陽斗目線
俺はそこまで馬鹿じゃないから、少しすれば気が付いた。きっと、あいつにとっては、別に俺じゃなくてもよかった。
拓海と初めて会ったのは、部活のときだった。拓海に初めて会った時に抱いた第一印象は、他の部員と何ら変わりない、特別何か印象に残ることもない、普通の部員の一人だと思ってた。
「俺は友田陽斗。お前は?」
「俺は小櫛拓海。よろしく、友田」
「よろしくな、拓海。クラスでは見たことないけど何組?俺三組ー」
だから、別にそこまで仲良くなると思わなくて、適当に話していた。それなのに、拓海は俺の話に異様に食いついてきた気がする。今思えば、この時に拓海が反応していたのは、俺自身のことではなく俺が三組にいるってことだった。
その話をしてから、拓海が俺を飯に誘うために、俺のクラスに来ることが増えた。最初の頃は、俺のこと好きすぎだろ、なんて暢気に考えて自惚れていたが、少しすれば気が付いた。俺のクラスに来た拓海は、俺の方を見ていなかった。あいつの視界に入っていたのは、俺ではなくて田鎖とかいう女子だった。
その様子を見れば、俺じゃなくてもこのクラスに来る理由さえあれば、誰でもよかったことなんてすぐにわかった。それが何となく悔しくって嫌だった。それで、意地になった俺は、拓海に関わりにいくことが増えていった。それでもどこか、友情の深さには差があったと思う。
だからこそ、田鎖が亡くなったときに不安定になった拓海のそばに居たのは、下心があったと思う。下心とはいっても、優位な立場を取りたい、見下したいとかそういうのじゃなくて、対等な友人同士になりたかった。
そんな不純な動機だったから、無神経な言い方になってしまったのかもしれない。
「いつまでも引きずるなよ。女は星の数ほどいるんだから田鎖のことは忘れて、…ごめん良くない言い方だった」
けれど俺の後悔とは裏腹に、その言葉を聞いた拓海は嬉しそうな顔をしていた。そのせいで、拓海が立ち直ってくれたと思って、安心してしまった。
「ごめん。心配かけた」
「別にいーよ」
これで前よりも友情が深まって、なんて考えていたが、事態は何も解決していなかった。それからしばらくの間、ずっと不気味に空元気だった拓海のことをただ見ていることしかできなかった。
それなのに、二年生の修了式が近づいたある日、急に拓海が吹っ切れたような様子になっていた。その姿を見て、俺がいないところで拓海が勝手に立ち直っていたことに気が付き、少し悔しかった。俺は何の力にもなれなかった。勝手にそう思っていた。
「普段の感謝を込めてだよ。お前には色々世話になってるからな」
けれど拓海がそう言った時、初めて本音が聞けたようで嬉しかった。こんな面倒くさいやつと友達を続けられるのは、きっと俺みたいな意地っ張りだけ。だから、これからも俺は拓海に関わり続けてやる。