信じて
再び起こった戦争で、求められるままに敵を殺していった。ただ、ひたすらに。言われるがままに。
「この化け物が…!」
「お前さえいなければ!!」
「辞めてくれ!待っている家族がいるんだ、死にたくない!助けてくれ!」
「悪魔を使役するお前ら王国などに未来はない!」
そう言ったのは敵国の兵士達。
「なんて恐ろしい、魔法を一回ぶっ放すだけで1000以上の軍勢を殺してしまうなんて…」
「敵の方に同情すらするね、味方であって良かったと言うべきか」
「まああいつのおかげで、戦場が楽になるのは間違いないが、一体いつまでこの戦争は続くのか」
「世界大戦にまで繋がるんじゃないかって噂だぜ」
「そりゃ無理だろ、国が持たねえよ」
「しっ!静かにしろ。おい、悪魔様がいらしたぞ」
そう言うのは味方の兵士達。
戦場で人を殺し始めて5年が経った。この戦場に立ち続けてからというもの、何かがすり減っている気がした。鼻の奥にこびりついて離れない血や、焦げた人の匂い、夢にまで出てくる断末魔。
同じ戦争に出ているのに、仲間同士であるはずなのに、事務的な話しかしたことが無い。お前は特別だから、関わらなくて良いとそう言われた。
ヒソヒソと話が聞こえてくる。
わたしの耳がいいのか、彼らの声が大きいのか。
またはその両方か。
「…ルーディのやつ、脱走兵としてこの間殺されたらしいぜ、なんでもあいつに」
「脱走兵の処理もやってるって、やっぱり本当なのか」
「あいつが来る前は、金を積めば見逃してもらえたらしいが…金かき集めてたけど、ルーディはダメだったんだな」
「あの"何でも治す薬"のせいで、怪我はすぐに治っちまうからな…前までは戦場から離脱して休めるくらいの怪我が、戦場から離れる理由にならなくなっちまったのは正直きついよな」
「もう俺3年も家族に会ってねぇよ」
「…戦争が終わったら、みんなで浴びるように酒飲んで、腹一杯食おうぜ!それまでお前ら死ぬんじゃねえぞ!」
「おいおい、そう言うこと言う奴が1番危ないんだぞ、まあ、でもそうだな、そん時は言い出しっぺのお前の奢りな!」
「お前なあ!」
賑やかな笑い声の中、一人で黙々と食べる。
何でも食べていたあの頃の物よりも、良い物のはずなのに、大した差を感じなくなってしまった私は、随分と贅沢になったらしい。
ふと思い浮かぶ。柔らかな笑顔を向けてくれるのはジェーンだけだった。ああ、ジェーンにはやく会いたい。
戦争が終わったら、ジェーンと過ごしたあの頃のように、穏やかにジェーンと共にいたい。だからこそ、今は頑張らなければ。