13. 運命の出会い
布を剥ぐ。
そこに現れたのは赤や黒などの色が使われた個性的な……人が見てあまり良い感情になれない絵画だった。こんな夜更けの暗い屋根裏部屋、それも一人で見たら泣いて逃げ出してしまうような物だった。
「まぁ……」
フローラはそれを見て驚いた。
「私の描いた絵とそっくりだわ!」
……確かに、猟奇的な部分ではよく似ていた。フローラの場合、リンゴを描くお題だったはずだが。これはどう見ても巨人が人を食べている絵だ。そっくりだと思ってはいけない。
フローラの瞳に、どこか怪しい光が宿った。輝いているはずなのに、輝いているとは形容し難いものだった。
フローラはさまざまな物を漁った。
五感とは別の感覚が働き、次々と顕わになるモノ達は、禍々しいオーラを放っていた。
「これは……」
もう酸化してドス黒くなった血がべっとりと付着したアンティークの椅子。
おそらく足を持ち、背もたれで人の頭部を殴ったのだろうと、フローラは想像した。一昔前にこの国で有名だった意匠があしらわれており、かなり高価なもの。すなわち貴族……それも伯爵家が凶器にしたとは考えにくい。
「百二十四年前に農民が屋敷内で起こした暴動の時のものかしら!」
脳内資料から、フローラはそう断定した。
つまりここに付着している血はご先祖様のものであり、そこそこ気分が悪くなるものだ。自分もそうなってもおかしくない事。上に立つ代償。
「面白いわ!」
……フローラに倫理観なんてものはなかった。
納得したのか、次のモノを見に行く。
何度も使われ、手を挟んでいたであろうところが黒くなっているストック……木製の拘束器具に、指を金属製の器具で締める親指締めなどが乱雑に詰められた箱があった。
「こっちは地下牢で使われていた拷問道具かしら!」
綺麗なハンカチを取り出し、慎重に持って隅々を観察するフローラ。屋根裏部屋よりもフローラの方がよっぽど恐ろしい。
「うふふ、これらは中世に使われていたものね。となると第何代当主様のもので、誰に使ったのかしら……」
他にも厳重に仕舞われた謎の人形や、どこか遠くの国の部族の仮面など、様々な物を見つけて観察し考察していると、すっかり夜は明けていた。
これらの物をフローラは知識で知ってはいた。知っていたが、知識と実物は別だった。フローラが実験や実体験が好きな理由はここにある。
「楽しいっ!」
しかし、これらは別格だった。いつかの人の恐怖や叫びを閉じ込め、今もなおその効力を発揮する得体の知れないもの。どれだけ調べてもわからないもの。
興奮と知的探究心の融合した素晴らしいものだった。
「素敵だわ!」
窓から差す朝日を浴びて、フローラの亜麻色の髪が輝く。
フローラにとっての運命的な出会い。悪趣味に目覚めた瞬間だった。
「もうここに住みたい!」
結局、伯爵は閉じ込めたことを忘れ、フローラはお昼過ぎまで屋根裏部屋で過ごすことになった。その間フローラがやっていたことといえば、掃除と片付けだった。途中で工具を見つけたことにより、補修作業まで始まった。居心地のいいセカンドハウス……この場合は部屋にする気満々だった。
「こ、怖かったわ……ご、ごめんなさいお父様」
ドアが開いた瞬間に、フローラはいつもの皮を被り泣いた……が、これが嬉し泣きだと誰が思うだろう。
フローラの直近の目標は、ここによく訪れる口実を作ることだった。そのために、あのガヴァネスをせいぜい利用させてもらうことにした。
醜い嫉妬からフローラを不当に傷つけたのはガヴァネスの方だ……多少酷い目に遭うのは致し方ないだろう。




