1. フローラという少女
※少々グロい絵面があります。描写はありません。作者が嫌いなので、皆様もモザイクで想像してください。
伯爵令嬢のフローラは、いつもほんわかしていた。
華奢で小さな体は、白いフリルがよく似合っていた。亜麻色の髪は柔らかに、ピンククオーツの瞳はとろりと下がっていた。
常に穏やかな微笑を浮かべて、おっとりとしていた。
「お嬢様、今日も森へ行かれるのですか?」
フローラの母は伯爵の元妾で第三夫人だった。それゆえに他の兄弟や第一、第二夫人から疎まれ、本邸から遠く、森に近いような小さな別邸で、数少ない使用人と共に暮らしていた。
お付きの新人メイドが尋ねると、フローラはニコリと笑う。
「ええ、お花を摘みに行きたいの」
森にいるフローラは、まるで妖精のようだった。あまりに完成された美を前に、メイドは息を呑んだ。
フローラはそんなメイドを気にも留めず、森を歩く。ローズマリーを摘んで、ブルーベリーのような房を採って。まるで童話のような世界だった。
「お嬢様はいつも笑っておられますね!」
メイドは褒めたつもりでそう言った。なんの他意もなく。
フローラはふわりとスカートを揺らして、メイドの方を振り返る。歩みは止めず、手は後ろに。まるで内緒事かのように囁く。
「だって、その方がお母様も、お母様以外も、みんな機嫌がよろしいでしょう?」
……フローラの母は、機嫌が悪くなるとフローラを無視したり、殴ったりしていた。顔だけは気に入っているらしく、腕や足など隠れる場所を傷つけた。
メイドはそのことを思い出し、露骨に落ち込んだ。聞いてはいけないことを聞いてしまったと思った。新人なのに早速別邸に送られた理由がよくわかる顔だった。
「……なんて、嘘よ。元々こういう顔なの」
メイドは純粋だったため、わかりやすくホッとした。フローラはまた笑った。七歳に気を遣われる十八歳児とは一体。
「どうかなさいましたか?」
また自由気ままに花を摘み始めたはずのフローラが足を止める。そこにはイタチの亡骸があった。まだ死んで間もないらしく、血溜まりができていた。
「お嬢様、大丈夫ですか!?」
田舎出身のメイドは見慣れているらしく、まずフローラの心配をした。フローラは悲鳴も上げずにスッとしゃがみ、イタチを想って手を組んだ。
「……この子を埋葬したいわ。何か土を掘れる物を持ってきてくれる?」
メイドは感心して、別邸の庭道具入れへと走った。
フローラは優しいと評判だった。
小鳥が巣から落ちれば拾いに行き、誰かが怪我をすればすぐに止血用にハンカチを渡す。
────しかし、可哀想だからなんて子供らしい可愛い理由じゃない。
「……ふふ」
フローラは、ただ単に、落ちた小鳥はどのように死んでいくのか、人はなぜ血に驚くのか、興味があった。だからと言って、ただただジッと見ていると、人々はフローラを怖がる。けれど、親切を装えば、誰もが褒め称える。
「ローズマリーを一緒に埋めたら、少しは腐りにくくなるのかしら?」
別邸には本の虫だったとされる伯爵の大叔父の遺品がたくさんあり、フローラの少し危ない知的好奇心は膨らむばかりだった。
「フローラ!! どこにいるの!!」
ちょうどメイドがシャベルを持ってきたところで、フローラの母の声が、森まで響いた。