識との出会いはすぐそこだ。
そして数日後、異母姉の出席するガーデンパーティーに同伴するようお達しが来た。




