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第11話 干渉波の罠

 黒曜武廟へ続く一本廊──壁も天井も黒曜石が溶けかけたまま固まり、ところどころから焦げ茶色の液体が雫を垂らしていた。光が当たると琥珀のように透け、落ちた瞬間には紫の稲妻が奔る。ラファエルが一歩踏み出したとたん、王紋剣の鞘が甲高い震鳴を上げた。

 「干渉波だ。剣紋が――熱い……」

 負傷の右腕から血紋が広がり、剣と繋がった符文が赤黒く脈動する。リディアは影鍵杖で検知符を走らせた。

 「影干渉波が剣紋を逆流させてる。下手に振れば自壊するわ」


 天井から滴る黒曜液が床へ落ちるたび、波紋状の影光干渉が拡散する。エリンは携帯干渉計を展開し、廊下全域を走査した。ホログラムに浮かんだのは無数の泡――影光混相バブル。触れれば魔力が反転し、昏倒の危険すらある。


 「安全な通路を作るわ」リディアが言うと、ミーナの光翼が淡く広がった。第三律のハミングが廊下を満たし、泡の表面が薄紫の膜となって固定される。リディアは影鍵で固定バブルに穴を開け、光と影のトンネルを編んだ。

 ロキが先頭で光屈折刃を振るい、ジゼルが鉤鎖を運び、エリンが後方でデータを更新しながら進む。紫白のシャフトが数メートル伸びるごとに泡が押し返そうと歪むが、ミーナの歌が位相を保ち、道は安定した。


 残り七十メートルを切ったころ、廊下全体へ獣の嗤いに似た衝撃波が走り、トンネルが一瞬で崩壊した。ディアベルが遠隔干渉波を増幅させたのだ。

 黒と白の光塵が吹き荒れ、視界が歪む。ロキは足を奪われ、ラファエルは剣紋から血を噴き、膝をついた。光粒が瞳孔を穿ち、全員を各々の過去へ引きずり込む。

 ロキは雨夜に立ち、父の胸に刺さる短剣を見つめた。ラファエルは処刑台で人々の怒号を浴び、リディアは炎に包まれた研究塔と師の絶叫を再び聞いた。


 幻視の闇が足を絡める。震えるミーナは光翼を広げ、まだ名もない高音を紡いだ。結界が仲間を包み、幻視が薄れる。

 「見えているなら言葉にして……闇は声にすれば影に戻る」

 ロキは父の名を、ラファエルは民の赦しを、リディアは師の真意を声に乗せた。闇が霧散し、泡は安堵のようにしぼんだ。


 「行くぞ!」ロキが床へ剣を突き立て、刀身を中心にプリズム塔を組み上げる。斬れ端を差し込み、影光を乱数化する即席結界を広げた。

 エリンの逆転コイルが爆ぜて煙が立ちこめたが、その衝撃を盾にしてロキは剣塔を押し出し、ジゼルが斧で砕けた床を跳び越える。

 三十メートル、二十――塔が飽和寸前に赤熱した瞬間、乱数化領域が閾値を突破し、バブルが鎮静化。安全域が武廟外郭まで一気に開いた。


 だが干渉波の芯に踏み込んだ途端、王紋剣が絶叫を上げた。符文が真紅へ変色し鞘ごと蒸発しかける。

 「剣を封じる!」ラファエルは決断し、剣を岩盤へ突き立てた。ミーナが翼で包み、リディアが影鍵で鎮魂封を施す。剣は沈黙し、王の命は繋がれたが、武器は失われた。


 姿を現した黒曜ドームは広大な闇の天蓋。表面を流れる黒曜液が宝珠の赤光を鏡のように映し出す。中心には二重扉、その奥で双剣影が蠢く。

 ミーナの翼が疼き、胸の奥の鼓動が速まる。時間が圧縮されるような息苦しさ。


 そのとき通信札が震え、ユリウスの声がざらついた雑音にのって届く。

 「カプセル残骸を北端で発見……敵影あり……第三便を最優先で組む。必ず届ける!」

 ルーカスの声が割り込む。「商隊を転用する、損失は構わん――絶対に戻れ!」


 端末に新たな警報。《圧入ラインF開放 残十九時間十二分》。壁面が脈動し、瘴気が再上昇する。


 二重扉がゆっくり開き、ディアベルが宝珠を掲げて立った。黒羽の外套が闇と溶け合い、紅紫の宝珠は心臓のように脈打つ。

 「王は剣を失い、巫女は翼を震わせる。どちらを捧げる?」

 ロキが一歩踏み出し、光屈折刃を逆手に構えた。「おまえに差し出すものは何もない」

 ディアベルの口端が釣り上がり、宝珠が紫炎を吹く。「ならば双剣の影が裁くとしよう」


 ロキが足を踏み込み、ジゼルが斧を握り、リディアは影鍵杖を突き出す。ラファエルは封じた剣を見やり、拳を固めた。ミーナの翼から光粒が舞い、仲間の鎧を照らす。

 闇が咆哮で応えた。残る十九時間十二分。宝珠も王も翼も、影の双剣には渡さない――戦端が、今、開く。


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高橋クリスのFA_RADIO

https://open.spotify.com/episode/5o8r4G8G8wM49y0aqmWGJs?si=MwS0LJLESEW2K52_rUwNnQ

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