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【完結】ほんわか令嬢、優しくはない  作者: 秋色mai @コミカライズ企画進行中


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57. 味方にしておきたかった


 ワルツの旋律が会場に響く。体格差に少し困りながらも、二人はファーストダンスを無事に終えた。

 アーサーにエスコートされ、フローラは会場を闊歩する。


「フローラ様、お元気だったかしら!?」

「ええ、オリヴィア様。贈ったインクペンはいかがでしたか?」

「凄く便利なようで、旦那様が追加で注文したいみたいなの。紹介するわ。この方が旦那様の……」

「お初にお目にかかります、フローラ・フロストと申しますわ」


 ある令嬢は親しく会話をし、隣の旦那様を紹介する。


「やぁ、フローラ嬢……いや、フロスト夫人と呼ばなくてはなりませんね」

「そんな畏まらないでください、カーター先生。ご結婚なさってもう二年でしょうか……奥様もお元気そうで何よりです」

「フローラ嬢のおかげだよ。この間のインクペン、あれもとても良かった。しかしもうインクがなくなってしまってね……」


 ある貴族の男は、フローラに感謝の意を示し、継続的な購入の話を進める。


 全てフローラの計画通りだった。

 当初ジェイダンはインクを詰め替えられるものを開発していたが、それをフローラが止めた。半永久的に使えてしまうものは金にならない。普及すれば類似品も出回るようになる。その時にこそ、インクを補充できるタイプを売り出し、同時に新作も発表するのだ。


 噂を聞きつけた学生時代に誑し込んだ者たちが集まり始め、フローラは囲まれる。そこには侯爵令嬢までもやってきた。例え次期王妃を降りたところで、侯爵令嬢のお墨付きというのは、今後の流行となりうる。人々は競うようにフロスト領の製品を買おうとした。

 誰も、フローラを止められる者はいなかった。


「おお、フローラじゃないか!」


 ……それを邪魔をしたのはフローラの父、伯爵だった。勘の鋭い第一夫人は離れたところからこちらを静観している。どうしようもないくせに、相変わらず金の匂いにだけは敏感だ。去り際のことは忘れたか、いまだにフローラが従順な娘だと思い込み、自分の言いなりにできると思い込んでいる。

 こうなる予想はできていた。あしらうのも容易い。しかしフローラは約束したのだ。アーサーのやることに、手出しはしないと。


「スペンサー伯爵か、ちょうどよかった。話がある」

「こ、これはこれは……フロスト辺境伯」


 横に立っていたアーサーが振り向き、氷のような瞳が伯爵を捉える。これぞ、蛇に睨まれた蛙だろう。


「後で正式な書面で送るが……伯爵が我が妻を虐げていたことを、俺は許せない。よって、フローラにはスペンサー家から抜けてもらう」

「は?」


 突然の出来事に、集まっていた人々がざわめいた。アーサーは用意していた証拠の一部を、大衆の前で明かす道を選んだ。フローラはその目論見に気づき、アーサーの袖を掴んで儚く俯く。父と過去に怯え、震えて涙を堪えるか弱い令嬢のように。


「……とぼける気か? フローラの背には、足には、身体中に傷がある。伯爵とその妻……フローラの母が折檻した跡だ」


 フローラは内心では着替えですら見られないくせに、と突っ込みを入れていた。その指摘している傷は、服の上からは絶対に見えない位置だ。おそらくドリスが報告したのだろうが。


「なっ、折檻など……」

「親子共々雨風凌げぬ別邸に住まわせ、果てには三日三晩も飲まず食わずで屋根裏部屋に閉じ込めたことは、折檻ではないと言うのか?」


 折檻どころではない。フローラは精神的に逞しかったためなんともなかったが、普通は死ぬ。

 アーサーが言葉を発するたび、人だかりは増え、伯爵は青ざめていった。


「申し開きもないだろう。続きは書面で。今宵はここで失礼する」


 とうとう伯爵は腰を抜かして床に座り込む。アーサーは冷たい眼差しで見下ろし、守るようにフローラの腰を掴んだ。


「……嫌な話を聞かせてしまいました。私は大丈夫です。アーサー様が優しくて、私は今幸せですから」


 絶句する人々に対し、フローラは控えめに微笑み、ただそう言い残して会場を去った。

 これ以降、フロスト領への嘲笑は完全に止むだろう。


「馬車が迎えに来るまで時間がかかるな」

「……中庭ででも待っていましょうか」


 二人で渡り廊下を歩いていると、目の前に人影があった。


「随分と面白い余興をしてくれたね、フローラ嬢」

「王女殿下のお目に留まり、光栄に存じます。少しでも殿下のご歓心を得られましたなら、辺境の地より参じた甲斐がございます」


 フローラは不敵に笑う。王女殿下は降参するように両手を上げた。


「まったく。共通の敵がいれば楽だからと放置していたのに……。だから君は味方にしておきたかったんだ」


 アーサーの眼光が鋭くなるが、フローラがそれを制する。フローラは逃げずに、王女殿下と視線を交わすだけ。


「そのようなもの、女王陛下のご治世では必要ないでしょう」

「……ああ、それもそうだな」


 フローラはわざと間違えた。女王陛下は会場へ戻る。勝手に荒らしてしまったが、元々は彼女の舞台だ。

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  ↓次に読むのがなければ是非! 普段はこういうグルメコメディを書いています
【コミカライズ進行中】魔王城の絶品社食、作っているのは生贄です!
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