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受験生の熱い想い

作者: 月峰赤

思いついた話をササッと書いてます。


お暇つぶしにどうぞご覧ください。

大学受験まで残り1ヶ月に迫り、名倉は図書館で勉強をしていた。


2階にある自習スペースには名倉と同じくらいの男女が、至る所で参考書や問題集とにらみ合っている。


その中でも比較的出入り口に近く顔を上げれば入り口が見える場所に名倉はいた為、誰かが入ってくるとすぐにわかってしまう。


入り口のドアを含めた一面がガラス張りになっていることから、向こう側からもこちらが見えるようになっている。


一段落して大きく伸びをすると、天井に近い壁に丸い掛け時計が見えた。時刻は13時を過ぎたところで、名倉がここに来てから3時間は経っている。


時間を認識したことで、気付かなかった空腹感が出てきた名倉はそろそろ昼ご飯を食べようかと考えたとき、ガラス張りになっている壁のところに一人の女性が立っているのが見えた。


ライトブラウンに染めた髪を後ろでまとめており、前髪は左右に分けてカマキリの触角のようだ。化粧なのか分からないがはっきりと大きな目は自習スペースの中をキョロキョロと見渡している。


綺麗な人だなと名倉は思ったが、顔から下の格好に首を傾げた。黒い外套で体を包んでいたのだ。まるで美容室で髪を切るときに身に着けるガードを足元まで伸ばしたみたいになっていた。


その人に目を離せないでいると、やがて女性がこちらに気がついたのか、目線がぶつかった。女性は驚いたような嬉しいように表情を変化させると、にっこりとほほ笑んだ。


名倉は恥しくなって視線を落としたが、何かもったいない気がして再び女性を見た。


改めて見た女性の姿に、名倉の釘付けになった。

女性は外套を脱いで裸になっていたのだ。


さほど大きいとは言えないが綺麗な形をした胸が名倉の視線を外させてはくれなかった。いったい何が起こっているのか分からなかったが、この状況に対する答えを名倉は持ち合わせていなかった。自然の流れるままに、まるで石となって彼女を見つめる存在にしかなれないでいる。


やがて女性は満足したように外套を羽織り直すと、名倉の意識は自分のもとに帰ってきた。


女性はそのまま振り返って歩き去ってしまったが、名倉はそこから未だに目を離せないでいる。呼吸が荒くなっているの気が付いた。心臓の音もしっかりと聞こえてくる。熱くなる体を脱力感で抜き取ろうとするが、すぐにそれが無意味なことであると理解した。


急いで参考書や筆記具をカバンに仕舞い、自習スペースを後にする。女性を探すためだ。

しかし図書館のどこを探しても見つけることは出来なかった。

もう図書館を出たのかと自分も外へ飛び出したが、やはり女性の姿は何処にもなかった。


鋭い音を立てて風が吹く。1月の風は冷いはずなのに、体に残った熱を取ることは出来なかった。


図書館の中に戻り、先程女性が立っていた場所に向かう。ガラス張りの壁の前に立つと、中の様子が一望できた。中では多くの受験生が静かな熱を発していた。それは今自分が持っている熱とはまるっきり違っている。席はすでに埋まっていたが、名倉にとっては関係が無いように思えた。


再び女性のことを考えたとき、不思議な香りがしていることに気が付いた。犬の様に辺りを嗅いで回るが、その香りが放つ実態を見つけることは出来なかった。


しかし名倉にとってはこの香りと女性を結びつけることは難しくなかった。この香りを覚えておけば、また女性に会ったときにすぐに気が付けると思うと、名倉は空気をいっぱいに吸ってその場を後にした。




受験は失敗した。

ここまでお読み頂いてありがとうございます。

少しでもお暇が潰せたなら大変うれしく思います。


よろしければ感想など教えて頂けると有難いです。

それが楽しみまであります。

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