5. 関わるに値するかどうか
お茶会は中庭のガゼボに用意されていた。初夏らしい日差しの下に涼しい風がそよぎ、薔薇が咲き乱れていた。
……その美しい風景の中で、悪目立ちしている二人の親子の姿があった。
「本日はお招きいただきありがとうございます」
「こちらこそ、来てくれて嬉しいわぁ!」
二人の女の間に火花が散る。
第二夫人は大粒のルビーのイヤリングを見せつけるように髪を結い上げ、高級な布をふんだんに使ったドレスを着ていた。異母姉もまた同じであり、若い分より派手だった。
フローラの頭に、豚に真珠という言葉がよぎる。
「さ、あなた達も座ってちょうだい」
当の本人達は、椅子から尻の肉がはみ出ていた。これは果たして、座っていると言えるのだろうか。第二夫人達はまさに豚だった。
「ええ、失礼します」
母に続いて、フローラも座る。相変わらず見るに耐えない親子だと、フローラは異母姉の額のニキビを数えていた。本当は目を見ていなくてもバレない工夫である。
「ねぇ、何か気づくことはないかしらぁん!」
酷く下品な言動だ。が、ここで気づいていないフリをすれば、第二夫人は一般庶民には宝石の輝きがわからないと馬鹿にする。それに、フローラの母には元高級娼婦のプライドがあった。
「……宝石を新調されたのですね。とても、よく似合っていますよ」
ここでフローラがすべきことは、その宝石が偽物だと指摘することでなく、人形のように大人しく、黙って背筋を伸ばしてドレスを強調することだ。例え聞くに耐えないほど低レベルな戦いだったとしても、子供は介入してはいけない。
「っええ!! そうなのよ!! すごく高かったのぉ」
第二夫人はフローラをチラリと見て、露骨に顔を顰めた。もちろんすぐに自慢に戻したが、この時点で母はしてやったりだろう。
フローラは自分の役割が無事終わり、伯爵との接触のタイミングを考えていた。対して、異母姉はつまらなそうに鼻をほじっていた。十三にもなって婚約者が見つからない訳が集約されている。
「紅茶はいかが? 最高品質のダージリンよ……と言ってもいつも飲んでいるものだけれど!」
「ありがたくいただきます」
母が飲み、第二夫人がほくそ笑んだのを見て、フローラはカップの縁に口をつけた。そして、全員の視線がズレた瞬間に捨てた。匂いを嗅ぐ必要すらない。おそらく、雑巾の搾り汁でも入っていた。
「……ダージリンのファーストフラッシュ、それも芽が多い最高品質にしては、花の香りがしませんね。お茶を淹れるメイドを変えた方がいいかもしれません」
フローラの母は口を弓形に歪ませ、第二夫人は引き攣らせる。
今日はフローラの母の勝ちだろう。第二夫人は、素直に宝石自慢のみにしておくべきだった。わかっていながら紅茶を飲んだように、売られた喧嘩を買い、娘に対して暴力を振るう母だったが、頭は悪くなかった。
「……お母様、少々お花を摘みに行って参ります」
フローラにとっては渡りに船、抜け出すには絶好のタイミングだった。
「ママ、私もトイレ」
「っブリアナちゃんは黙ってなさい!」
第二夫人の金切り声は、フローラの母の機嫌を更に良くした。
「ええ、早く戻ってくるのよ」
滅多に見れない穏やかな笑顔付きだ。
文字通りの茶番に辟易としながら、フローラは美しく席を立った。
「……馬鹿な人たち」
確かに母の頭は悪くない。が、フローラだったらあんな不味い紅茶を飲まない。なるべく関わりを避け、焦って失態を起こすよう誘導する。家畜以下の相手などしない。
フローラは意図的に辺りを見回しながら、物干場まで真っ直ぐ歩く。メイドの言う通り、伯爵は鼻かみナプキンを取り込んでいた。
「っお父様……本日もご健勝でいらっしゃいますことを心よりお祈り申し上げます」
頭、指先、足元すべての角度を完璧に。最初の言葉を詰まらせ、偶然であることを示しながらも、声色は落ち着かせ、しかし余韻に好意を滲ませる。
「少々迷ってしまったようです。ここは……物干場でしょうか」
伯爵が目の色を変えたことに、フローラは気づいていた。ここからが、始まりだ。




