これからも
あれからさらに13年、やっと戦争が終わった。
世界大戦にまで発展したこの戦争は、正確には終わってないのだと思う。けれど、もう国は戦いの終了を世界に宣言するのだと言う。防衛のために残される者達を除き、帰還命令が下された。
そして軍部会議室に呼び出され、幹部達の前に立たされた。ここでも向けられる数々の視線は、相変わらず冷ややかだった。葉巻の煙が煩わしい。はやくジェーンに会いに行きたいのに。
「君の噂は聞いていたよ、ルナーク」
髭を蓄えた男がゆっくりと話し出した。
首元についている星の数と、胸についている勲章から、軍事総司令官であることが分かった。
「…光栄です」
僅かに眉を顰めたが、その男はさらに話を続けた。
「君の力によって我が国は多くの勝利を掴んできた。…感謝しているよ」
今度はまた別の男が話し出した。
「なんでもジェノワール河川の戦いでは、その河川の水を使い、一人で敵陣営を全滅させたとか。初めて聞いた時は耳を疑ったよ、恐ろしい力だね」
「……恐縮です」
なんだか良くない流れだな、とどことなく感じていた。はぁ、とため息とも聞き取れるような様子で葉巻の煙を何人かの男達が吐き出した。
「…はっきり言おう。我々はね、もう戦争を続ける力がないんだよ。皆、疲れてしまったんだ。君も聞いているだろう。1週間後、世界に終戦の宣言を行うと」
「はい。帰還する際にそうお聞きしました」
「君は、最も多くの敵を殺してきた。故にあらゆる国から恨まれている。そうだね?」
「…何をおっしゃりたいのか、分かりかねます」
ドクドクと心臓が騒ぎ出す。嫌な、予感がする。
総司令官はゆっくりと、言い聞かせるように話し出した。
「…君にこの国の"英雄"になって欲しいんだよ。国際処刑にて、君の処罰を持って終戦の宣言としたい」
この男は、つまり私に死ねと言っているのだ。
「……それ、は…承知しかねます」
「はぁ…残念だよ、ルナーク」
たっぷりと間が開いたのち、ちっとも残念そうに見えない様子でそう告げた。
「失礼します」
ガチャ…と会議室の扉が開けられた。
ノックの後に続いた声は、ずっと聞きたかった、会いたかった人の声。こんな状況下だというのに、思わず気色を顔に滲ませた。
「ジェーン…!」
しーっと指を立てて前を向くようにジェスチャーされた。大人しくそれに従ったその時。
ブスッと背中に何かが刺さった。
「ジェーン…?!」
振り向こうとしたけれど、その顔が見える前に意識は暗転した。