61-65
61チューリップ
チューリップが咲いた
チューリップが咲いた
真っ赤なチューリップが
普通のうちのただの花壇にチューリップが咲いた
真紅が咲いて
黄色も咲いて
ピンクも咲いて
賑やかだけど
あちこちに向いて
見てくれの悪い
うちの庭のチューリップたち
どっち向いてんの
と言ってみたところで
聞きやしないさ
そよ風に揺れてるチューリップたち
チューリップが咲いた
他の花も咲いた
春が訪れた
ぼくには用事のない春が
他の誰かのために
やって来て
うちの庭に足跡を残している
62ピーナッツ
ピーナッツは真円から程遠い
丸さがある
ピーナッツはむしろ楕円に近いが
楕円からみると凸凹しててやはり程遠い
ピーナッツはバターにすると
美味しい
ピーナッツだけでも
美味しい
ピーナッツはふたつあると
歌を歌う
古くて人によっては懐かしい歌を歌う
ピーナッツは2つに割れると
きれいにすっきりと分かれる
でもピーナッツは割れてないとき
きれいだとは生まれて一度も言われたことがない
ピーナッツだってきれいだと言われたいだろう
しかし現実は残酷だ
不細工なものにきれいとは言ってはいけない
嘘がすぐバレるからだ
ピーナッツは知っている
じぶんが不細工であり、美感からは外れてしまっていることを
ピーナッツはもうひとつのピーナッツに似てはいるが不揃いだ
性格も個性も不揃いだ
それでもみなは等しくピーナッツはピーナッツとしか呼ぶしかなく
区別することはない
ピーナッツは欲しかった
自分だけの名前を
そして誰かからの愛着を
唯一無二の存在に思われたかった
ピーナッツはやはりピーナッツでしかない
なぜなら
ぼくの口の中でもうボリボリ食われているからだ
63図書館
方向音痴なので
図書館が入るビルを一周して
ようやく入口を見つけて
三階の図書館に辿り着く
図書館は真新しく明るくきれいだ
区の肝いりで作られたため
蔵書は豊富だ
目移りする
その中から
気になる本を手に取る
倉本聰の本
きっとドラマのような
美しい言葉で溢れてるだろうと
試し読みせずに借りた
家に帰ってさっそく読んでみたら
ただの思い出話だった
しらんおじさんのしらんともだちが
どうのこうのと書かれていて
十数ページ読んだだけで
図書館に返却した
返すときもやはり入口がわからず
ぼくはビルを一周した
借りた本を返しはしたが
ぼくの苦労を返してほしい
ぼくが図書館に貸した苦労は
これで四度目だ
それが未だに返って来ていない
64笑顔の花
野原にいっぱいの花が咲いている
花はみんな笑顔だ
花がわらってる
花がわらってる
花がわらってる
花がわらってる
花がわらってる
花が怒ってる
花がわらってる
花がわらってる
花がわらってる
花がわらってる
花が泣いている
花がわらってる
花がわらってる
花がわらってる
花がわらってる
花がわらってる
花がわらってる
花がわらってる
花がわらってる
花がわらってる
花がわらってる
花が叫んでる
花がわらってる
花がわらってる
花がわらってる
野原にいっぱいの花が咲いている
花がみんな笑顔だ
65音楽を歌う
音のない音の世界で
くらやみは笑ってる
光のない光の世界で
トカゲはじぶんの尻尾を切る
感触のない感触の世界で
ひとは恋しさを
求めて
誰でもいいと
いもしない他の人を探して彷徨う
太陽は月に喧嘩を売り
月は太陽を愛し
星星はダンスを踊る
そしてぼくは歌詞のない音楽を歌う