そして世界は反転する
初投稿です。よろしくお願いします。
―――その昔、伝説と呼ばれた男がいた。
罪人を討伐し、権力者を廃し、数々の強者に認められ、邪神さえも下した。
だが、男は一人だった。救いの手は届かず、友を殺し、ただ、力の無い自分を嘆き続けた。
「いつか、誰でもいい。私の後に続く者たちの中で意思を、力を求め続けてくれ。」
長い時間を渡り歩いた男は、遂に自身の限界を悟り、後に続く者たちに自身の力を託したのだ。――――――――――――――――
「先生、その話は聞き飽きました。」
一人の少年がいた。何処にでも居る、ごく普通の少年だった。英雄に憧れ、冒険譚に目を輝かせる。何処にでもいる凡庸な人間だったのだ。
「アルト様、創始者様のお話をそのように斬って捨ててはいけません。もっと敬わなくては。」
だが、彼のいる場所は普通では無かった。そこは、強さを是とし、生きる者は全て序列によって支配される混沌とした場所だったのだ。
「あなたは、あの煉獄を生き抜いた唯一の生存者だ。これから序列を上げる事も可能だし、後見のガロア枢機卿のお役に立てる時だってきっと来る。」
「先生、俺はそんな高望みはしませんよ。直系の方々も居ますし、精々邪魔しない様に隅っこで細細と生きますよ。」
「って思ってたんだけどなぁ。」
きっつい修練に耐え序列に関係なく任務をこなして早6年、泣きながらヒィヒィ音を上げても俺をしごき続けた先生よろしく甘んじていた時も今は懐かしい。
「アルト様、会議のお時間です。」
「ああ。今行くよ。」
一族の序列の更に上、8柱の枢機卿の第3席となった俺を笑う者はもういない。それほどまでに変わってしまったのだ。
「本当にあの時、死んでおけば良かったなあ。」
彼の名はアルト・フォン・シュナイダー。沈黙と呼ばれた剣士である。