55. 再会と解釈違い
「……それ、どこへ片付けるつもりなの?」
フローラはニコリと笑って、エマが手に持つゴミを指す。道ゆく人々は、誰もが言葉のままの意味に思うだろう。
「大丈夫ですよ、死んでませんから! ちょっと気絶してもらっただけです!」
「……まぁ、人が倒れていたのね」
エマが慌ててそう伝えると、フローラはさも今気づいたかのように口元に手を当てて驚いた。ほんわかと、おっとりと。実際は恐ろしく。
つまりさっきの片付け云々は、事件を起こしておいて巻き込んだら承知しない。手伝ってあげるから片付けるわよ、という意味だった。再会早々物騒なものである。
「さっきまで串焼き食べてたんですけど、そしたら財布の中身が見えちゃったみたいで襲われて……」
あははと笑うエマに、フローラは目線だけで呆れを示した。人の良いアーサーはそんなことに気づかず、荒くれ者を縛り上げて、衛兵に渡しに行く。
「……あの方が、例の冷血伯です? フローラ様は酷いですよ、何も教えてくれなくて!」
アーサーの背中が小さくなったところで、エマがこっそり尋ねる。冷血伯というには語弊があるが、異名としては合っている。
「そうよ。貴女の兄の雇用主に当たるわね」
「媚びとか売っといた方がいいんですかね?」
「手紙にも書いた通り、爆発させた数が多過ぎて今更だと思うわ」
と、フローラは爆発した施設を思い浮かべる。ドリスが迷わず瓦礫の中から引き上げたのは記憶に残ることだ。なんでも爆発するたびに一瞬で計算して、その場で一番安全な場所に移動するらしい。なぜそれができて爆発はさせるのか。しょうがない、エマの兄だ。エマは不服そうにするだろうが。
「……ドリス、紹介するわ。ジェイダンの妹君のエマよ」
「はじめまして! いつも兄がお世話になっております! ……本当に、いや、ほんと、お世話になっております」
「お初にお目にかかります。その……お疲れ様です」
エマは徐々に元気をなくし、身内への恥と憂鬱が滲み出る。あのドリスでさえ同情している。
……ジェイダンは一体どれだけ煩わしいのだろうか。転がすために何度か代わりに手紙を送ってやり、エマからの返信を渡していたが、中身に興味がなかったため、フローラは全く想像もつかなかった。
「それで、なぜ王都にいるの? 研究は?」
「あ、それはですね! 一応もう検証の段階に入ってるんです。気球っていう大きなバルーン船なんですけど、うまく運用すれば遊覧用だけでなく戦の時に上から火薬を落としたりなど……」
「なんとなくわかったわ。楽しそうで何よりよ」
エマの語りに熱が入りそうだったため、一旦ストップをかけるフローラ。気になりはするが、書面で説明させた方がよっぽどわかりやすい。ここまで話しているということは、もう秘匿すべきことではないのだろうが、王都で話すことでもないだろう。
「はい! ただ……今回は隣国の第三王子殿下と王女殿下の婚姻ですから、出ないわけにもいかなくてですね」
どちらにいても上司の結婚だから、仕方なく戻ってきたと。終わったらすぐに帰るのだと。勤め人は大変である。ただ、エマのような人間が数日間も何もしないわけがない。フローラは表面上同情し、微笑む。
「お土産があるから、持ってくるわね」
解析して欲しい呪物があるから持ってくる、ということだ。エマはそれをしっかり理解した。そこで衛兵に引き渡してきたアーサーが帰ってくる。宿屋前の噴水には、エマとアーサーだけが残った。エマは独り言のように呟く。
「……理性はあるのに、倫理観はない。でも理性に従っているから、悪ではない。それがフローラ様の面白いところなんですよ」
今頃呪物を漁っているであろうフローラの姿を想像し、エマは笑った。
「それは彼女の強さで、弱さだ」
少し考えていたアーサーは静かにそう返す。アーサーはフローラのほんわかに振り回されながらも、そこだけが好きなわけではない。
「意見が合いませんね、私たち」
「今のスペンサー家がどうなってるか、知ってます?」




