26. 収束したと思っていた
「第一王子アレックス、前へ」
王太子殿下と侯爵令嬢はいつの間にかダンスホールへ降りてきていたようだった。国王陛下は玉座の前に立ち、それに向かい合う形で、王太子殿下は前へ出る。
「其方、何をしでかしたかわかっておるか」
陛下の威圧が会場を震わせる。低く、そして響く声は、恐ろしいほどに落ち着いていた。今断罪されているのは王太子のはずなのに、会場の皆にそう問いかけているようだった。
「王家と侯爵家が結んだ婚約を反故にし、皆を混乱させた罪、見過ごすわけにはいかない。王家の責任というものを、其方は軽く見すぎた」
王太子は俯き、国王陛下はわずかに顔を顰める。貴族たちも皆、自らの振る舞いを反省した。
緊張した雰囲気の中、王女殿下は国王陛下の肩に手を置き、首を振る。お辛いでしょう、あとは私が引き受けます、というように。父を憂う心優しい王女様のように。
「アレックス。あなたに、王位継承権の降格を言い渡します」
「……」
「これは、父王様との合意の上です」
王太子は顔色を変えなかった……が常に表情を管理しているフローラにはわかる。あれは喜んでいる。
王位継承権を剥奪したとして、王族の血には変わりない。つまり公爵の座に就くこととなるだろう。王太子殿下は、王座に興味がなかったのだ。この分だと邪魔だとすら思っていたのだろう。この姉弟、どちらが強かなのかわからないが、目的のためには周りのことなど考えないところがよく似ている。
場違いにも関わらず、フローラは地を這うようなため息をつきたくなった。
「また婚約についてですが、イザベラ……」
「お待ちくださいまし!」
侯爵令嬢は声を上げ、殿下の元へ駆け寄る。王を見上げ、意志の強い声で宣言した。
「私は、どのようなことがあろうと、殿下と添い遂げますわ」
何を見せつけられているのだろう。計画通り、という顔をするな王太子。誰にも分からずとも、フローラにはわかる。
侯爵令嬢も侯爵令嬢だ。あれだけ踊らされておいて、まだ王太子殿下のことが好きなのか。いや、仲直りか何かで踊っていたから、上にいたはずが既にダンスホールにいたのかもしれない。
「王太子であろうが、庶民であろうが、私はこの人の婚約者ですから!」
大衆はどよめき、王家は皆遠い目をした。侯爵と夫人なんて頭を抱えている。当たり前だ。政略に関しては全く益とならないというのに。
恋とは盲目である。フローラは氷砂糖を吐き出しそうになった。
「……イザベラ嬢、其方もまた、次期国王の婚約者として相応しくなかったのは確かだ。よって婚約は破棄せぬ。アレックスと共に反省せよ」
国王陛下は、チラリと侯爵を見た後、冷めた声でそう宣告した。これはめんどくさくなって、一緒に片付けようという魂胆だ。侯爵と国王は乳兄弟というのは有名な話で、後で一緒に呑んだりするのだろう。愚息と馬鹿娘について話しながら。
「また同時に、隣国の第三王子と我が国の第一王女の婚姻を発表する」
王女殿下は微笑んだ。隣国の第三王子といえば、我が国に遊学していたこともあり、その賢さは有名だった。優しい人柄は知れ渡っており、民からの人気は高い。これは、王女殿下を本格的に次期国王に据えたということだ。
「諸卿、今宵の舞踏会の華やぎに身を任せてくれ」
国王陛下はそう言い残し、退場。その場は王女殿下に任された。音楽は再開され、誰もが踊り始める。フローラが隣を見ると、ウィリアムはいなかった。おそらく年上未亡人を探しに行ったのだろう。ファーストダンスが終わったからといって、婚約者を置いて行くとは一体……。
フローラは、この喧騒が落ち着くことに安堵しつつ、これからは王女殿下のスカウトを避け続ける日々が始まることに辟易とした。
この断罪の余波が、自分にも大きく関係してくるだなんて、思わなかった。




