19. 帰属意識の例外たち
入学式で、エマは新入生代表として呼ばれ、生徒会長の王女様に祝福の言葉を賜っていた。周りからは「今年はアルバーン家がいたか」「イザベラ様はお気の毒だな」などと囁かれていたが、いじめには発展しないだろう。侯爵家なんて、アルバーン家の頭脳に支えられている自覚が一番あるはずだ。
「長かったですねー。全く無意味な時間でした!」
「帰属意識のため……統治する側としては必要なのでしょう。貴女は例外のようだけれど」
「あー……そっか、行事ぃ」
「お祭りと一緒ね」
当の目立つ機会を奪った本人は、こんな調子なものだから、侯爵令嬢が責めたところですぐに代表の座を譲っただろう。それもまたプライドが傷つくってやつだ。
「あ、お昼どうします?」
「そうね……」
まあ入学式も無事終わり、二人は中庭でランチを食べる。初日なんて混む日に、カフェテリアに行くのはやめた。エマは元よりそのつもりで持ってきた謎に長いフランスパンサンドイッチを頬張り、フローラは非常食の甘いジャムクッキーをつまむ。
「それで、貴女はどうして黒魔術全集なんて本を持っているの?」
「一見全く別のジャンルに見えて、実は繋がりあるんですよ!」
フローラがつっこむと、エマは待ってましたというように語り始めた。
こんな調子だが、エマは見た目は地味だし、フローラはほんわかに擬態しているため、周りからしたら地味目な子達、でいられていた。しかし話す内容が全く地味じゃない。
「たとえば魔女は箒ではなく、体に謎の軟膏を塗り込んでいたとあり、その軟膏のレシピがいくつかあるんですけど……」
「昔何かの本で読んだわ。幻覚を見せる薬草などが含まれているのでしょう?」
それは別邸にあった、魔女審判の記録をまとめた本だった。人の心理などがよく知れて、とても興味深かった覚えがある。フローラのご先祖は乱読家だった。
「はい! つまりですね、魔女は薬でトんで、箒で飛んだ気になってたってことです」
ジョークのような言い回しになったからか、エマは自分で言って自分で笑う。フローラはその姿にちょっと怖くなり、こいつこそが魔女だ、と思った。どっちも魔女である。
フローラは少し考えて、エマに見解を聞いてみることにした。
「貴女は、呪いを信じる?」
黒魔術などは関係しているかも知れないが、呪いなど非現実的で理由のわからないものもある。理由がわからないからこそ、フローラは悪趣味に魅入られている。しかし、エマは少し違う感じがするのだ。
「え、いや! 呪いを起こした原因を信じますね!」
「……というと?」
「ほら、呪いのドレスとかあるじゃないですか!」
エマはあっけらかんと答えた。
呪いのドレス……一世紀以上前に流行った鮮やかな緑色の、着るものの命を奪ったドレス。その原因は、ヒ素を含んだ猛毒であり、呪いなんてものではなかった。
確かに、呪いなんて言われても、後から科学的根拠が発見される事例はいくらでもある。フローラは割と納得した。
「そうね。貴女はつまり、非科学的なものから科学を探す遊びをしているのね」
「そゆことです!」
そこで予鈴が鳴り、エマとフローラは次の授業へ向かう。基本的に今日は説明しかないが、その時点で授業内容がつまらないことはわかっていた。
「じゃあ、明日ビスクドールを持ってくるわ」
「それって指先とか壊してより詳しく解析しても……」
「ダメよ。価値が下がるでしょう?」
「デスヨネー」
侯爵令嬢といえど、同い年の子供をいなすのはとても簡単だった。エマと話すのはそこそこ楽しく、特に学園の図書館が使い放題なのがいい。フローラは学園生活が割と気に入った。
「どうだったの!! 学園は!!」
帰るなり、母に鬼気迫る形相で肩を掴まれる。純粋無垢な笑顔を保ちつつ、フローラは少し憂鬱な気分になった。




