42. 爆発魔とは一体
ドリスと共に爆発した施設に向かうと、そこは瓦礫の山だった。火は出ていないが、被害は甚大。しかし負傷者が見つからない。フローラが密かに呆気に取られていると、ドリスは大きなため息を吐いた。
「……また派手にやりましたね。あなたの給料から引きますから」
「あいてて……おお、この声はドリス君! 済まないが、ボクのこと引き上げてくれないかい?」
「はぁ……」
瓦礫の中から元気そうな声が聞こえる。ドリスは瓦礫の中を迷わず歩き、いくつかを持ち上げてどかし、飛び出ていた手を引っ張り上げる。
「もうちょい丁寧にやってよぉ……」
「貴方に慈悲は無用です」
ドリスと変わらない長身がぶら下がっている。白衣はところどころ焦げて穴が空いていた。文字通りの焦茶色の髪が少しボフっとしているのは爆発のせいだろう。
ドリスがパッと手を離すと、瓦礫の中に転がっていった。メガネが割れる。酷いなどと言いながらも慣れたように立ち上がり、こちらへやってきた。
「だってさー、なんかいけそうな気がしたんだよねぇー。多分あの成分がダメだったんだな。でも爆発したってことは勘が合ってたってことにも……」
「……ええと、その、大丈夫ですか?」
フローラに気づかず、虚空を見ながらブツブツと呟いている焦げ白衣。一応戸惑った風に話しかけると、焦げ白衣は緑色の目をぐるりと回し、変な間が空く。
「ああ、気づかなくてすみません!! これはこれは、アーサー・フロスト辺境伯の奥方、フローラ様! スペンサー家の次女で、妹のご友人ですよね。初めまして!」
その瞬間、フローラの脳に「血筋」という言葉が大きく浮かんだ。次に来る言葉を、フローラは知っている。
「あ、申し遅れました。ボクはアルバーン男爵家のジェイダンと申します!」
エマが言っていた、第一実験室を爆発させ、辺境伯領に飛ばされたアルバーン家の次男だ。フローラは懐かしさを感じつつも、彼の利用価値を確認する。
「あ、大丈夫ですよ! 高い器材は別のとこに移動させてますし、他に研究員いませんし……建物はちょっとまた建て直してもらわないとなんですけど! もうそろそろボクの特許収入が入ってくるはずで……」
……よくわかった。とても有能だが扱い注意な代物だ。また、エマ同様に取り繕わなくても良い存在らしい。友の兄を処分することにならずに済んで、フローラは少し安心した。
「えっとですねー。今は新しい暖房機器と新兵器を作ってまして、たとえばこの形だと砲弾の飛躍距離が今の数倍に……って、あ、設計図も燃えたんでした!」
これをうまく制御できれば、国に掛け合うのではなく、領内で軍備費を賄えるかもしれない。低予算で新兵器を生み出させるのではなく、金になる物を作らせる。領民や辺境貴族にはわからないだろうが、中央貴族たちの需要を、フローラは知っている。それで得た予算で、より良い物を作らせればいい。
しかし問題はこの馬鹿と天才の紙一重をどう扱うかなのだが……。
「それより、妹からの手紙とかに兄ちゃん大好きとか書いてませんでした? もうずっと連絡とかなくて、エマ不足なんですよ。ボクから手紙送っても全く音沙汰なしで! あいつ元気でやってますかね??」
ジェイダンが目を輝かせる。ドリスは呆れたように額に手を当てた。フローラはシスコンという少しおかしな人種に初めて会った。
「書いてないわ。というより、文通すらしていないの」
貴族社会において、女性の友達付き合いでは文通は当たり前のことだが、フローラとエマの間柄でそれはない。一応宛先は知っているが、どうしても知見を得たい時にペンを取る程度だ。おそらく、婚約が破棄され、辺境伯に嫁いだことも知らないだろう。
伝えたらどんな反応をするだろうか。フローラの予想では、まずは頭の足らない婚約者に対してドン引きし、兄の言動に嫌そうな顔を浮かべるだろう。
何はともあれ、フローラは何を使ってどう転がすべきなのかを理解した。
「あいつ友達なんてフローラ様しかいないのに……? 一体誰にボクのことを話してるんだ?」
「多分誰にも話していないのでしょうね」
ジェイダンはショックで灰になった。ドリスがどこからともなく塵取りを持ってきて、そのまま焼却炉に捨てようとする。それをフローラが止めた。
「ねぇ、エマからの手紙が欲しいかしら?」
ジェイダンはもげそうなほどに首を縦に振った。フローラは中央貴族たちの財布を思い浮かべ、ニコリと笑った。




